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「レーニンは死ぬ前にキノコになった」というデマはなぜ本当に多くの人に信じられたのか?


ロシアでは、「レーニンはキノコだった」という表現が大衆のだまされやすさを示すときに使用されます。これは実際に「キノコが好きで大量に消費していたレーニンは最終的には本当にキノコになってしまった」というテレビの調査番組が多くの視聴者に信じられてしまったことに端を発しています。なぜこのような状況が起こってしまったのか、海外メディアのAtlas Obscuraがまとめています。

How Vladimir Lenin Became a Mushroom - Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/lenin-mushroom-hoax-russia

「レーニンは死ぬ直前に文字通りキノコになった」という話が現れ、多くの人々に信じられることになったのは1991年、ソビエト連邦が崩壊する1カ月前のこと。それ以前の国政は不条理で溢れており、ソビエト連邦の崩壊が国民にもたらした変化は現在からは想像しがたいほどに大きく、変革の時期にあったからこそ、通常であれば「ありえない」と片付けられてしまうことでも多くの人が信じてしまう結果になりました。

by Ben Sutherland

カリフォルニア大学で社会文化および言語人類学を研究するAlexei Yurchak准教授は「1991年になるまで、この種のデマは想像できないものでした」「他の誰かではだめだったと思います。レーニンだったからこそ、デマであると信じるのが難しかったのです」と語っています。

このデマを広げたのは、当時ミュージシャン・アーティスト・パフォーマーとして活躍していたSergey Kuryokhin氏。ペレストロイカからグラスノスチの時代にかけて文化的な規制が緩み始めたころ、ロシアでは若手ジャーナリストのSergei Sholokhov氏をホストに起用した「Pyatoe Koleso(第5車輪)」という調査番組が放映されていました。それ以前は報道規制が厳しかったため、新しい時代に入り多くの調査報道番組は「これまでの自国の歴史はどのようなものだったのか」ということに焦点を置きました。多くの人がメディアに興味を持ち、信頼しており、第5車輪についても何百万という視聴者が新しい情報源として番組を見ていました。

番組のホストだったSholokhov氏はスターとなった若手ジャーナリストの1人。表面的なコメンテーターではなく、学識の深い調査型のジャーナリストだとして人気を博しました。


この番組に「学者」として出演したのがアーティストのKuryokhin氏です。Kuryokhin氏は、レーニンが数年かけてマジックマッシュルームを摂取し続けた結果、最終的に自身がキノコに変貌してしまったと主張。そして、レーニンのキノコ化がロシア革命を激化させレーニンに力を与えた可能性があると示しました。メキシコでもマジックマッシュルームが関連した同様の出来事が起こっていたことを示すアートが存在するとして、証拠としてのアート作品も提示されました。最終的にKuryokhin氏は、ロシア革命のプロパガンダが成功したのは薬物の力だったと主張しています。

Sergey Kuryokhin: Lenin was a mushroom / С.Курехин: Ленин был грибом, part 1 - YouTube


「私は、十月革命がこれらのキノコを食べていた人々によって進められたという否定できない証拠を持っています。そして多くのキノコを摂取していたレーニンは最後には菌に意識を完全に奪われてしまったのです」「キノコを消費していた人たちは人格を入れ替えられ、キノコ化しました。別の言葉で表すなら、私はシンプルに『レーニンはキノコだった』と言いたい」とKuryokhin氏は番組で語りました。

Kuryokhin氏はレーニンとスターリンの共通点についても言及。レーニンが「キノコを食べたあとはいい気分になる」と言っていたことや、キノコのようなものがレーニンの写真に写っていたこと、マジックマッシュルームの根の構造とレーニンがスピーチを行った時に乗っていた装甲車の図解の比較などを証拠として次々に示しました。しかし、これらの証拠が映されたのは短時間で、多くの視聴者はこれらの証拠がばかげたものだと見分けることができなかったそうです。

by Igor Yemelianov

Kuryokhin氏が語る間、ホスト役のSholokhov氏が真剣な表情で熱心に耳を傾けていたこと、そしてマジックマッシュルームに詳しい菌類学者へのインタビューを事前に収録して流していたことも、デマが信憑性を増した一因だと考えられています。なお、このインタビューでは、レーニンに関することは聞かれませんでした。

Yurchak准教授の調査によると、番組がデマであると即座に認識した人は少なく、多くの視聴者は当時困惑し、どう判断すべきか分からなかったといくことを記憶していたといいます。

Kuryokhin氏が出演したイタズラ放送回は、人々に「テレビで見ているものは真実なのかどうか?」と考えさせるものとなり、放映後、Kuryokhin氏はロシアで大きな人気を得ました。

時代背景やレーニンの人物像といった要素が関わっているとしても、本質的に多くの人は上記のような「デマを信じやすい」性質を備えているといえます。「多くの人は、そこに証拠があるのかどうかを知りません。しかし『証拠があるからこそ議論されるのだ』と仮定してしまうのです」とYurchak氏は語っています。

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in メモ,   動画, Posted by darkhorse_log

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