ゲーム会社から独立してインディーズゲームに参入したある開発者の教訓
by Glenn Carstens-Peters
GameloftやMobility Gamingといったゲーム製作会社で7年間働いたあとに、フリーのゲームデベロッパーとなりインディーズゲームを公開することを決めたコンスタンチン・バシオウさん。現在、バシオウさんは「12月の家賃を払えるかもわからない」という状況に陥っているそうで、会社勤めを辞めてインディーズとして働くことの危険性を説いています。
Gamasutra:Constantin's Blog -[Post Mortem]: I thought I cou
https://www.gamasutra.com/blogs/ConstantinBacioiu/20171121/310012/Post_Mortem_I_thought_I_could_ship_at_least_700_units_to_stay_in_business.php
7年間にわたってゲーム製作会社で働いてきたバシオウさんは、2006年にゲームクリエイター向けのフォーラム上で、BASICやC++といった言語を用いてゲーム開発を始めました。当時、東ヨーロッパで入手できる手頃な価格のエンジンはなかったため、バシオウさんは普通よりも難しい方法でゲームをコーディングする手法を学んだそうです。
試行錯誤の末、バシオウさんはDirectXやOpenGLなどに依存したゲーム製作を行うようになっていき、その後、10年以上開発を続けてきた経験から、ゲーム業界で生き延びるために必要な技術・ノウハウ・知識・経験はすべて得られたと感じ、仕事を辞めてフリーのデベロッパーになることを決意します。
by Simon Abrams
仕事を辞める際、バシオウさんは少なくとも4か月は働かなくても済むだけのお金を確保し、その直前に製作したゲームが6か月間はお金を生んでくれると目論んでいたそうですが、今になって振り返ると「ゲーム開発以外の法律などについてもしっかり学ぶべきだった」とのこと。また、もしも会社を辞めてフリーになろうと考えている人がいるならば、「自分が想定しているお金の3倍以上は貯めておくべき」と語っています。
バシオウさんは辞表を書いている際に、既に自分がリリースする予定のインディーズゲームの準備を進めていました。そのために必要なお金も用意してあり、ビジネスを始めるために必要な調査も行っていたそうです。しかし、ビジネスとしてのゲーム開発は想像以上のもので、継続するために必要な情報を調べ足りていなかったとのこと。
例えば、ゲームを販売して多額の収入を得るとします。その時、登録した銀行口座に1万5000ドル(約170万円)を超える振り込みが合った場合、マネーロンダリングではないことを示すために取引の詳細をアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)に提出する必要があり、これには150ドル(約1万7000円)の手数料が必要となります。
他にも、バシオウさんは細かな手続きなどを代行してもらうために会計士を雇うことに決めたそうですが、その費用は毎月30ドル(約3300円)とのこと。さらに、書類を提出する権利を与える公証人からの書類に80ドル(約9000円)など、さまざまな想定外に出くわし、最終的にはビジネスをスタートする前段階で予定より550ドル(約6万1000円)も多くの出費がかさんだそうです。
また、仕事を辞めた後に自宅兼オフィスとしてアパートを購入したバシオウさんは、自身の前にアパートに住んでいた住人が部屋の一部を破壊していることに気付きます。これの修繕はポケットマネーで行う必要があったため、バシオウさんは前の住人を告訴する予定と語っていますが、そのためには600ドル(約6万7000円)ほどの資金が必要になるため、現時点では弁護士を雇うことはできていないとのこと。
by Fabian Blank
この時点で貯蓄は半減していたそうですが、バシオウさんはゲーム開発を続け、PCゲーム販売プラットフォームのSteam上で完成したゲームを販売するという夢を諦めてはいませんでした。当初の目標は、「自身の作ったゲームが700回ダウンロードされること」であり、財政面でいえば「300回ダウンロードされれば当面のやりくりには困らない」といった感じだったそうです。
ゲーム開発に関するノウハウはこれまでの経験でしっかり蓄えられていたため、開発自体はスムーズに進行したそうです。LinuxとWindowsで開発したゲームをテストしたところ、大きなバグもなく、Steam上で配信したベータ版も好評だった模様。さらに、完成したゲームの配信開始日を「11月に最もゲームのリリース数が少ない日」にする余裕すらあるほど、開発は順調に進みます。しかし、実際に発売間近になると、Steamユーザーが欲しいゲームを登録する「ウィッシュリスト」に入れられた数の通知が1日1回しかなく、売上情報もリアルタイムではチェックできない点にストレスを感じたと語っています。
そんなこんなの紆余曲折を経てバシオウさんがついにリリースしたのが、「Ebony Spire: Heresy」というゲーム。
Ebony Spire: Heresy on Steam
実際に配信開始日になると、ゲームを購入した人々がコミュニティ上にスクリーンショットを投稿していました。ニュースサイトにメールを送ったり、Twitterから情報発信したりと、バシオウさんは予算内で可能な限りの宣伝活動も行っていたため、売上はそれほど低くならないのではと考えていたそうです。
さらに、配信直後にはSteamのトップページの「New and Trending」内にバシオウさんが作ったゲーム「Ebony Spire: Heresy」が掲載されており、多くの友人やSNSのフレンドから祝福されたとのこと。
赤枠部分にあるのがバシオウさんの「Ebony Spire: Heresy」
そして販売数ページを更新すると、ウィッシュリストには500件登録されていたものの、実際の販売数は60本でした。これを見たバシオウさんは、「Steamはリリース後の1時間以降はデータを更新しないから、実際の数字は明日の朝に確認しよう」と思い、その日は眠ったそうです。しかし、次の日になっても販売数は68本とわずかしか伸びておらず、自身の作ったゲームをYouTube上で実況プレイする人や、話題にしたスレッドがreddit上に立つといったこともありませんでした。
そこで、バシオウさんはフォーラム上でEbony Spire: Heresyを購入した人々がどんなことを語り合っているのかを確認し、リリースからの3週間、絶えずゲームの更新を続けたそうです。その後、追加で90本ほどゲームが売れ、ゲームを称賛するブログ記事などもいくつか登場するようになりました。中には「Linux上でプレイ可能なゲームとしてはかなり素晴らしい」と評価してくれる人もいたそうですが、Steamのページ上に書かれたレビューの件数はたったの9件だったそうです。結局目標としていた販売数の700本には遠く及ばず、1月まで生きるために必要な最低限の売上目標としていた300本にも及ばない、160本しか販売できず、現在はとにかく今後の見通しが立たない状況とのこと。
by Cristian Álvarez
この経験についてバシオウさんは「魂を粉砕するかのような経験」と表現しており、来月の住宅ローンも支払うことができないかもしれないし、今後自分のゲームを販売するために今回のようにリスクを冒すことはもう怖くてできない、としています。
なお、バシオウさんは良い価格で十分ニッチなゲームを、良いリリース日に配信することができたと思っていたそうですが、それでもゲームは売れず、このようなブログを書く羽目になってしまったということで、「大きな失敗に苦しむ覚悟がない限り、インディーズには手を出さないでください!」「あなたが今、業界や仕事、ゲームを愛していると感じるなら、私と同じような気持ちになって欲しくない」と語っています。
もちろんこれはバシオウさんの話ではあり、一夜にして大金を稼ぐゲーム開発者がいることも確か。それでも一定数の人が失敗に陥ってしまうことは間違いなく、定職を持っているのにインディーズゲーム業界に踏み入ろうという人は、それなりの覚悟を持って挑むべきであることを実感させられます。
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