サイエンス

動物が寝る理由は「記憶の一部を忘れて整理するため」という研究結果が発表される

By ciocci

人間だけでなくこの地球上の動物は全てその生活サイクルの中に「眠る」というフェーズを持っています。なぜ動物は寝るのか、その理由はいまだに解明されていないのですが、近年の研究からは動物は睡眠によって日中の記憶の一部を忘れることで、記憶の整理を行っていることが明らかになってきています。

The Purpose of Sleep? To Forget, Scientists Say - The New York Times
https://www.nytimes.com/2017/02/02/science/sleep-memory-brain-forgetting.html

動物が寝るという行為にはこれまで、消費するエネルギーを抑えるという説や、脳内の老廃物を除去するという説、中には横になって眠る状況を作り出すことで天敵に見つからないようにするという説などが唱えられています。そんな中、長年の研究にもとづく複数の論文では、動物が眠る理由は「その日に学習したうちのいくつかを忘れるため」であることを示唆する証拠が見つかっています。

動物の脳が学習する際には、脳内の神経細胞ニューロン同士を結びつけるシナプスの結びつきを強くする必要があります。この結びつきが強くなることで、ニューロンは他のニューロンとの情報伝達能力を増強させ、記憶する能力を高めることができるようになります。

By Mooganic

2003年にウィスコンシン大学マディソン校の生物学者であるキアラ・チレッリ博士とジュリオ・トノーニ博士らが発表した論文では、昼間に活動する脳の中ではシナプスの生成が爆発的におこり、脳内の神経回路は「ノイズ」にあふれた状態になっており、睡眠によって神経回路の接続のいくつかが解除されることで必要な情報をノイズから浮かび上がらせている、という説「Synaptic Homeostasis Hypothesis (シナプス恒常性仮説:SHY)を提唱していました。

その後、両博士と他の科学者による研究により、SHYを裏付ける間接的な証拠が多く発見されてきました。例えば、マウスの脳から取り出した脳細胞に刺激を加える薬剤を与えてシナプスの生成が確認された後に、ニューロンが自らシナプスのつながりを断ち切る現象が確認されているとのこと。また、睡眠中には脳から出る脳波が弱くなることが知られていますが、博士らはこの現象がシナプスの減少に起因するものであるという見方を示しています。


両博士らが2013年に行った研究では、マウスの脳に含まれるシナプスそのものを顕微鏡で確認することで、睡眠時の脳の変化が調査されています。研究に加わった助手のルイーザ・デ・ヴィーヴォ氏は、睡眠状態と覚醒状態にあったマウスの脳を非常に薄くスライスし、その中に存在しているシナプスの大きさを比較したとのこと。6920個にも及ぶシナプスの観察の結果、睡眠状態にあったマウスの脳では、シナプスの大きさが18%も減少していることがわかっています。

また、別の論文では、「Homer1a」と呼ばれるタンパク質に注目した研究が行われたとのこと。ジョンズ・ホプキンズ大学のグレアム・H・ディーリング博士によって進められた研究では、マウスの頭部に小さな「窓」を作り、脳の様子を観察できる状態にしたうえで、脳の表面にあるタンパク質を発光させる化学物質を加えて変化を調査しています。

その結果、睡眠時にはタンパク質の数が減少したことが確認されたとのこと。この現象はシナプスが弱くなっていることの裏付けであると考えられており、その引き金になるのがHomer1aであることが明らかにされています。ディーリング博士らは、遺伝子的にHomer1aを生みだす能力を持たないマウスを使って検証を行ったところ、これらのマウスの睡眠時には、通常のマウスにみられるシナプスの減少が確認されなかったそうです。この研究からは、眠気を感じることでニューロンがHomer1aを生成し、睡眠に入るとHomer1aがシナプスを実際に減少させていることが示されているとのこと。

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さらに、この違いが記憶にどのような変化を及ぼすのかが検証されています。研究チームは、特定の場所に入ると電気ショックが与えられる小部屋にマウスを入れ、どのような違いが生じるのかを観察しました。部屋に入ったマウスは、ある部分に入ることで電気ショックを与えられるということを学習します。その後、一晩の睡眠を与え、翌日に同様の実験を行うのですが、睡眠の際には一部のマウスに対してシナプスの減少をおこさせない薬剤を与えておいたとのこと。

次の日、同じマウスを再び電気ショック部屋に入れたところ、全てのマウスが前日の記憶を思い出して動きが固まった状態になったとのこと。しかし、これらのマウスを電気ショックのない別の部屋に入れたところ、違いが生じたとのことです。通常のマウスは興味深そうに部屋中を探る様子を見せましたが、薬剤を与えられてシナプスの減少が阻害されていたマウスは、恐怖の記憶により動きが固まった状態になったそうです。

ディーリング博士はこの結果から、薬剤を与えられたマウスは「特定の部屋の特定の場所でのみショックが与えられる」というふうに記憶を整理できていないことが伺えるとしています。これはつまり、眠りによるシナプスの整理が行われないことで、記憶が整理されずにあいまいな状態のまま保持されているということが明らかになったということを示しているとのことです。

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これらの研究により、眠りが記憶の固定化に一定の効果があることが明らかになってきたのですが、まだまだこの分野にはさらなる調査が必要といえる模様。シナプスの減少は「体内時計」の働きであることを示唆する説や、眠りによる効果はあるものの、それが記憶を定着化させる唯一の働きなのか、あるいは多くある機能の一つに過ぎないのかという点が指摘されており、今後もさらなる研究が必要とされています。

まだまだ残された部分は多いものの、少なくとも睡眠によって日中の記憶の一部が消去されることで脳がある種の「リセット」を実行し、記憶を定着させる働きがあることが確認されています。これはつまり、睡眠は記憶と学習に良い効果をもたらしていることを示しており、やはり健康的な生活には適度な睡眠は欠かせないといえる根拠となりそうです。

By Kristen B

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in サイエンス,   生き物,   Posted by darkhorse_log

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