メモ

地元に愛されながら厳しい状況を生き抜いてきた独立系レコードショップが「ロックする」ために採った戦略


幅広い音楽の知識を持つ店主がいて、こだわりの強い音楽ファンが集うレコードショップがかつてはどの街にも1軒ぐらいはあったものですが、大手資本によるチェーン店の台頭、そして音楽がダウンロード販売されるようになって昔ながらのレコードショップは次々と姿を消しています。かつての隆盛の時代を経て低迷し、再び再建に向けた取り組みを進めているレコードショップの取り組みが語られています。

What It Takes for an Independent Record Store to Survive Now | Pitchfork
http://pitchfork.com/features/article/9927-what-it-takes-for-an-independent-record-store-to-survive-now/

2016年4月16日(土)、アメリカ・オハイオ州の州都コロンバスにあるレコードショップ「Used Kids」では、早朝から開店に向けての準備が忙しく進められていました。この日は、「レコードショップに出向き、レコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する祭典」として世界中のレコード店で実施されるイベント「レコード・ストア・デイ (Record Store Day)」で、イベントに参加しているUsed Kidsでも多くの客を迎えるための準備が行われていました。

「Used Kids」は30年の歴史を持つ店で、現在のオーナーは54歳のグレッグ・ホール氏。イベント当日は8時に開店し、来店客には無料のドーナツやコーヒー、ピザや冷たいビールなどが振る舞われ、店内のステージではインディーズのロックバンドやラッパーによるパフォーマンスが行われてよい雰囲気に包まれました。午後になっても店内は人と音楽でいっぱいで、レコードショップが活気に満ちあふれていた1990年代をほうふつとさせる空気が漂っていたとのこと。他のレコードショップの多分に漏れず、Used Kidsも90年代はCDによる好景気の恩恵を受けており、1996年と1997年には年間の収益が100万ドル(1億円レベル)に達した時期もあったそうです。


しかし2000年代に入り、他のショップと同様にUsed Kidsも厳しい時代を迎えます。2001年に店が全焼する火事を出したこともありました。火事の後に店を再オープンすることはできましたが、やはり売上は伸び悩み、従来からのスタッフが去ったり、解雇せざるを得ない状況にもなりました。

ネットで音楽が広がる時代になると、Used Kidsのような小規模レコードショップは「絶滅危惧種」として真っ先にその影響を受けることになります。この流れはコロンバスに限らず、ニューヨークの有名なレコードショップが閉店に追い込まれることもあったとのこと。それでも営業を続けてこれたUsed Kidsにも、さまざまな紆余曲折があったといいます。

そんなUsed Kidsをホール氏は2014年に買い取ったそうです。それまで30年にわたって営業を続けてきたUsed Kidsは、数多くの音楽ファンやミュージシャンが集まる「たまり場」的な存在であり、人同士のつながりの中からさまざまな化学変化のようなものが起こってきたそうです。


Used Kidsは1986年にダン・ドウ氏とロン・ハウス氏によって設立されました。1990年には元の店の横に別館を出店し、雇うスタッフの数も増えるなど順調な店舗運営が行われていた模様。Used Kidsはコロンバスでも有名なレコードショップになり、音楽ファンが集う「ハブ」としての存在感をもつようになり、1995年にはEntertainment Weekly誌に取り上げられるようにもなりました。この頃には、パール・ジャムのボーカリストであるエディ・ヴェダーや、ソニック・ユースといった有名なミュージシャンがお店を訪れることもあったとのこと。さらに、自分たちのレコードレーベルを立ち上げて、音楽プロデュースに乗り出すなどの取り組みも行われていたようです。

このように、90年代は音楽シーンが大きく盛り上がった時代であり、多くの人がレコードショップに足を運ぶ時代でした。ハウス氏は当時を振り返りながら「今の人たちには、90年代にレコードショップに行くことがどれだけワクワクすることだったのか、理解できないだろうね」と語っています。


しかし90年代も後半にさしかかると、状況は徐々に悪い方向へと動き始めます。スタッフのライフスタイルの変化や中心的なスタッフの死、そして売上の悪化などから店を取り巻く状況が悪化。そして2001年6月、電気系統の不具合から出火し、店が全焼してしまうという事態に陥りました。当時の状況をよく知るスタッフは「みんなすっかり正気を失っていました。お店も変わってしまい、当時のスタッフも昔と同じではなくなりました」と振り返っています。


その後、店は再建されましたが、音楽ビジネスがダウンロード販売に大きくシフトする時代にレコード店は苦戦を強いられます。当時のスタッフが店を去り、または解雇される者も。そこからUsed Kidsは厳しい時代を耐えることになります。

そして2014年、Used Kidsでアルバイトをしていたこともあったホール氏が店を買い取ることになりました。店は買い取ったものの、当時は多くの負債を抱えていたこともあり、ホール氏はまともに給料を得ることもままならない状況。それでも「リスクをとることはビジネスの一部」というホール氏はUsed Kidsの再建に向けてさまざまな手だてを取りました。その時にホール氏が考えていたのは「これは生き延びるためにやるのではない。店をロックさせる(活気あふれる状態にする)ためにやっているんだ」ということ。当時のスタッフとの間では、Used Kidsを「ニューヨークとシカゴの間で最もイケてるレコードストアにしてやる」というのが合い言葉だったそうです。


そこからUsed Kidsはさまざまは変革の試みを行います。変化に次ぐ変化が行われ、その様子を音楽スタイルを次々に変化させてきたミュージシャンにたとえて「(デヴィッド)ボウイ的なことをやってきた」とホール氏は振り返っています。

それまでのUsed Kidsはレコードのみを扱うショップでしたが、現在はレコードプレイヤーやオーディオ機器を取り扱うようにもなっています。さらには、1999年に乗り出していたeBayのオンラインショップも売上の一部を占めるまでに成長しているとのこと。

とはいえ、Used Kidsの売上の実に90%を占めているのは、今でも店頭での販売だそうです。ホール氏は商品の仕入れに対してもアグレッシブな姿勢を示すことがあり、他の店では考えられないほどの枚数のレコードを仕入れることで、いつファンが店にやって来てもきちんと商品が並んでいる状態にしているとのこと。さもすれば、在庫が膨らんで店の財政を圧迫しかねないリスクを抱える施策ですが、ホール氏は「在庫リスクのことは理解しているが、それも『クール』な店になるためのファクターの1つだよ。お店に置いていないものは、売ることができないからね」と、リスクをとる理由を語っています。


2016年に入り、Used Kidsはそれまでの場所から離れ、都心部からやや離れた場所に移転しました。人通りの少なくなる郊外に移転することに心配がなかったわけではないのですが、都心部では望めなかった便利な駐車場を利用できること、そして近隣にあるオハイオ州立大学の学生の来店から、新しい流れが生まれることを期待しているそうです。

新しい店がオープンした当日は、特に目立った宣伝をしていたわけでもないのに多くのお客さんが来店したとのこと。しかも、以前の店では見かけなかった新たなお客さんが多かったとのことで、ホール氏は笑顔を浮かべながら「あの人は初めて見る顔だね。あの人もそうだ。とても気分がいいよ」と、新しいお客さんの来店に満足している様子。両手に一杯のレコードを持ってレジに並んでいる男性に「こんなダウンタウンによく来るんですか?」と尋ねたところ、「いや、ほとんど来たことはないね」と答えたとのこと。こうして、また新しい人の流れがお店によって生みだされていくということなのかもしれません。


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in メモ, Posted by darkhorse_log

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