インタビュー

映画「ガラスの花と壊す世界」で世界コンセプトデザインを行った六七質さんにインタビュー


1月9日(土)から公開中の映画「ガラスの花と壊す世界」で“世界コンセプトデザイン”という役職を担当しているのが、イラストレーターの六七質(むなしち)さん。“世界コンセプトデザイン”とはなんぞや?そして、どうやって世界を作り上げていくのか?など、いろいろと聞いてきました。

劇場版アニメ『ガラスの花と壊す世界』Official site
http://garakowa.jp/

顔出しの代わりに……と素敵な名刺をいただきました。


GIGAZINE(以下、G):
今回、六七質さんは「ガラスの花と壊す世界」に「世界コンセプトデザイン」で参加されています。改めて、これがどういう作業をする役職なのかを教えてください。

六七質:
脚本や設定書をいただいて、映像化したときにキャラクターが動くための場所を作り出す、というお仕事です。原案の「D.backup」の設定集とネタ帳もいただいていますが、今回の映画ではそれとは別のシナリオがありまして、設定について「自由に考えてください」という依頼を受けて、作品に携わることになりました。

G:
先日、石浜監督や加藤プロデューサーにインタビューした際、石浜監督が以前から六七質さんの作品を気に入っておられたのでその縁で依頼をしたと伺いました。発注はほとんど制約がない形だったとのことですが、こういうときは、何を取っかかりにして作業を進めていくんですか?

六七質:
まず、データの世界であるということを念頭に置いたのですが、原案の設定集に、キャラクターから植物が生えているようなイラストがあったんです。なので、デジタルな世界、コンピューターの世界というだけではなく、植物などが混じったような世界がいいかな?と思いました。また、映画のキャラクター原案を拝見すると中学生ぐらいの女の子だったので、あまり気持ちの悪い世界、汚い世界にはしないようにというイメージを持って考えていきました。

G:
描くときは、インスピレーションで閃いたものを描かれるんですか?それとも、設定を読み込んで、絞り出してくるような感じでしょうか。

六七質:
ぱっと出てくることもありますが、浮かんだものをそのまま形にして、どこかで見たことのあるものと同じになってしまうといけないですし、あまり多く映画を見ている方ではありませんが、「これは元ネタをあの作品から持ってきたよね」と思われるのはイヤなので、その浮かんだものをまた別の視点から考えてみたりします。今回は、世界の階層が分かれているので、移動する手段も考えつつ、矛盾がない世界を作りました。

G:
本作では第1階層、第2階層、第3階層と3つの階層が描かれていますが、それぞれ階層ごとになにかテーマを決めてデザインしたのでしょうか。それとも、全体のイメージをまず定めた上で、じわじわと詰めていったのでしょうか。

デュアルとドロシーの暮らす家がある第1階層、背後の空間にあるフラクタルに注目。


六七質:
じわじわ詰めていく形に近かったかなと思います。

G:
今回、デザインは何枚ぐらい描かれているのでしょうか?

六七質:
(資料を見つつ)あまり沢山描いたわけではないと思うのですが……

G:
いやー、こうして拝見すると結構な枚数ありますよ(笑)


六七質:
まずラフを描いてみて、OKになれば細かく描いていくという作業もありましたから。

G:
役職に「世界コンセプト」とあるので、大まかな世界のデザイン部分を行われたのかと思いきや、かなり細かいギミックまで、多岐にわたって担当していらっしゃるんですね。

六七質:
そうですね、自分の興味の向くところは細かく描いているかもしれません(笑) 例えば、このフラクタルを構成している細かいパネル1つ1つがバックアップデータで、その展開方法まで考えたり、反対に、展開中のバックアップデータがウイルスに侵食されて、だんだん風景からデータっぽくなっていくところも考えてみたりしました。

G:
先ほど、デザインが既存の作品と同じにならないようにという話がありましたが、デザイン時は、何か元となるアイデアに、自らの知識などを加えてアレンジしているということでしょうか。

六七質:
それが、映画やアニメはそれほど見るほうではないので、そのあたりの引き出しはあまりないんです。代わりというわけではないですが、興味を持っている「自然科学」などからヒントを得たりしています。

G:
ベースにあるのは誰かの何かの作品ではなく、リアルの現象だったりするわけですね。

六七質:
そうですね。第2階層のデザインでいうと、渦巻きの中にはさらに渦巻きが……という植物などで見られるフラクタルになっています。この世界全体も、渦巻きの管の中の一部というイメージなんです。


G:
この世界にいるデュアルたちにとっては広い世界でも狭い世界でもない、と書かれていましたね。

六七質:
はい。渦巻きを構成しているパネル1つ1つもキャラクターたちに対しては常に同じ大きさなんです。そう考えてもらうと、すごく膨大な量のデータが入っているように感じてもらえるのではないかと思います。

G:
この作品の舞台はPCの中の世界で、よくPCの中は本棚にデータが格納されているイメージで表現されたりしますが、そうではなく、フラクタルで表現したのは新しいなと感じました。

六七質:
初めは大きな図書館を思い浮かべていたのですが、それだと、「今までの世界の歴史が膨大なデータとして格納されている」はずなのに、限りがあるように感じられたんです。そうではなく、無限に続くようなイメージを持ってもらいたいなと。

G:
なるほど、確かに本棚だと、どこかに棚の終わりがありそうです。しかし、先ほどおっしゃった地殻変動などのことにしても、このフラクタルにしても、すごく「学校の授業で出てきそう」という感覚があります。

六七質:
「この平野は肥沃な大地だから米作りが盛ん」みたいなことを聞いたとき、そこで生活する人のことを想像するのが好きでしたね。ひょっとすると、そういうところから来ているかもしれません(笑)

G:
資料を拝見していると家の間取り図みたいなものも出てきました。このあたりも、六七質さんデザインのものでしょうか。

六七質:
そうです。もっと迷路みたいな構造にするのが好きなんですが、デュアルとドロシーはそれぞれに領域が決まっていて、お互いの領域は認証しないと行き来できないということだったので、建物正面向かって左側がデュアルの領域、右側がドロシーの領域というデザインにしました。


G:
なるほど。

六七質:
でも、リモのおかげで自由に行き来できるようになっています。そうすることで、リモの存在がよりかわいいものになるかなと。

朝、3人が集まるキッチン


G:
各自の部屋のデザインの差には、2人の趣味の違いみたいなものが出ているんですね。

六七質:
そうですね。

G:
それぞれのデザイン差は、どういったコンセプトを持って行われたのでしょうか。

六七質:
カントクさんによるキャラクター原案を拝見した上で、それぞれのキャラクターのカラーを用いて、ぱっと見たときにデュアルの部屋なのかドロシーの部屋なのかがわかるようにしました。ドロシーの部屋は、作中で中世ヨーロッパのバックアップデータの中に行ったときの影響もちょっと見られるようにしています。

G:
リモのイメージはいかがでしたか?

六七質:
作品の中の立ち位置から、デュアルやドロシーとはまったく異質の存在として考えました。かわいいけれども、デュアルやドロシーを哺乳類だとすると、リモは爬虫類というぐらいの違いです。

G:
今回、多くの作業を手掛けられていますが、やってみて気に入っている部分はどこでしょうか。

六七質:
「ドロシーの部屋」でしょうか。窓でいろいろと繋がっていて、子どもが探検したくなるような部屋になっている点がお気に入りです。ドロシーは元気なので、それこそ窓から出入りするかもしれないな、とか思いながら描いていて楽しかったです。それぞれ机も置いていますが、ドロシーはあまり勉強しないだろうな、とか(笑)


G:
アンチウイルスソフトのプログラムである2人はどういう勉強をするんでしょうね?(笑) そういえば、映画にはそういうシーンはありませんが、おちゃうさん作のコミカライズ版で、3人がまるで勉強をしているかのようなシーンがあるのですが、確かにドロシーは勉強ができなさそうな雰囲気でした。


六七質:
あっ、本当ですね(笑)

G:
他に気に入っている部分はありますか?

六七質:
この、半地下になっているお部屋も好きですね、螺旋階段はリモのベッドのところまで行けるようになっていて、アニメで見た時にとてもかわいかったです。


G:
ぱっと正面からの絵を見たときには、まさかこんな半地下が隠されているとは思いませんでした。

六七質:
この部屋だけは、コンピューターの世界だとこういうところがあるかなという場所にしてみました。ドロシーとデュアルの部屋には、こういう近未来的なデザインはあまり取り入れないように意識しました。

G:
これだけたくさん作業されて、苦労した部分というのはどのあたりでしょうか。

六七質:
世界については大きい枠を作ってしまえば、あとは詰めていくだけだったので、その「初め」を作るまでにちょっと悩みました。でも、あとはそこまでは苦労しなかったですね。

G:
おっ、なるほど。枠ができて以降はわりとスラスラと。

六七質:
制約がなかったおかげで、自由にやらせていただきました。

G:
制約が多い方が燃える、制約がクリエイティビティを刺激するという方もいますが、この仕事に関しては、制約がなかったおかげで色んなことをできたという感じでしょうか。

六七質:
そこは、制約の種類にもよりますね(笑) 「こういうタッチでお願いします」だったり、すでにイメージが固まっている上での依頼だったりすると、合わせなければいけないという難しさもあります。でも、その枠組みの中でも「ここは自由にお願いします」ということもあるので、「制約なしと比べて、どちらがやりやすい」というものではないですね。

G:
2009年にオンラインゲーム「舵天照」の世界観イラスト・背景を担当されたときにもインタビューを受けていて、イラストレーターのとしてのお仕事を2008年9月から始められたとありましたが、絵を描き始めたのはいつごろからですか?

六七質:
11年ぐらい前でしょうか。それより前から絵を描くのは好きだったんですが、そのころ、ネット上で絵を描いて交流できるサイトがあったので、そこで描くようになったのが大きいです。

G:
あまりアニメや映画はご覧にならないとのことでしたが、絵を描くにあたって影響を受けたクリエイターさんや作品はありますか?

六七質:
あまり見ないといっても最近のことで、昔はそうでもなかったですよ(笑) でも……そうですね、挙げるなら海外産のゲーム「MYST」でしょうか。

MYST | ソフトウェアカタログ | プレイステーション オフィシャルサイト
http://www.jp.playstation.com/software/title/jp0202npjj00628_000000000000000001.html

G:
2009年当時の作業環境を「デスクトップパソコン1台とネット用にノートパソコン1台があります。持ち運び用にモバイルパソコンも1台。ソフトはPhotoshop6.0とSAIとShade9.0です。ペンタブはインテュオス、Bambooです」と回答されています。ここから、環境はどれぐらい変わりましたか?

六七質:
PCは買い換えましたし、PhotoshopもCSになって、Shade 3D 15で……SAIは変わらないですね。あとは、WACOMの液晶タブレット・Cintiqを使っています。

G:
ということは「環境激変」というより、全体的にバージョンが上がったという感じですね。モバイルマシンで外で作業したりすることは多いですか?

六七質:
小さなノートにデザインを描き留めたりはしますが、ほとんど家での作です。いろいろ試してはみたんですが、そもそも重たかったり、機能が家の環境に比べて劣っていたりして、「これなら紙に描く方がよほど楽だ」と諦めました(笑)

G:
求めるスペックを満たすものがないというのは難しいですね。

六七質:
よくあるタブレット端末でも、ちょっとしたお絵かきならできそうに見えるんですけれど、実際にやってみると引っかかって全然ダメだったりするんです。書き味の良いものもありますが、それはあまりにも重たいという(笑) 軽くなればいいんですけれどね。

G:
ここ最近触れた作品で、これは刺さったなという作品があれば教えてください。

六七質:
見た作品ですか?

G:
見た、聞いた、読んだ、ジャンルは問いません。

六七質:
「実際にあるものを見に行く」ということの方が多いかもしれません。海に行ったり、変なものを見に行ったり、神社に行ったり。

G:
あちこち外出されるんですか?

六七質:
はい、頻度は高くありませんけれど。

G:
出るときは近場ですか?それとも、何日かかけての「旅」ですか?

六七質:
「旅」のレベルです。自分自身で「これを見る!」というのはあまりなくて、誰かが「あれを見に行きたい」「あそこに行きたい」と言っているのを聞いて「いいね、行こう!」という感じです。本当にイヤなところには行きませんけれど(笑)、特にパターンはないですね。

G:
最近、印象的なお出かけはありましたか?

六七質:
フクロウが好きな人がいまして、フクロウカフェへ見に行きました。鳥の羽根に興味があったので、カフェにいるフクロウの羽根を見せてもらったり。

G:
おおー、いいですねフクロウ。趣味の面ではなにかありましたか?

六七質:
趣味は仕事なので、仕事をしていれば幸せなんですよ(笑)

G:
2009年のインタビューで今後の活動方針を聞かれたときに、「人物をかくお仕事ももらえるようにしたい」と答えていらっしゃいますが、2016年現在、表紙や挿絵のほかにキャラクターデザインも担当する作品を持っていて、見事に目標を達成しているなと思いました。ここから、新たな目標があれば教えてください。

六七質:
「ガラスの花と壊す世界」では世界コンセプトデザインをやらせていただきました。こうやって世界を土台から作っていくようなことが好きなので、そういったお仕事が増えるといいなと思います。また、個人的には、小さくてもいいので、絵本的な、ストーリーがあるものを作りたいと思います。

G:
六七質さんの作り上げた世界像を堪能できる「ガラスの花と壊す世界」、ぜひ楽しんでもらえたらと思います。本日はお話、ありがとうございました。

映画「ガラスの花と壊す世界」は新宿バルト9、シネマサンシャイン池袋ほかで公開中です。
©Project D.backup

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