人工知能・データサイエンス・暗号化などMicrosoftの研究者が予測する16の未来とは?
by Province of British Columbia
情報技術が数年後どうなっているのかを想像するのはとても難しいものですが、Microsoftの研究者たちは2016年、そしてここから10年の技術の進歩がどうなると考えているのか、その一端が明かされました。
From AI and data science to cryptography: Microsoft researchers offer 16 predictions for ’16 | News Center
https://news.microsoft.com/features/from-ai-and-data-science-to-cryptography-microsoft-researchers-offer-16-predictions-for-16/
用意された質問は「2016年に飛躍的進歩を遂げそうなものは何ですか?」「2026年までの10年で進歩を遂げ、人々のコンピューティング体験に影響を与えそうなものは何ですか?」「2016年は何の年になりそうですか?」の3問で、それぞれ研究者たちは自分たちの分野において当てはまるものを回答しています。
◆クリス・ビショップ氏
エジンバラ大学でコンピューターサイエンスを教える教授でもあるビショップ氏の予測は、2016年には新たなシリコン構造がGPUの主要性能を高めそうだというもの。また、2026年までには、ヨーロッパの言語同士を翻訳した時に人間が翻訳するレベルの高品質な機械翻訳結果が得られるようになって、言語障壁がなくなるとも語りました。
2016年は「携帯電話の3Dカメラに関する新アプリ」の年で、スマートフォンがさらなる力を持つと予想しています。
◆ダグ・バーガー氏
ハードウェア、デバイス、エクスペリエンスのディレクターであるバーガー氏は、ビッグデータの処理や生物情報科学、高性能なコンピューティングなどの大規模な増加を可能にする、クラウド上のスペシャライズド・コンピュート・アクセラレーションの成功を予測。また、2026年までには、プログラム(ソフトウェア)がハードウェアから独立しているフォン・ノイマン型コンピューターから部分的に離れる流れができるとも予測しました。
2016年は「FPGAのような再構成可能コンピューティングが、最上級のコンピュート・アクセラレーターとしてデータセンターの主流になる」とのこと。
◆ビル・バクストン氏
HCI(人間とコンピュータの相互作用)のパイオニアであるバクストン氏は、スタイラスのようなデジタルデバイスの立ち位置が落ち着くと同時に、人々が人間の潜在能力を最大限に引き出す方向に目を向け始めると予測。2016年は「安物のデジタルガジェットを計画的に陳腐化させていく」という時代が終わりを迎え、産業界や消費者の目は技術から人間の経験・価値・潜在能力へと移るとのこと。
◆リリー・チェン氏
FUSE(未来社会経験研究所)のマネージャーでもあるチェン氏は、オンラインで行われるやりとりに注目し、会話アシスタントによってもっと笑ったり、もっと生産的な会話ができたりすると予測。また、子どもたちは、将来コンピューターが我々の生活をもっとよりよくサポートできるように、毎日の経験をコード化する方法を学ぶようになるとも予測しています。
将来的には、子どもたちは就職時にどこかに物理的な建物で働くのではなくバーチャルで働くようになり、我々は自分たちの働き方や都市計画、近隣や地区のコミュニティ設計を考え直すことになるだろうとのこと。
◆ケイト・クロフォード氏
データサイエンスなどを専門とするクロフォード氏は、人工知能(AI)がよりリアルなものになり、倫理的・法的に医者・弁護士・セラピストと同じような関係になることを人々から求められるようになると予測。
2016年は健康管理、住宅供給、雇用に影響を及ぼすビッグデータシステムに、適正な法的保護の手続きが構築されるようになる年だとのこと。
◆リー・デン氏
ディープラーニングなど機械学習の専門家であるデン氏は、ディープラーニングに基づいた自然言語処理が飛躍的に進歩し、2026年までの10年で、AIがスピーチ・視覚・認知機能などいくつかの領域で人間レベルの能力を発揮するようになると予測しました。
2016年には「日々の暮らしの中で一般の人々もAIを使うようになる」とのこと。
by Global Panorama
◆ジャスミン・フィッシャー氏
「実行可能生物学(executable biology)」を扱っているフィッシャー氏の予測は、健康・福祉の分野で、難病を抱えた患者の延命や症状改善を目指した革新的技術の使用が始まるというもの。さらに、これから10年でがん患者の個別の症例について研究者と臨床医が理解・発見・診断を行う、他分野にまたがった画期的なアプローチが現れて、がんの謎が明かされるだろうとも予測しています。
そんなフィッシャー氏は、2016年は「患者の人生を変えられるほどのクラウドプラットフォーム技術の潜在能力が知られることになる」と考えているそうです。
◆洪小文(ホン・シャオウェン)氏
Microsoft Research Asiaのバイスプレジデントであるホン氏は、Microsoftが現在開発中の現実空間にホログラムを投影する「HoloLens」がありふれたものになると予測しました。
2016年にはウェブでのビデオ配信がテレビ放送を越え、中国の人々はオリンピックをテレビではなくネットで見るだろうと考えていて、「Project Oxford」のような映像解析技術により、クラウド上でのビデオ処理がもっとスマートに行われるようになるとのこと。
すでに、写真に写っている人の感情を数値化するツールは現れています。
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◆エリック・ホーヴィッツ氏
ホーヴィッツ氏はMicrosoft Researchのテクニカルフェロー。AIはこれまでよりももっと自然に、もっと有能に対話できるようになって、エネルギー・生物学・医学といった分野で大きな科学的進歩を助けると予測。
2016年は、「仕事上の約束事」などを人々が大事だと考えているということをパーソナルアシスタントが理解することで、今まで以上に役に立つようになる年だとのこと。
Microsoftではパーソナルアシスタントとして「Cortana」を開発・提供しています。
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◆ルーカス・ヨッパー氏
低消費電力・長距離・安価に使えるセンサーや無線により星の環境モニタリングが捗り、2026年までには地球の状況を間断なくデジタルダッシュボードで提供可能になるとヨッパー氏。
2016年は、第6の大量絶滅期を回避して地球を監視・管理する方法を変えることのできる技術の潜在力を世界が知る年だとのこと。
◆ブライアン・ラマッキア氏
暗号化技術に詳しいラマッキア氏は、鍵交換とデジタル署名の両方に対して耐量子公開鍵アルゴリズムを用いる終端間暗号化TLS通信が進歩し、これから15年ですべての公開鍵暗号方式は耐量子暗号になる変える必要があり、その第一歩が耐量子TLSだと予測しています。うまくいけば、2026年には耐量子暗号が広がり、僅かに残された旧来の暗号方式が大いに非難されているはずだそうです。
2016年はその前段階として、セキュリティ関連のコミュニティで、耐量子暗号への移行計画が立てられ始めるだろうとのこと。
◆プレストン・マカフィー氏
過去の景気回復に比べて今の生産力の回復が遅いことについて経済学者が頭を悩ませていますが、2016年に答えが出るのではないかとマカフィー氏。
2016年は楽観的に見ると「シリコンバレーでUberの価値がそのデータではなく市場にあるということがわかり始める」という年ですが、なおも「ビッグデータバブル」は継続するだろうとマカフィー氏は予測しています。
◆スリラム・ラジャマニ氏
ラジャマニ氏いわく、たとえOSやその他のインフラが危険にさらされてもセキュリティが保証される新時代になるものの、ハッカーとシステムベンダーとのいたちごっこは続くそうです。
2016年は「Intel SGX(Intel Software Guard Extensions)などのように、信頼されたハードウェアに基づく新時代のセキュリティ・ソリューションが市場に現れ、セキュリティについての考えを改める年になる」とのこと。
◆クリスタ・スヴォラ氏
トポロジカル(位相幾何学)量子ビットの確認と証明が量子コンピューティングにおける技術の飛躍的進歩になるだろうとスヴォラ氏。2026年には現在の“クラシック”なコンピューターで解けないような問題に遭遇したとき、クラウド経由で量子コンピューターに接続できるようになるだろうと予想しています。
2016年は「LIQUi|>(Language-Integrated Quantum Operations)でプログラミングすることにより、現実世界で新たな量子アルゴルズムの探求や発展があり、より多くの人が量子力学に身を投じるようになるだろう」とのこと。
◆チャンドゥ・セカス氏
Microsoft Research Indiaのマネージングディレクターであるセカス氏は、テレビの空き帯域を用いた安価なアクセス技術と手頃なモバイル端末によってインドでもっとインターネットが広がり、2026年までにはすべてのインド人が豊富な帯域の使えるモバイル端末を持つようになると予想しています。
2016年は「インドの田舎でもネットに接続できる環境が広がり、インドの大部分がオンラインになる年」とのこと。
◆ジャネット・ウィン氏
Microsoft Researchのコーポレートバイスプレジデントであるウィン氏は、2026年までに人類が生細胞をプログラミングできるようになると予想。
2016年は「『政府による国家安全保障の必要性』と『企業による個人情報保護の必要性』との対立における暗号化コミュニケーションの役割について、大統領候補者が討論する年になるだろう」とのことです。
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