ハードウェア

携帯電話を自分で作ってみて初めてわかったこととは?


寝ても覚めても常にスマートフォンや携帯電話が身の回りにあり、「携帯電話すらなかった時はどうやって生きてたんだっけ?」という疑問が大げさなものではなくなっている人も多いはず。生活には欠かせなくなった携帯・スマートフォンですが、世の中にはそんな端末を1から作り上げている人が必ず存在しています。設備や専門の知識を持たない人が携帯電話を作ってみたらどんなことがわかったのか、実際に取り組んでみた人が語った内容が公開されており、実は大変だった開発の体験が語られています。

Keming Labs: Talks and slides
https://keminglabs.com/talks/#bangbangcon2015

自作の携帯電話を作ってみたのはアメリカ・オレゴン州に住むKevin Lynaghさん。普段はソフトウェア関連の仕事をしているLynaghさんですが、あることをきっかけに自分で携帯を作ってみることにしたそうです。


Lynaghさんはニューヨークで開催されたプログラミングイベント「!!Con(Bang Bang Con)」で自らの体験をもとに約10分間のプレゼンテーションを実施。その時の様子がYouTubeでも公開されています。

!!Con 2015 - Kevin Lynagh: I made a cell phone! (DON'T TELL THE FCC KTHX!) - YouTube


Lynaghさんが素晴らしい端末と思っているモトローラの「Motofone F3」。ディスプレイに電子ペーパーを採用し、性能はともかく機能性の面では高く評価していたようです。しかし、通信会社のAT&Tが2Gネットワークの提供を停止したので、実際にこの端末を使っていたLynaghさんは新しい端末を入手する必要が出てきてしまいました。


現在の主流はなんと言ってもスマートフォン。しかし、スマートフォンは大げさで面倒くさいのが気に入らないご様子。


かといって、「スマート」じゃない「ダムフォン(頭の悪い電話)」は、作りが安っぽくて使いたくないとも語ります。


ということで、実際に自分で端末を作ってみたいと考えるようになったそうです。


やはり作るからにはいいものを、ということで、10年たっても魅力の色あせない自転車や腕時計のような、工業製品として優れているものにしたかったLynaghさん。


端末づくりを始めるにあたり、Lynaghさんは「電子回路」「ソフトウェア」「本体デザイン」の3つにポイントを置いてアイデアを形にしていきました。


◆電子回路
Lynaghさんは学生のころ、授業で電子回路を選択していたそうですが、その成績は「G-(マイナス)」とあまり芳しくないものだったとのこと。ムービーでは「Gは『グッド』のGだ。だからグッドから少し足りないと言う意味だ」と苦しい弁解をしているのがクスリと笑えます。


とりあえずは、携帯電話網に関するチップを使わないといけないと思い、QUELTECのUC15というチップを使うことにしたLynaghさん。


100ページ以上もあるデータシートは文字やダイヤグラム、ピン配列のような内容ばかりでしたが、最後のページにあったSIMカードを接続する図を見て、「これだ!」と思って参考にしたそうです。


ほかの必要な部品も同じように寄せ集めることにして、専用のソフトを使って回路基板のデザインを行いました。


デザインした基板のデータを業者に送り、形にしてもらったのがこの基板。いまはネット経由で発注すれば、自分のオリジナル基板をすぐに手に入れられる便利な時代です。


難しかったのは非常に小さい部品の取扱い。コインに刻まれた文字と同じぐらいの大きさしかない素子を基板上に置いてハンダ付けする必要があり、困難を極めたそうです。通常の工場だと、この作業は機械が目にもとまらぬ速さで素子を並べており、とても人間が太刀打ちできるものではないはず。


そして、パーツのハンダ付けには、実際の端末製造でも広く取り入れられているクリームハンダを使ったとのこと。


大規模な工場だと、ハンダを溶かして素子を定着させるための「フロー炉」と呼ばれる設備がありますが、個人であるLynaghさんの自宅にそんなものがあるはずもなく。要は熱を加えて基板全体を温めてやればいい、ということで、Lynaghさんは一般家庭で使うフライパンに基板をのせて下からガスで熱することにしたそうです。


そんなこんなで基板が完成。ボタンの下に位置する部分には、小型のLED素子を組み込んで光るようにしてあるそうです。


◆ソフトウェア
端末の仕様としては、ハードボタンを搭載し、ボタンは下から光るようにしたり、バッテリー残量低下など携帯電話の基本的な機能を中心にいくつかの仕様をセレクト。


そして、メインとなるチップが選ばれました。


その理由は、1個8ドルという安さ。チップのクロック周波数は11MHzという非常に遅いもので、プログラムを収めるメモリは128KBというこれまた極めて小さいもの。


そしてもちろん、この端末に合うOSなど、ありません。


そのため、自分でプログラムのフローチャートを作るところからスタートです。


その結果がコレ。さすがはソフトウェアエンジニアと言ったところで、ちゃんと希望どおりにピカピカと光る基板ができあがりました。


◆本体デザイン
こだわりのデザインを考えるLynaghさんは、木を使ったボディに革をあしらったデザインを考案。まずはスケッチ図をもとに、コンピューターを使って3Dデータを作成します。


そしてここから3Dプリンターで……と言いたいところでしたが、Lynaghさんは木材をNCマシンで削り出すという昔ながらの手法を取り入れることに。あえてこれを選んだのか、それとも何か事情があったのかどうかは不明。


「この機械のクールなところは、特製のキャップが付いてくることだ!」と語るLynaghさんに、会場は大爆笑。たしかにクールなキャップといえます……。


まずはPCソフト上で加工のシミュレーションを行い……


実際に削ってみたものがコレ。左の方に削り出しが完了したと思われる本体が並んでいます。


不慣れな作業だったのか、途中で高価なドリルが折れたりもしたそうです。


こうやって削り出したのが、これ。木はもちろん、竹などの異素材を使ったりもしたようです。


そして先ほど作っていた基板を本体にセットして、レザーを組み合わせたのがこれ。しかし、ついぞ完成には至らなかった様子です……。


ここまでにかけた時間は350時間。とくにソフトウェアと電子関連の開発には時間がかかった様子。


Lynaghさんの出した結論は「一つのモノを作るのはとても大変だ」ということだそうです。


たとえ完成はしなかったとしても、チャレンジしてみた自分を褒めてあげてほしい!と同じ趣味を持つ人たちに向けて語りかけるLynaghさんでした。


終始にこやかな表情で会場の爆笑を受けながらプレゼンを披露したLynaghさん。こんなイベントなら、自作の電子工作ももっと楽しくなることうけあいです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
自分の好きな機能だけを選んで安くできるGoogleスマホ「Ara」開発は順調、実際にAndroidが動く様子も公開 - GIGAZINE

Googleの自作スマホ「Ara」にゼンハイザーがオーディオモジュールを提供 - GIGAZINE

自分が好きな機能だけを組み合わせられてパーツ交換も簡単な自作スマホ「Puzzle Phone」をNokiaが共同開発中 - GIGAZINE

自分で組み立ててボタンを押すとミニ缶が出てくるリアルな自販機を無料でダイドードリンコが配布中 - GIGAZINE

集積回路を使わずにトランジスタだけでコンピュータを自作するとこうなる - GIGAZINE

簡単に紙を切ったり木に画像を刻印したりできる自作レーザー加工キット「Emblazer」レビュー - GIGAZINE

超高速で重力を無視して飛ぶドローンは自作可能で作り方やパーツはネットから入手可能 - GIGAZINE

激安で高機能カーナビをRaspberry Piで自作できるキット「iCarus」 - GIGAZINE

14歳のときに妄想した夢の自作ゲーム「トビアスと暗黒の杖」が13年かかってついに完成 - GIGAZINE

Raspberry Piで自作したバーコードから自動で調理を行える電子レンジ - GIGAZINE

in モバイル,   ソフトウェア,   ハードウェア,   動画,   デザイン, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.