「強化外骨格パワードスーツ」というSFの世界から飛び出したようなアイテムがついに発売へ
人間が装着することで、その人が本来持つパワーや可動性を強化することができる「パワードスーツ(強化スーツやロボットスーツ、強化外骨格などとも呼ばれる)」という装置は、元は1959年刊行のSF小説「宇宙の戦士」にて登場した架空の装備で、それ以降のSF作品に大きな影響を与えたアイデアです。そんな強化外骨格を現実の世界で開発中の「Ekso Bionics」を、ニュースメディアArs Technicaが取材して最新の強化外骨格事情などを探っています。
This magic exoskeleton for industrial workers is the future—we know, we wore one | Ars Technica
http://arstechnica.com/business/2015/07/why-you-might-be-seeing-mechanical-exoskeletons-on-construction-sites-soon/
Ars Tries an Ekso Exoskeleton
これがEkso Bionicsが現在開発中の強化外骨格「Ekso Works」。工事現場や建設現場での使用を想定した強化外骨格です。
外観はこんな感じで、足元から腰にかけて金属フレームが伸びるだけの想像以上に簡易な作り。
腰部分にフィットするサポーターと金属フレーム。
装着する際はそのまま上に乗る感じでOK。
たったこれだけで装着完了です。
「Ekso Works」がどれくらいのパワーを発揮するのか確かめるため、約18kgの研磨機(黄色の物体)と、研磨機を持っても前に倒れないようにするための重り(銀色の物体)を腰部分に装着。
手に持っているのが研磨機。
約18kgある研磨機も軽々持ち上げており、これは腰部分から伸びる補助アームのサポートのおかげです。この補助アームについては「信じられないほどスムーズに動作し、あらゆる方向に動かしてみたけれどもひっかかりなどは一切感じられなかった」と、Ars Technicaのライターは語っています。
というわけで「Ekso Works」を装着したまま歩き始めます。「Ekso Works」は膝の上げ下げや、腰周りの動きまでサポートしてくれるそうで、着用したまま普通にジャンプすることも可能。ただし、歩行は少し難しかったようで、多少の練習が必要なようです。
強化外骨格を装着し、約18kgの研磨機を持ちながら歩いたArs Technicaのライターは「魔法のようなアーマーで、装着すれば約18kgの研磨機を持っていても無重力であるかのようにほとんど重さを感じなかった」と、コメント。その表情からも驚きの色がよく見て取れます。さらに驚くべきことに、何と「Ekso Works」にはバッテリーなどは一切搭載されていないそうです。
Ekso Bionicsは10年前にカリフォルニア大学バークレー校のBerkeley Robotics & Human Engineering Laboratoryで行われていた研究の派生として誕生した企業です。アメリカ国防総省が兵士のために設計した強化外骨格「Human Universal Load Carrier(HULC)」を開発し、2009年にはHULC技術に関するライセンス契約をロッキード・マーティンと締結しています。さらに、2010年には普段車いすを使用している足の不自由な人でも立って歩けるようになる強化外骨格「eLEGS」を発表し、2012年に「Ekso Works」の原型となっている「Ekso」を発表。
2013年、建設コンサルタントのArcadisは「世界の建設産業の生産高が2025年までに70%増加し、15兆ドル(約1800兆円)にまで達することになる」と推測するレポートを公開しています。このレポートによれば、2050年までに世界の都市部人口は20億人も増加する見込みで、都市への人口集中により都市構造の変化が求められるようになる、とのこと。そういったタイミングで、熟練したスキルを持つ建設労働者が年を取っても現場で働き続けられるようにサポートすることが可能になるのが、強化外骨格です。Ekso Bionicsはこういった未来を見越して、工事現場や建設現場で使用可能な強化外骨格を開発しているわけです。
By Steve Jurvetson
Ars Technicaのライターは実際の建設現場などで強化外骨格のようなものが本当に求められるものなのか判断がつかなかったため、The Association of Union ConstructorsのWayne Creasap氏に連絡し、強化外骨格について説明し、実際の建設現場などでそういたものが求められているのかどうかを尋ねています。
Wayne氏は「非常に素晴らしい。実際の現場で使用しても役立つ長所を持っていると思います。私はこの技術が産業としてどのように発展していくのか非常に興味があります」とコメント。しかし、「建設作業員が強化外骨格を装着しておらず、強化外骨格と接触してケガなどを負ってしまった場合」や「メンテナンスに必要なコスト」など、実際に建設作業に強化外骨格を導入した場合に生じるであろう問題点に懸念を示しています。ただし、最終的には土木建設業にとっては作業効率が上がる強化外骨格は非常に有用なものになり得る、と述べています。
By Loozrboy
Ekso Bionicsは2016年に「Ekso Works」の発売を予定していますが、ロッキード・マーティンがEkso Bionicsからライセンスを受けている技術を基に開発中の「FORTIS」と呼ばれる強化外骨格も、同じ2016年に発売予定となっています。ロッキード・マーティンのFORTISは、「Ekso Works」と比較するとより悪環境での動作に向いている強化外骨格で、リベッタやグラインダー、サンドブラスター、ドリルなどの重い作業用ツールを使用する作業員向けに作られたもので、「Ekso Works」と同じく工事現場や建設現場での使用を想定している、とのこと。
なお、Ekso Bionicsの2015年第1四半期の収益は170万ドル(約2億円)で、前年同期と比べると収益は60万ドル(約7400万円)増加しています。ただし、現在のところEkso Bionicsは収益以上の損失を出しており、Ladenburg Thalmann Financial Servicesのアナリストによれば「Ekso Bionicsは2018年の終わりまでに利益を出すようになる」とのことです。現在のところ赤字続きのEkso Bionicsですが、同アナリストはその高いポテンシャルを評価しており「宝石」と評しています。
Ekso Bionics製の強化外骨格である「Ekso Works」は、2016年に数万ドル(数百万円)で販売される予定になっており、証券アナリストのジェフリー・コーエン氏は販売価格を1万2000ドル(約147万円)程度と予測しています。
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