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劇的にコレステロールを下げる薬が承認へ、実用化が期待されるも残る懸念とは

By Rakka

健康診断の結果などでよく耳にする「コレステロール」は、特に成人男女の間であれば気になる名前のはず。その中でも「悪玉コレステロール」とも呼ばれる「LDLコレステロール」は動脈硬化からくる心臓疾患などを引き起こし、時には命を危険に陥れる可能性もあるために、その値の変化には多くの人が一喜一憂するものです。

コレステロール値を下げるためにはスタチン系の薬がよく用いられるわけですが、これら既存の薬よりも劇的にコレステロール値を下げる効果が期待できる新薬がアメリカ食品安全局(FDA)の承認を得る流れとなっています。症状に悩む人々にとっては期待の膨らむ新薬ですが、しかしそこには一筋縄ではいかない状況も存在しているようです。

FDA Panel Backs Cholesterol Drug, but Raises Concerns - WSJ
http://www.wsj.com/articles/fda-panel-backs-cholesterol-drug-but-raises-concerns-1433884972

Federal Panel Backs Approval of New Drug to Fight Heart Attacks - NYTimes.com
http://www.nytimes.com/2015/06/10/health/cholesterol-levels-ldl-drugs-heart-attacks-fda-panel.html

従来からもコレステロール値を下げる薬としてはスタチン薬が世界中で広く用いられており、世界全体における市場規模は最大で2兆円とも言われています。その一方では副作用の存在や効果を疑う声といった問題をスタチンは抱えていました。

2015年6月9日と10日の両日に開かれたアメリカ食品医薬局(FDA)の内部委員会において、スタチンを上回るともいえる新薬「alirocumab」(商品名Praluent)と「evolocumab」(商品名Repatha)の承認に関する審議と投票が行われ、まずはalirocumabについて賛成13票・反対3票という賛成多数で承認を推奨するという結果が出ました。また、evolocumabについても引き続き同様の審議が行われることとなっています。通常、委員会において下された結論はFDAの承認にそのまま反映されるため、新薬の実用化はほぼ確実といえる状態になったものと考えられます。

By epSos .de

今回の議題に上ったalirocumabはサノフィ社(フランス)とリジェネロン・ファーマシューティカルズ社(アメリカ)が、一方のevolocumabはアムジェン社(アメリカ)がそれぞれ開発を進めてきたもので、「PCSK9阻害薬」と呼ばれる従来にはないメカニズムを用いた薬とのこと。PCSK9は肝臓の中に存在する酵素の1つで、肝臓が悪玉コレステロールを血中から取り除く機能を妨げる作用を持っているのですが、新薬はこの作用を低下させることで悪玉コレステロールの蓄積を防止し、血中のコレステロール値を低下させて心疾患やそれに起因する死亡リスクを低下させるという効果が期待されています。

いずれも患者に対しては注射を用いて投与する注射剤で、実際の患者を対象に実施された24週にわたる評価試験では、この薬を投与された患者群の悪玉コレステロールの値が約40%~60%の割合で低下し、評価対象となるプラシーボ群に比べても明確に低下していたことが確認されています。今回の決定は、FDAの委員会がそれぞれの新薬がコレステロール値に対して与える影響を認めたものであり、仮に現在も進行中の臨床試験において心臓発作と死亡のリスク軽減効果を示せなかった場合でも、今回の承認は取り消されないとしています。

この決定を受け、サノフィ社の株価は時間外取引市場で3%の上昇を見せて50ドル92セントに一時達したとのこと。また、スタンフォード大学の心臓専門医、ジョシュア W. ノウルズ医師は新薬について「現代の遺伝子革命における偉業である」と評価しています。

By Sanofi Pasteur

しかし一方では、20年来の実績があるスタチン薬の効果に対して新薬は「まだまだ臨床例が少なすぎる」という声が委員会メンバーからも挙がっているのも事実とのこと。また、多くのメンバーからは悪玉コレステロールに対する効果が「患者グループの違いにより、異なった効果が生じる懸念がある」という指摘も挙がっています。

また、どの段階の患者を新薬の利用対象に含めるかについての懸念も存在しています。新薬の利用にかかる費用は、患者1人あたり月額で1000ドル(約12万円)とも見積もられているのですが、仮に新薬の対象となる患者をコレステロール値が危険的に高くてスタチン薬の効果が望めない層に限定した場合だと、アメリカで1年間に必要な費用は160億ドル(約2兆円)と見積もられています。

2兆円だけでも従来のスタチン薬と同等あるいはそれを上回る金額となるわけですが、これに危機的状況ではなくともスタチン薬が合わずに薬を摂取できていないという患者を加えると、追加で200億ドル(約2兆5000億円)の費用が上乗せされます。さらに心臓病にかかったことがある患者をも含めることになると、追加で必要な費用は1500億ドル(約19兆円)という膨大な医療費を負担しなければならないという状況が生まれることになり、新薬にかかる医療費は過去に1度も経験したことがないような領域へと足を踏み入れることになるとみられています。

By Images Money

費用が増大することで、本当に新薬を必要とする患者に薬が行き渡らない状況を懸念する声も挙がっています。イエール大学の心臓専門医のハーラン M. クルムホルツ医師は、すでに製薬会社が全米の医師に対して新薬の利用を進めるセールスを開始している状況を明かした上で、「患者の中には、スタチンが全く合わないために使えない人や、使えても効果が得られない人が一定の少ない割合ですが存在しています。そのような患者にとって新薬はまさに『使うべきか否か』の選択を迫られる薬となるので、本当に必要とする人のためにこそ、このような新薬は準備されるべきです」と語っています。

なお、サノフィとリジェネロンの両社は、2017年にも新薬の市販を開始する見通しを語っています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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