民間の宇宙開発ベンチャー「スペースX」は数百の通信衛星を使って火星でも通信可能なインターネット環境の構築を計画中
宇宙開発は莫大な資金が必要になるため、アメリカやロシアの政府機関がほとんど独占的に行ってきた分野です。しかし、民間企業としてロケット・宇宙船の開発や打ち上げなどを行う「スペースX」がテスラモーターズのCEOとして活躍している起業家のイーロン・マスク氏により設立されたことで、宇宙開発は民間企業も巻き込み大きな変化を遂げようとしています。
民間企業による宇宙開発のパイオニア的存在であるスペースXの創業者であり、CEOも務めるイーロン・マスク氏はシアトルで開催された同社のイベントに参加し、スペースXでは複数の通信衛星を打ち上げて火星でも通信可能なインターネット環境を構築するプランを計画中であることを明らかにしました。
Elon Musk and SpaceX Plan a Space Internet - Businessweek
http://www.businessweek.com/articles/2015-01-17/elon-musk-and-spacex-plan-a-space-internet
スペースXのイーロン・マスクCEOはシアトルで開催された同社のイベントにて、地球の周回軌道上に複数の通信衛星を打ち上げ、宇宙空間でもインターネットが使用できるようなネットワークを構築する、という最新のアイデアを明かしています。これは宇宙空間でのインターネット通信だけでなく、地球上のあらゆる場所での通信も可能にするようです。通信衛星を使用したインターネット環境を整備することの利点については、現在のインターネット通信よりも高速かつ安価なインターネット通信サービスを、現在まともなインターネット接続環境を持っていない30億人以上の人々にも提供できるようになる、という点のようです。
「我々の関心は、これまで言われてきたようなものよりも巨大なグローバル通信システムの構築です」と、マスクCEOはスペースXが計画している通信環境構築プランについて語ります。
スペースXの計画では、何百という通信衛星が地球から1200km程度の低軌道を周回することになる見込みです。一般的な通信衛星は地球から1400kmから3万6000kmの距離の中軌道に存在するのですが、これらよりも地球に近い位置に通信衛星を配置することで、送受信機の発生電力を低く抑え、通信速度を高速化できるようになる、とのこと。
例えば、インターネットのパケットがロサンゼルスからヨハネスブルグまで移動する場合、通常は地球上の何十というネットワークの中を通り抜ける必要があります。しかし、スペースXの計画する宇宙インターネットを使えば、パケットは宇宙空間を移動して通信衛星からヨハネスブルグに最も近いアンテナまで移動できます。光の速度は、真空空間では光ファイバー内を移動する際よりも40%速くなるので、パケットが宇宙空間を移動することにより通信速度の高速化にもつながる、と宇宙にインターネット環境を整備するメリットについてマスクCEOは語っています。
このプロジェクトはシアトルのオフィスでスタートし、初めは60人程度から始まり、3~4年以内に1000人以上のメンバーを集めることになる、とのこと。さらに、マスクCEOは宇宙に建設するインターネット環境を基礎とし、これを火星でも使用できるように拡張していく予定であることも明かしています。
By Steve Jurvetson
そんなスペースXの衛星システムと同じ発想を持つのが、世界中の現在インターネットに接続できていない人々がインターネットに接続できるような環境の整備を目指す、グレッグ・ワイヤー氏率いるOneWeb。OneWebは既にクアルコムやヴァージン・グループからの出資を取り付けており、宇宙空間に複数の衛星を配置するための権利も取得しています。
OneWebに出資するヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏は、「スペースXは低軌道上に数百の通信衛星を配置するために必要な権利を持っていない、そもそも数百の通信衛星を配置するのに十分な物理的スペースが存在しないようにも思える。もしもイーロン・マスク氏がこの分野に進出したいならば、論理的に考えれば我々と提携するしかないでしょう。しかし、我々が共同で通信衛星を使ったインターネット環境の構築を行う可能性よりも、別々で行う可能性の方がはるかに高いだろう」とコメントしています。
今後の展開が気になるスペースXですが、現在は再利用可能な打ち上げロケット「Falcon 9」の打ち上げテストを行っている最中です。過去にスペースX製のGrasshopperというロケットが高度40mの垂直離着陸テストに成功していますが、Falcon 9では海上に停泊するはしけに着陸するテストを2015年に入ってから行っており、着陸には失敗しています。
Falcon 9が着陸に失敗した際の様子はイーロン・マスクCEO自身がTwitter上で公開しています。
@ID_AA_Carmack Before impact, fins lose power and go hardover. Engines fights to restore, but … pic.twitter.com/94VDi7IEHS
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 1月 16
@ID_AA_Carmack Rocket hits hard at ~45 deg angle, smashing legs and engine section pic.twitter.com/PnzHHluJfG
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 1月 16
@ID_AA_Carmack Full RUD (rapid unscheduled disassembly) event. Ship is fine minor repairs. Exciting day! pic.twitter.com/tIEctHFKHG
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 1月 16
@ID_AA_Carmack Residual fuel and oxygen combine pic.twitter.com/5k07SP8M9n
— Elon Musk (@elonmusk) 2015, 1月 16
着陸失敗の瞬間を捉えたムービーは、Vineにアップされています。
マスクCEOによれば、Falcon 9の安定板が着陸前に燃料を使い果たしてしまい、はしけの甲板に対して45度傾いたまま接触してしまった、とのこと。ただし、これはエンジニアリングの面からみてもそれほど大きな問題ではなく、むしろ約30メートルの甲板まできっちりロケットを制御できた点はスペースXにとって大きな進歩となる、とのことです。
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