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Amazonのジェフ・ベゾスCEO入魂の「Fire Phone」はなぜ失敗したのか?


Amazonのジェフ・ベゾスCEOが並々ならぬ熱意を注いで開発・発売にこぎ着けたAmazon謹製スマートフォン「Fire Phone」でしたが、販売は不調でAmazon大赤字の大きな原因の一つとしてやり玉に挙げられる始末です。ベゾスCEOが大きな自信と期待を抱いていたとされるFire Phoneがなぜ失敗したのかを、Fast Companyが開発スタッフへの取材を基に考察しています。

The Real Story Behind Jeff Bezos's Fire Phone Debacle And What It Means For Amazon's Future | Fast Company | Business + Innovation
http://www.fastcompany.com/3039887/under-fire

スマートフォンやタブレット端末といったモバイル端末の急速な普及によって世界中の人々がPCからではなくモバイル端末からネットショッピングを楽しむ時代が到来したことを、ネット小売業の巨人・Amazonが見逃すわけもなく、Fire Phoneの開発はAmazonにとって至上命題とも言えるものでした。


Googleのエリック・シュミット前CEOが「強力なライバル」と言って競争心をむき出しにするほどIT業界で勢力を拡大し続けてきたAmazonにとって、スマートフォンのハードウェア・ソフトウェアを持つAppleやGoogleにエンドユーザー(顧客)との接点を握られているという事実は、とても受け入れられないものだったというわけです。

Amazonが専用スマートフォンを開発することは、ネットショッピングをより身近なものにできるという点からも非常に合理的であり、すでに電子書籍端末のKindleシリーズやタブレット端末のKindle Fireシリーズで実績のあるAmazonのことなので、開発中と噂されるスマートフォンについては、正式な発表以前からリーク情報があふれかえるほど高い注目を集めていました。

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そして2014年6月にベゾスCEOによるプレゼンテーションでAmazon製スマートフォン「Fire Phone」は大々的に発表されることになりました。

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Fire Phoneが出荷されるとアメリカの大手メディアがこぞって評価レビューを掲載しましたが、その評価はおおむね「機能性・性能は高い」ものの「『買い』ではない」というものでした。

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Fire Phoneは当時のハイエンドSoCであるSnapdragon 800、2GBのメモリ、高性能な1300万画素カメラを搭載しており、カメラで撮影した商品を瞬時に判断してAmazonのショッピングサイトにジャンプさせたり再生中の音楽やムービー映像からコンテンツを見分けてストリーミング情報に即アクセスできたりする「Firefly」機能や、4つのモーショントラッキング用カメラで顔の位置を判断して見る角度によってディスプレイに映し出す映像を変化させることで立体視できる「ダイナミック・パースペクティブ」機能などの他のスマートフォンにはない先進的な技術が盛り込まれており、ハードウェアの技術的な水準自体が高いことは一目瞭然でしたが、これらの高性能ぶりは大手メディアに高く評価されることはありませんでした。

そして、何よりも市場でほとんど売れず、当初、2年間のモバイル回線契約を条件に199ドル(約2万4000円)としていた販売価格を0.99ドル(約120円)に値下げするなど販売戦略が後手後手に回り、いつしか不人気端末扱いから「忘れられた存在」にまで格下げ。そして、Amazonは2014年第3四半期に4億3700万ドル(約520億円)という過去14年間で最大の赤字を出しました。この大きな要因の一つが1億7000万ドル(約200億円)分の特別損失を計上したFire Phone事業の不振にあることは明らかで、もはや「なかったこと」にされそうなほどFire Phoneの評判は失墜しました。

Fire Phoneが失敗に終わった理由については、その「価格の高さ」がネックになったという見方が支配的です。Amazonは一部のKindle Fireシリーズを売れば売るほど赤字が出るという状態でも販売し続けたことがあり、また、「短期的には損をしても長期的には元を取る」という戦略で低価格な端末を提供してきたことから、「Fire Phoneも世間が驚くほど低価格で販売するのでは?」と期待する声が多くありました。しかし、実際には649ドル(約7万7000円)から(注:現在は449ドル(約5万4000円)からに変更)という価格設定だったため、「(Amazonのスマートフォンにしては)あまりにも高すぎる」と、ガッカリされてしまったというわけです。


しかし、Fire Phoneを開発したAmazonの開発チームLab126のメンバーの話からは当初、Fire Phoneを機能てんこ盛りの高価格なハイスペック機として開発する計画ではなかったことが明らかになっています。

Fire Phoneの開発は、AppleからiPhone 4が発売された2010年ころにスタートしました。当時、コードネーム「Tyto」と名付けられたAmazon製スマートフォンプロジェクトは、カリフォルニア州クパチーノのLab126デザインオフィスでスタートし、Kindleの成功にならって機能性を極限までシンプルにした「洗練されたスマートフォン」として開発することが計画されていました。しかし、ベゾスCEOは、"右にならえ"のありふれた端末をよしとはせず、「顧客がiPhoneではなくあえてAmazonフォンを買いたくなる独創性」を開発メンバーに強烈に求めたとのこと。

Amazon製スマートフォンの開発に並々ならぬ意欲をそそぐベゾスCEOの意向は、しばしばデザインチームの反対を押し切る形で反映されたとのこと。例えば、800万画素で開発していたリアカメラはベゾスCEOの鶴の一声で1300万画素に変更されたそうです。Lab126で開発していたあるデザイナーはベゾスCEOを「プロダクトマネージャーを超越した『スーパープロダクトマネージャー』という唯一無二の存在であり、すべての意思決定がベゾスCEOに管理されていた」と述べています。当時の状況については、「スマートフォンを使う人々のことを考えるのではなく、ベゾスCEOのことだけを考えて製品開発をしていた」とのこと。

By DonkeyHotey

ベゾスCEOの判断に疑問を抱く設計チームのメンバーも少なくなかったそうですが、誰一人としてベゾスCEOに意見することはできなかったとのこと。しかしそれは、かつて「送料無料」の方針を打ち出して株主の猛烈な反対を浴びたにもかかわらず断行した結果、Amazon.comの売り上げをよりいっそう拡大させたことや、クラウドサービス事業に乗り出すと表明したとたんに「本業に専念すべし」と専門家から冷徹な批判を浴びたにもかかわらず、その嵐の中を猛然と突き進み、今や数十億ドル(数千億円)のビッグビジネスにまでAWSを育て上げた豪腕かつ敏腕な天才経営者ベゾスCEOの実績を思えば、無理のないことなのかもしれません。

数ある選択肢の中でも特にベゾスCEOがほれ込んだのが、前述の裸眼3Dを実現するダイナミック・パースペクティブであったとのこと。裸眼3D技術に熱狂するベゾスCEOに対して、Lab126の開発メンバーは、ダイナミック・パースペクティブの開発に乗り出せば人的リソースを多く割く必要があり、開発期限の延期が予想されることが分かっていたにもかかわらず、「その技術を活用できるコンテンツはまったくもって見あたらない」と進言できなかったそうです。結果、Lab126はベゾスCEOが要求する「他のスマートフォンと一線を画する独創性」を、"技術の無駄遣い"とでもいうべき裸眼3D開発に求めて突き進んでしまったとのこと。その結果、生まれたのがiPhoneシリーズやNexusシリーズと大差ない高価格帯のハイスペックスマートフォンFire Phoneだったというわけです。

発売から約7カ月の現時点で「失敗」と結論づけられているFire Phoneですが、21年もの間、利益を生み出すことなく赤字経営を続けながら、絶え間なく巨額の投資を繰り返し、その度に驚くべき飛躍を遂げて、ネット小売りだけでなくさまざまな分野に進出してライバル企業をことごとく退けまくり、一大「Amazon帝国」を築き上げてきたベゾスCEOのことなので、Fire Phoneの失敗は「まだまだこれから。スタートでつまづいたに過ぎない」と考え、反撃の計画を練っているということも十分あり得ます。いずれにせよ、モバイル端末の爆発的な普及を考えたとき、Amazonが「自社製のスマートフォンを持つ」という選択肢を捨てられないのは明らかだと言え、今後、ベゾスCEOがFire Phoneをどうてこ入れし育て上げていくのかには注目です。

・つづき
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in メモ,   モバイル,   ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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