躁うつ病患者が情緒不安定になるタイミングを「声」で検知する試みが進行中

By Airman Magazine

躁うつ病(双極性障害)患者は、気分が異常に高揚してイライラして怒りっぽくなる「躁状態」になったり、抑うつ気分や意欲・興味・精神活動の低下、不眠などが顕著になる「うつ状態」になったりと、日々の気分がコロコロと変化してしまうので、その影響から仕事を失ったり人間関係が崩れたりと、散々な目に遭うことがあるそうです。そんな双極性障害患者の「気分」のサイクルをスマートフォンから確認できるようにするためのプロジェクトが現在進行中です。

Mood Ring—Cell Phones Can Hear Depression in People’s Voices - Facts So Romantic - Nautilus
http://nautil.us/blog/mood-ringcell-phones-can-hear-depression-in-peoples-voices

ミシガン大学の研究者であるMelvin McInnis氏率いる心理学者のチームは、双極性障害患者が情緒不安定な状態に陥るのを感知する、「PRIORI」と呼ばれるプロジェクトを進めています。

プロジェクトでは、ユーザーが携帯電話を使って話している際のデータを収集することで、双極性患者が躁状態になったりうつ状態になったりする際のかすかな兆候を見つけるためのアプリの開発を行っています。このアプリが完成すれば、気分がコロコロ変わる情緒不安定な状態にあることを患者がいち早く自覚することが可能になるので、意識を失う前に医療の助けが必要な状況であることを認識することや、情緒不安定な状態のせいで仕事や人間関係で致命的なミスを犯してしまう、といったリスクを減らすことにもつながるとのこと。

もちろん、双極性障害のような気分障害を患っていない人の声からも、その人がどんな気分であるのかを読み取ることは可能です。しかし、特に気分障害の人の声からは、感情の変化が読み取りやすい、とのこと。例えばうつ状態の人は、ゆったりとしたペースで、単語と単語の間の息つぎが長くなり、単調でしわがれた声で話をするだとか、躁状態では、大声かつ速いペースで切羽詰まったかのように話す、といった特徴があります。

研究チームは、気分の低下などを識別するために双極性障害患者の声からいくつかの特徴を抽出しているわけですが、これは抗うつ薬が患者にしっかりと効いているかどうかを確かめるための指標にもなる、とのこと。

By Victor

携帯電話用のアプリを開発しているのは、ミシガン大学でコンピューター科学の研究を行うEmily Mower Provost氏とZahi Karam氏。声の大きさやテンポなどを解析することで、情緒不安定な状態になる前に双極性患者にそのことを知らせることができるシステムの開発に取り組んでいます。

例えば「声の大きさ」は、躁状態やうつ状態であることを確認するのに重要な指標になるわけですが、その他の声に関する情報や「いつ情緒不安定になったか？」などを見れば、この情緒不安定な状態になるタイミングを検知する精度はより高くなります。ただし、現在のところどういったデータが最も気分の変化を察知することに役立つのかは明らかになっていません。しかし、双極性患者の状態を声から推測するためのアルゴリズムはすでに存在するそうです。

以下のグラフは双極性障害患者の声から患者の状態を推測するアルゴリズムが出力するデータをグラフ化したもの。左側の波形は躁状態(manic)、正常時(Euthymic)、うつ状態(depressed)の際の双極性障害患者の声の波形(1秒間)で、右側がアプリが検知可能な「気分のレベル」を表したグラフ。波線横のカラフルな長方形は、声から抽出されたさまざまな特徴を示しており、例えば正常時の「1」と「9」や、うつ状態の「5」と「10」は他よりも大きく数値が変化していることが分かります。

現在、10人の双極性患者を対象にアプリの検証が行われているそうです。この被験者の数はこれから60人にまで拡張される予定で、被験者は数年に渡って携帯電話を使ってモニターされる予定となっています。