取材

生徒数5万人のマンモス校など元教師が驚いた海外の学校4つ


ところ変われば教育も変わる……ということで、インドにあるギネス認定「世界一生徒数が多い学校」など、特に印象深かった学校4つをレポートします。

こんにちは!世界新聞特命記者の雑色啓晴です。僕は今、アフリカのエチオピア(星印)に居ます(赤線は陸路、青線は空路で移動)。その前はインド・中東・東欧に3か月間滞在していました。


僕は旅立つ前に、中高一貫校で理科教師をしていました。それ故、「海外の中学・高校を見学する」ということを旅の1つのテーマとしています。その目的は「新しい授業手法を得る」「海外の学校の特色を知る」「各国生徒のリアルを知る」「クラブ活動を日本と比較する」の4点です。


今回掲載する4校はいずれも写真取材の許可が出たもので、それぞれ生徒へのインタビューも掲載しています。前回のアジアの学校まとめは「元教師を驚愕させたアジアの中学校・高校6つ」です。

・インドにはギネスに登録されている5万人のマンモス校があった
インドではラクノーにある私立校・City Montessori Schoolを訪問しました。


この学校はギネスによって、世界一生徒数が多い学校として認定されています。この写真は学校から頂いた資料の裏表紙に掲載されていたもので、校内にもこの写真が大きく掲示されていました。右上にはしっかりギネス認定のマークが見えます。学校関係者によると、この3万9437人は2010年度の生徒数で、現在は5万人とのこと。


ここでは、小学校5学年・中学校3学年・高校4学年の合計12学年が学んでいます。1つの校舎で学んでいる訳ではなく、20ものキャンパスに分かれています。写真はそのうちの1つのキャンパスの表に止まっていた複数のスクールバス。圧巻ですね。


僕は4000人規模の分校に訪問させて頂きました。インドの学校は授業が英語で行われるイングリッシュミディアムとヒンディー語で行われるヒンディーミディアムに分かれます。私立の学校のほとんどがイングリッシュミディアムで、ここも勿論すべての授業が英語でした。インドの教育意識の高さに焦りを感じました。


さらに驚かされたことは、中等部のすべてのクラスで電子黒板が導入されていた事です。これにより、映像が主体の授業が行われています。この理科の授業では物質の状態変化を説明していました。温度の変化とともに固体・液体・気体の移り変わりが目に見えて理解できました。この電子黒板の導入により、三次元的な理解が容易になったといいます。


問題を解くときだけ、あくまで電子黒板内で先生が板書を行っていました。この授業方法は、先生たちの授業形式の統一・授業準備の軽減などのメリットが見込めますが、授業のオリジナリティが少なくなってしまうのは残念です。


こちらは最後に見せていただいた高校物理の教科書。この厚さを一年間で学習するそうです。日本とは違い、写真がほとんど見当たりませんでした。


高校2年生(日本では高校1年生)のスグラさん。日本人とインド人のハーフです。日本の学校に通う機会もあったようで、インドとの学校事情の違いについて「インドにはいじめがない。いじめる子が白い目で見られる」と語ってくれました。放課後は塾で忙しく、将来は中東の資源を欧米から守るボランティアをしたいと言っていました。


今回見学してみて、生徒一人ひとりの学習意欲の高さに驚かされました。見せていただいた授業には教科書を読むだけの、退屈な授業もありました。しかし、誰1人居眠りをしていないし、聞いていない生徒もいませんでした。それどころか、読み上げる言葉を逃さないよう生徒たちが必死にノートしている光景は、今後のインドの発展を目の当たりにしているようにさえ感じました。もちろん、この学校が進学校という事もあるのでしょうが、5万人もの生徒がこの学習意欲を持っているだけでも末恐ろしいことです。

・アルメニアでは中2で物理の力学を勉強する
東欧のアルメニアでは首都エレバンにある、語学に重きを置く私立の学校を見学しました。日本でいう小学校と中学校と高校が併設されていました。


物理の授業を見せていただけると聞いて、高校生を想像していた僕は、教室を開けた瞬間に生徒の幼い顔に驚きました。この生徒たちの年齢は13歳~14歳、日本で言う中学二年生です。教室は20人と少人数でした。


物理でなく基礎科学の事かなと思っていると……黒板には物理の文字式が記入されました。このV-tグラフは日本では物理基礎(物理Ⅰ)で学びます。一般的には高校2年生で履修します。


教科書を見せてもらうと自由落下の式が見えました。恐らくこの前のページには運動方程式が紹介されているのでしょう。これも日本では高校2年生で履修します。


この授業に対して生徒の反応はというと、積極的に質問している生徒や、前に出て黒板にすらすら回答する生徒がいる一方……


堂々とケータイをいじっている生徒もいました。全体的に騒がしく、理解している生徒は半数ぐらいだと思われます。


彼女は高校3年生のメルさん。韓国語が得意で、卒業したら韓国に留学したいと言います。放課後は受験勉強に忙しいようです。


アルメニアは小学校でチェスを義務教育化した国でもあります。前述の記事中で、アルメニアの文部大臣が義務化の目的の一つが論理的思考能力の向上だと言及していますが、その論理的思考能力を基盤とした教育プログラムが組まれている為、物理を早い時期から学べるのでしょうか?

・ルーマニアの美術高校は酒とタバコで彩られる
ルーマニアではブカレストの公立の美術高校を訪れました。外務省のページによると音楽や体操を専門にする高等学校があるなど、学校の種類が多いのがルーマニアの特徴となっています。


校内に入ると制作途中のものでしょうか?アーティスティックに彩られた廊下が出迎えてくれました。美術高校らしくて、心躍りました。


見学させて頂いたデッサンの授業。20人程の生徒がいました。もちろん、ふつうの高校と違って机なんてありません。彫刻・映像などの分野によって教室のスタイルも様変わりしていました。


作品を見せて頂きました。さすが美大生ならぬ、美高生!陰影によって、作品が立体的で動きそうです。


彼らは、校内を案内してくれた生徒です。彼らの行動が今回見学していて一番の衝撃でした。最初に会った時から少し顔が火照っているなとは思っていたのですが、なんと学校にビールを持ち込んで、飲んでいます。一番左の生徒の右手を見てください。タバコは彼らだけでなく大半の生徒が休み時間にスパスパ吸います。もちろん、校則違反(というか違法)なので、先生が通ると隠します。この学校が特別なのか生徒に聞いたところ、ルーマニアの高校の80%はこうだと言っていました。


右の女子生徒は18歳(高校3年生)のクリスティンさんです。彼女の専門は服飾です。高校を卒業したら大学に行かず、ファッションの仕事に就くようで、放課後もデザインや裁縫の勉強に明け暮れているようでした。


ちなみに左の女子生徒の髪に刺さっているものは……お箸でした(笑)。さすが、美高生。ファッションも一味違います。


ここの生徒はほとんどが美大に進学か自分の専門関係の職に就くといいます。つまり、普通科の高校が比較的少ないルーマニアでは、中学生の内から自分の進路決定をする人が多いと思われます。僕は22歳の時にやっと教師になろうと決めたので、中学生の時に進路を決めさせるルーマニアの慣習に対して無謀だと思いつつ、羨ましさも感じます。

また、ルーマニアは治安が悪いことで有名です。2012年には日本の女子大生が殺害される事件が置きました。その原因が飲酒・喫煙などを取り締まらない教育機関の乱れにあるのかと思わずにいられないのが残念です。

・先生たちが若くて面白い、ヨルダンの男子校
ヨルダンではペトラにある公立校・Asim Ibn Thabit Essential School を見学しました。10歳~15歳までの生徒が学んでいて、全校生徒が約400人です。ヨルダンは人口の93%がイスラム教の為、日本の高等学校にあたる中等教育校まで男女別学になるようです。


英語の授業の様子です。この英語の先生は元々UAEの教育機関で働いていて、英語教育を発展させるべくヨルダンに戻ってきたと言います。従って、英語で授業が行われていました。黒板の上にわざわざホワイトボードを設置している理由を聞き忘れました。気になりますね。


校内を案内してくれた先生たちです。男子校なのですべての教員が男性でした。しかも、写真のような20~30代の若い先生がほとんどで楽しそうな職員室でした。


実験室を見学させて頂いた時は先生が、ユーモアたっぷりに血圧計と聴診器で医者になりきってくれました(笑)。生物の授業で使うのでしょうか?


もう一つ気になったのはガスバーナーです。日本のようなガス調節ねじ・空気調節ねじがついたものでなく、アルコールランプもありませんでした。理由を聞いた所、安いからだそうです。


彼は15歳(9年生)のピレー君です。得意科目は英語で、将来はパイロットになりたいと言います。放課後は部活としてではなく、友達とサッカーをするようです。


化学の授業にお邪魔した時に生徒から大歓迎を受け、興奮冷めやらない1人の生徒を見かねた先生が「日本でもうるさい生徒にこうやって罰を与えるのかい?」と生徒を殴るふりをして教室中がにぎやかなムードに包まれました。これはほんの一例で、全体を通して楽しさが伝わってくる学校でした。これが男子校から滲み出る楽しさであることを男子校出身の僕は感じ、ノスタルジアに浸りました。

・まとめ
今回、本来は中東の学校をまとめる予定でしたが「休暇が多いこと」と「写真許可が下りにくい事」から断念せざるをえませんでした。中東地域は気温が高いせいで夏期休暇が3か月に及ぶ国もありましたし、加えてイスラム教の祭典による祝日が多かったです。特にパキスタンにおける科学教育には興味があったので残念です。というのも、パキスタンで会った反米精神を持った青年は、ハリケーンが発生する理由を「神に背いているからだ」と本気で語っていました。僕はこの時代に科学現象を神の力だという国があるなんて思ってもいませんでした。

今回見学した学校だけで判断するのはいささか無鉄砲ですが、インドからは他の国とは違う「学習意識の高さ」を感じました。僕はインドを今まで、教育水準の低い発展途上国で、最近になってIT教育が充実してきた程度に思っていました。しかし、今回をきっかけに調べてみるとアジア人初となるノーベル賞を受賞したのはインド人のラビンドラナート・タゴール氏の文学賞であり、その後も物理学賞・経済学賞と受賞者を輩出しており古くから教育へ力を入れていたことがわかりました。

こういった自らの偏見を覆す度に、旅に出て良かったと実感します。残りのアフリカ・南米も現地から学校情報を伝えていきたいと思います。

文・取材:雑色啓晴 http://zoshiki.com/wp/

監修:世界新聞 sekaishinbun.net


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in 取材, Posted by logc_nt

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