世界中の朝食を置き換え続けるシリアル食品の知られざる普及の歴史とは?

By Ramnath Bhat

手軽に食べられる栄養豊富な朝食としてシリアル食品は世界中で人気です。しかし、シリアル食品産業が大きく成長し、世界中の国々の食卓にシリアル食品が普及してきた背景には知られざる戦略があるようです。

Drop that spoon! The truth about breakfast cereals: an extract from Felicity Lawrence's book | Business | theguardian.com
http://www.theguardian.com/business/2010/nov/23/food-book-extract-felicity-lawrence

イギリスのThe Guardian紙がイギリスの朝の食卓を一変させたシリアル食品の成長の裏にあるシリアルフードメーカーの歴史とその戦略についての調査レポートをまとめています。

イギリスでは伝統的にパンやミルク粥に紅茶もしくはコーヒーというのが朝食のスタイルでしたが、90年ほど前にアメリカから最初のシリアル食品として「コーンフレーク」が上陸すると、次第に「朝にシリアル食品を食べる」という習慣が根付き、シリアル食品は今ではすっかり朝の食卓の主役に躍り出るまでになりました。

シリアル食品はアメリカで生まれた食べ物で、アメリカ食で世界に浸透したものとしてハンバーガーと双璧をなす存在ですが、そのルーツは19世紀にアメリカで起こったTemperance movement(禁酒運動)にあります。禁酒運動では健康への害を減らす目的でアルコール消費量の抑制の必要性が叫ばれましたが、同時に肉食の代わりに菜食を良しとする風潮も生まれました。

By Roadsidepictures

中でも1830年代にシルベスター・グラハム牧師が聴衆に「菜食の美徳」を説くと、全粒穀物を粉にした通称「グラハム粉」が生み出され、これを水で練り固めて焼いたあと細切れにするシリアル食品の原型が誕生しました。

グラハム粉ベースのシリアル食品は岩のように硬かったため、食べる前に一晩かけて水に浸す必要があり、また、栄養成分から換算すると10倍も高価だったにも関わらず、菜食の美徳の風潮により売れ行きはとても良く、ここにビジネスチャンスを見いだした多くの人や企業がシリアル食品の開発に乗り出しました。

その中には、後にケロッグ社を設立するジョン・ハーベイ・ケロッグとウィリアム・キース・ケロッグのケロッグ兄弟も含まれており、シリアル食品を製造するためにシリアル食品「Granola(グラノーラ)」を開発し人気を呼んでいました。なお、Granolaは当初、「Granula」という商品名でしたが、Granulaというオリジナル商品を開発していた先発企業に訴えられたため名称変更したものだとのこと。


ケロッグ兄弟がシリアル食品を製造していたミシガン州バトルクリーク地方一帯には20世紀初頭に多くのシリアル食品メーカーが設立され、100を超える穀物工場が集積する一大拠点に成長していきました。その頃、ケロッグ兄弟はシリアル食品の原材料として小麦の代わりにより安価なトウモロコシを用いる「コーンフレーク」を考案しました。当初、傷みやすくすぐに腐敗臭のするトウモロコシの扱いに苦戦したケロッグ兄弟でしたが、見事これを克服しコーンフレークの製造技術を確立することに成功しました。

しかし、当時のシリアル食品は総じて味が悪く、「馬のエサ」と揶揄されるほどで、シリアル食品を食べる人は健康のために味に目をつぶっているという状態でした。そんな中、ケロッグ兄弟の弟・ウィリアムは、「不味いよりはよっぽどマシだ」と、シリアル食品に砂糖をかけることを決断し商品は人気になりましたが、シリアル食品最大のウリであったはずの「健康のため」という大義名分はあっさり撤回されました。

事業を拡大させたケロッグ社は、世界でシリアル食品を販売するためにグローバル戦略を迅速に採用し、1924年にはイギリスにコーンフレークを輸出し始めました。イギリスでの販売にあたっては失業者やボーイスカウトを採用して積極的な販促活動を行い、1936年にはイギリスでの売上高は100万ポンドを突破し、1938年にはマンチェスターに現地製造工場をオープンするなど大躍進を遂げています。

By Harald Hoyer

急速に普及していくシリアル食品でしたが、さかんにアピールされていた「高い栄養価」や「健康な食べ物」という点について、1940年代の時点で批判的な見解が出現していました。シリアル食品の栄養価を疑問視する人たちは、前述の食べやすくするために添加される大量の砂糖だけでなく、シリアル食品の製造過程で栄養成分の多くが除去されている点を問題視していました。

この批判をかわすためにシリアル食品メーカーの多くは、シリアル食品にさまざまな栄養成分を添加することで対応しました。ビタミンDに始まり、イヌリンなどの多糖類や甘味料、さらには近年マーケティングでさかんに訴えられるプレバイオティクスに至るまで、シリアル食品に栄養成分を追加するという戦略は現在も継続されています。つまり、シリアル食品の栄養素の多くは、原材料の穀物由来のものではなく、添加される栄養素によるものというわけです。

By Barb Watson

さらに、シリアル食品メーカーは、「健康に良い」ことをアピールするために巨額の販促費用を投入していることも指摘されています。JPモルガンのレポートによると、シリアル食品における最も大きなコストは、商品開発費でも製造コストでもなく「マーケティング費用」であり、その額は売上高の20~25%にも上るとのこと。

なお、マーケティング手法としては、テレビで健康に良いことをアピールするだけでなく、アニメキャラクターを制作するなど子どもをターゲットに定めることが多い点も特徴的です。これは、子どもの頃からシリアル食品に慣れ親しませることで、大人になっても継続的に購入するよう潜在的な動機付けを行うという手法で、ハンバーガーチェーンのマクドナルドも採用していることで知られています。

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巧みなマーケティング手法でイギリスをはじめとして世界中に普及してきたシリアル食品ですが、次なるターゲットは中国・インドという急成長中の巨大市場であると見られています。

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in メモ,   , Posted by darkhorse_log

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