取材

「攻殻機動隊ARISE border:2」はProduction I.G史上最高のアクション映画と社長が太鼓判


11月30日から全国の劇場で公開される「攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers」の完成披露上映会と舞台挨拶が11月18日にTOHOシネマズ六本木ヒルズで開催されました。登壇したのは総監督・キャラクターデザインを担当した黄瀬和哉さん、シリーズ構成・脚本の冲方丁さん、border:2の監督を務めた竹内敦志さん、バトー役の松田健一郎さん、サイトー役の中國卓郎さん、製作総指揮の石川光久さん。石川さんは、25年以上にわたるProduction I.G.の歴史の中でも、このborder:2が最高のアクション映画だと大絶賛でした。

司会進行は、2週間ぐらい前にもうborder:2を見たというニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さん。「周りに見た人が誰もいなくて、こうして話せる仲間ができて嬉しいです」と、border:2仲間が増えたことを喜んでいました。


なお、舞台挨拶はborder:2の上映会後に行われたものなので、border:2のネタバレ要素を含みます

左から黄瀬さん、冲方さん、竹内さん、松田さん、中國さん、石川さん。


黄瀬和哉(以下、黄):
こうして、平日にもかかわらずお集まりいただきありがとうございます。僕も先日、映像になったものを見ましたが、面白かったです。


冲方丁(以下、冲):
月曜の夜という忙しい時に来ていただいて、ありがとうございます。無事公開にたどり着いて、感無量です。僕も作品を見ましたが、初号試写を見ただけでは物足りずに、もう1回試写を見に行ってしまいました。


竹内敦志(以下、竹):
border:2の監督をさせていただいた竹内です。人の多さに震えが止まりません、忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今回、内容として少し背伸びをした形で作ったもので、クリエイターのみなさんやいろんな方のお力でここまで来られたという感じがします。ぜひ、見て楽しんでいただけたらと思います。


松田健一郎(以下、松):
バトー役の松田健一郎と申します。見ての通り緊張しておりますので、お手柔らかにお願いします。前回よりもバトーの出番が増え、アクションも2割増しになっていたので、楽しく演じさせていただきました。


中國卓郎(以下、中):
サイトー役の中國卓郎です。思い返せば、昨年の11月にオーディションの話をいただいて、あれからもう1年経ったかと思うと同時に、まだ実感がないんですが、border:2から作品に参加させていただき、ああ、現実なんだなと思っている次第です。


石川光久(以下、石):
Production I.Gは設立から25年以上が経ちますが、アクション映画としてはborder:2がベストですね。これを作ってくれたスタッフを褒めてあげたいです。そして、来ていただいた皆さん、本当にありがとうございます。


吉田尚記(以下、吉):
石川さんはborder:1の舞台挨拶でも「2がすごいから!」と仰っていましたが、これがI.G史上ベストだと。

石:
アニメは、ずっと実写を追いかけていたわけじゃないけれど、追い越すようなものを作りたいと思ってやってきたと思います。でも、本作を見たときに「違うな」と思いました。実写がアニメに追いつこうとしているんだな、という映像です。「実写を追い越そう」と頑張っているのではなく、ハリウッドのジェームズ・キャメロンやジョージ・ルーカスでもそうですが、このアニメみたいなものを実写で作れないかと、5年10年かけて追いかけているんです。border:2の映像を見て、そう思いました。

吉:
「攻殻機動隊」があったおかげで「マトリックス」が生まれたといわれていますが、それと同じようなことが……

石:
今日見て、確信しました。


吉:
中身について黄瀬総監督と冲方さんにお伺いしていきます。攻殻機動隊ARISEでは、border:1は今までシリーズの蓄積があるから発祥の物語になったということをうかがいました。全4作でborder:1はふりだしの物語、ではborder:2にはどんな役割があったのでしょうか。

黄:
とりあえずは公安9課のメンツを集めなければいけない、でも話数は使えないな、どうしよう……border:2でやるか、と(笑)


冲:
9課メンバー対9課メンバーという構図にすれば、一気に出られるなと思いました。素子対バトーだとか、サイトーが素子を撃とうとするとか、ボーマを踏みつける素子とか、仲間同士だと見られないようなシーンを作りつつ、話数のノルマもこなしつつ、どうにかしろと言われたのでどうにかしてみました(笑) だいたいは、喫煙所で黄瀬さんに「こんなのどうだろう」と言われて、あとは僕が何とかするというような感じです。

黄:
「お願いします」と(笑)

吉:
黄瀬さんの提案を解決するために、冲方さんは具体的なアイデアを思いつかなければならないわけですね。そんな中で、今までの攻殻機動隊には出てこなかったけれど「それがあったか!」というようなアイデアが出てきたりしています。

冲:
ヒーローものだと「彼・彼女にしか解決できない」という構図を作らなければいけないんですが、サイバーパンクの場合、社会対個人という構造を作り出すことができるんです。彼らの戦いを全員が見守らざるを得ない状況で、例えば荒巻らが干渉したり、補助したり、助けてくれる。そういう構造は作りやすかったし、同時に攻殻機動隊らしい構造だともいえます。ヒーローを作りやすい構造というのがこの作品の持ち味だと思います。

吉:
ヒーロー、正しくはヒロインかもしれませんが。

冲:
ああ、ヒーローと言っていて違和感なかったです。今日は(素子役の)坂本さんがいないから言いたい放題……意外と可愛げがないのをどうしようかというほうが課題ですね(笑)。電脳空間でロジコマと一緒のところとかは可愛かったかな?


黄:
そこだけですね。

吉:
素子が9課のリーダーらしい部分がどんどん出てきていますが、そのために他のメンバーは素子に制圧されていくんですね。

冲:
「素子vs9課」みたいになっちゃって(笑)、そこはサイトーやパズがいい味を出してくれています。以前から「かわいい素子」「かっこいい荒巻」「かわいそうなバトー」というのがあったんですが、今回はそれに続いて「感じ悪いサイトー」を出してみました。エーススナイパーは、そんな簡単に素子に従うような人格じゃないだろうということで。

吉:
順番ではないですが、ここで松田さんに聞かないと。松田さんは「攻殻機動隊」の大ファンだったとうかがっています。

松:
原作からずっと好きです。バトーをやることになって、「とんでもないことになっちゃったな、どうしよう」と……今でも信じられない気持ちでいっぱいです。

冲:
控え室で、「ペットボトルのキャップを目にくっつければいいよ」とかマジメに言ってたりしてね。

松:
はい、これをやるべきなのだろうか、やったら一皮剥けるだろうか、とか(笑)


吉:
バトーはborder:1から登場していますが、今回も「かわいそうなバトー」という表現がピッタリな役回りですね。

松:
煮え切らないというか、引きこもりっぽい感じがしていますね。過去の記憶に何とかしがみつこうとするバトーを見ていると、ああこれはもう一生素子には勝てないなと。

吉:
でも、負けるとわかっていても挑むという。

冲:
そこから主従関係が始まってるね。

松:
牢屋から出るときにも、「よし、行こう」ではなく「……行ってもいい?」みたいな感じがあって、素子に委ねちゃう部分があるところが、「かわいそうなバトー」たる由縁かなと思いますね。

吉:
今回、素子がいかにボスザルになるかというお話になっています。

冲:
イシカワがしれっと「メスゴリラ」と呼んでいますが、実はこのフレーズは初なんですよね。でも、そうは誰も思っていないぐらい自然に出てきています。

吉:
サイトーには新しく「感じ悪いサイトー」というキャッチフレーズがつけられましたが、中國さん。

中:
はい、感じ悪いサイトーです。僕はborder:2からの参加なので、まるで転校生みたいな気分でスタジオに入ったんですが、みんながすごく難しいことを喋っているんですよ。「ドミネ」とか「パンドラ↑? パン↑ドラ↓?」とか。収録自体はすごく和やかに温かい雰囲気で、しかも、録り終わるのが早いので、もっと長く録っていたいと思うぐらいでした。


吉:
難しいセリフが多い中、特に荒巻と素子は難しい会話を繰り広げていますが、サイトーはわりとシンプルな会話が多かったですね。

中:
良かったです、難しいところは坂本さんたちにお任せして、僕は僕なりに、とりあえず悪態をついていようと(笑) あとは、生きてて良かったな、と……。台本のト書きには「飛び降りるサイトー」と書いてあったのに、絵になってみると該当するシーンがなくて、「あれ?いない?」って。

竹:
描いてないんです。

吉:
まだシリーズは続きますから、安心して下さい。今回、ヴィヴィーやソガ大佐のように、新登場キャラクターが多く、しかも1回ではもったいないキャラも登場しました。

黄:
これはborder:2のメイン作画監督を務めた齊藤卓也さんがデザインしました。冲方さんの書いたシナリオに登場したキャラクターで、竹内くんが齊藤さんにイメージを伝えて、上がってきたものを見せてもらって「いいですよ」と。


吉:
今回、黄瀬さんは任せきった感がありますね。

黄:
CGは竹内くんがチェックしていて、初号試写を見るまではどういうフィルムになるかは知らなかったので、見てみてびっくりです。これほどのものができていればもう、ありがとうございますと。

竹:
今回は黄瀬さんと冲方さん、お二人の胸を借りるような思いで参加していますので、決してそんなことはないです。コンテもしっかりチェックしていただいています。キャラクターデザインの齊藤さんが色気のある絵を描かれるので、その持ち味が生きるようなキャラにしたいなとは思っていたので、色っぽい感じになるようにと心がけました。黄瀬さんには、もうちょっとごつい感じがいいというイメージがあったようで……。

黄:
アジア系ではないので、もっとごつい方がいいかなとは思いました。素子だけだと色気が足りないかなと思っていて、今回はシャワーシーンもないし……。

冲:
でも、電脳世界には気合いの入った女性たちがいましたね。

竹:
はい、あそこは一番枚数を使いました

冲:
キャラクターは動いていないのに服が細かく動いたりしていて、「どこに気合いを入れているんだ!」と(笑)

竹:
僕だけではなく、齊藤さんのこだわりでもあります(笑)

吉:
アクションの激しさや、緻密なのに破綻のない絵、そして「一瞬見ただけなのに、俺はこんなにも情報を把握できるのか」という画面構成になっていたと思います。このあたりは石川さんにお伺いしたいんですが。

石:
竹内敦志の凄さは「ジョージ・ルーカスが惚れ込んだ男」というのも頷ける映像を作るところです。

吉:
ルーカスというと、アニメ版のスター・ウォーズですね。

石:
今回、作中でロジコマがビルの間をワイヤーを使って飛んでいくシーンがありますが、「あれはどう見ても『スパイダーマン』をパクってないか?世界の竹内敦志も、こんなものか」と聞いたんです。すると、攻殻機動隊では素子のバディとしてフチコマがいますけど、1995年の押井守監督の「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」のときにフチコマが描けるとワクワクして下書きして、ワイヤーアクションも構想していたというんですよ。

竹:
当時、メカデザインをやらせてもらっていて、「攻殻機動隊」の発注前にすでに描いていたんです。ところがワイヤーワークをやろうと思っていたのに、フチコマが出てこない……。

冲:
GHOST IN THE SHELLだと、フチコマはいないことになってましたもんね。

竹:
その悔しさもあって、押井さんと描いた本(押井守・映像機械論[メカフィリア])の中で、多脚戦車がビルの中をワイヤーワークで飛んでいる絵を描いたんです。「本当はスパイダーマンよりもずいぶん前に描いていたぞ」と。今回、それをやることができたので、思い残すことはないですね。

冲:
実はアレもはじめてなんですよね、タチコマやフチコマ・ウチコマといった「コマ」シリーズが立体機動をする……立体機動といっちゃだめか(笑)、3次元機動をするのは。

吉:
18年前から構想があって、しかもハリウッドよりも先を行っていて、パクリではないということは資料として残っているんですね。その他にもアクションシーンにはこだわりが随所に見られますし、設定も美しいと思います。30年間、交通渋滞が起きていないとか。

冲:
交通管制が発達すれば渋滞は起きないはずですから。だからこそ、ドミネーションされちゃうわけですが。地味なところを拾っていただいてありがとうございます。

吉:
そういうものを映像にすることで大変だったこと、面白かったこと、いろいろあるのではないでしょうか。

竹:
リズムを刻むようにたたみ込むシーンを入れたんですが、それは黄瀬さんの好みに合わないということで削られてしまいました。

黄:
バイクのシーンでシフトチェンジする動きが入っていたんです。リズムとしてはいいんですけど、なくてもアクションで持つかなと思って削りました。結果、かなりアップテンポで動いていたので、ほっとしたなと。

竹:
1カットにしてしまうと手間が掛かるので、良かったかなと思います。

黄:
CG監督の井野元さんにはお世話になりました。

冲:
僕を間にしてせめぎ合いをしないで下さい(笑)


吉:
続いて、アフレコ現場についてお伺いしたいと思います。

松:
僕の場合、個人的な思い入れもあって緊張する現場でした。まずマイクの前に立つまで悩みに悩んで、2ではバトーの出番が増えて、アクションも増えて……しかも、ソガ大佐を演じられた沢木郁也さんは養成所時代の師匠でもあるので、「師匠と同じ現場で、ちゃんと見せられる芝居ができるかな」と、本物の上官と部下みたいなところもあったりして、非常に緊張しました。

吉:
攻殻ファンとしては、バトーはそういう感じがぴったりだと思います。サイトーとしてはどうですか?

中:
オーディションに受かったという連絡をいただいてから収録までに半年ぐらいあって、精神的に追い詰められました(笑) 最終的には「現場で9課のメンツと話して、なんとかなればいいな」と思ったんですが、現場は楽しくて、あっという間のことで、あんまり覚えていないぐらいです。次のborder:3を楽しみにしているという感じですが、先走りすぎですかね?

黄:
いやいや、大丈夫だと思います。

吉:
キャストの方々について言うと、ここでお知らせというわけではありませんが、イシカワ役を演じられた檀臣幸さんが10月10日にお亡くなりになられました。イシカワ役のキャスティングを担当したのは黄瀬さんということですが、一言いただけますか。

黄:
まさかということだったので……檀さんだけが別録りで、アフレコ現場を見に行けなかったことがすごく悔やまれます。

吉:
檀さんをイシカワに選ばれた理由は?

黄:
単純に、声を聞いて決めました。檀さんが出ていた仮面ライダーWはテレビで見ていたので、顔は知っているけれども名前を知らなかったという状態だったのを、後から知りました。

竹:
番組の打ち入りのとき、檀さんが「border:1には登場していないので、border:2で登場するのがすごく楽しみです」と仰っていたのを覚えています。border:2の中で、イシカワはここが見せ場だということで尺を取ったんですが、別録りながらもピッタリはまっていて、ほぼNGが出ず、スムーズに進みました。音響監督の岩浪さんもこれでいけると、かなりスッと終わった収録でした。次に登場するのを楽しみにしていたので、残念です。

吉:
では、最後にみなさんに向けてのメッセージをいただきたいと思います。石川さん、お願いします。

石:
border:2のテーマはアクションでした、圧倒的なクオリティで作ろうと。ここで敢えて言いたいのは、border:3のことです。これを言わないと帰るに帰れません!(会場笑) border:2でお客さんの気持ちをわしづかみにして、border:3で本当に「ARISE」を作ろうと。冲方丁が作家生命を賭けて、黄瀬和哉もアニメーター生命を賭けて作っています。これができれば本当の意味でARISEが立ち上がると思いますので、心待ちにしてお楽しみに!

冲:
また!?(笑)

石:
今度は黄瀬が一番やりたかったこと、冲方丁がやりたかったことができています。

黄:
私のオーダーを冲方さんになんとかしていただいたなという感じです。

冲:
いろんな話数構成が考えられる中で、どうですかと出した案の中から、僕が最も考えていなかったところを持ってこられて「おわーっ」となったことを覚えています……。

吉:
では、最後に代表して黄瀬総監督から一言お願いします。

黄:
border:2の公開はほぼ2週間後、30日からです。ぜひ、また足を運んでいただけるとものすごく嬉しいです。作品はborder:3、border:4と続きますので、そちらもぜひよろしくお願いします。

最後に勢揃いで写真撮影


こちらのお姉さんは顔と手足に義体ペイントを施していました。


11月30日からborder:2が公開され、次は「border:3 Ghost Tears」へと繋がっていきます。物語は全4部なので、ここで折り返しを迎えるわけですが、若き草薙素子たちは何と戦い、どこへ向かうのでしょうか……。

©士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会

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in 取材,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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