サイエンス

「なぜ無線通信で用いられる周波数帯域は2.4GHzなのか」調査中の学生の前に立ちはだかった最後の巨大な壁

By Idaho National Laboratory

Wi-FiやBluetoothなど、何気なく使用している無線の通信は「2.4GHz帯」という周波数を使用しています。では、なぜ「2.4GHz(2400MHz)」なのでしょうか。博士論文のテーマに「無線通信」を選んだ1人の学生がこの謎を追い続け、ようやくゴールが見えてきたところなのですが、彼の前にはとてつもない壁が立ちはだかってしまいました。その調査費用を賄うために、クラウドファンディングで助けを求めています。

Why 2.4GHz? Chasing wireless history | Indiegogo
https://www.indiegogo.com/projects/why-2-4ghz-chasing-wireless-history/



リメリック大学の研究生、ヒュー・オブライエンさんが博士論文のテーマとして選んだのは「無線通信同士の干渉」。導入部分で「干渉するのは、同じ周波数帯だからだ」と書き始めたオブライエンさんは、「では、なぜ同じ周波数帯なのだろう?」という疑問を持つことになりました。学生としては時間があり、エンジニアとしては知識もあったオブライエンさんは、これがなぜなのかを知りたいという際限のない欲望も持ち合わせていました。

この質問をぶつけると、ほとんどの技術者は「電子レンジがあるからだ」と回答します。しかし、オブライエンさんによれば、これはマルではなく「三角」の回答だそうです。というのも、そもそも、無線通信で用いる周波数が「2.4GHz(2400MHz)」だと決められた方が先で、しかも電子レンジは1GHz(1000MHz)から20GHz(20000MHz)までの広い範囲で任意に動作可能だからです。ところが、オブライエンさんが調べを進めていくと、オリジナルの電子レンジの特許は「3GHz(3000MHz)」前後の周波数で取られていたことが分かりました。これが、なぜ今は無線通信と同じ2.4GHz帯に定められているのでしょうか。


オブライエンさんが1940年代のITU(国際電気通信連合)やFCC(連邦通信委員会)などの資料を読み進めていった結果、1945年のFCC年報396ページには2300MHzから2500MHzが航空管制に割り当てられたという周波数分配表が掲載されており、その後、1946年6月27日版では2300MHz~2450MHzがアマチュア無線用、2450MHz~2700MHzがモバイル(ワイヤレス通信)用に再割り当てされていることがわかりました。

そして1947年のITU大西洋地区会議において、アメリカは2450mc(メガサイクル)の前後50mcをISM用に要求。メガサイクルは国際単位系に採用されなかったことから現在はヘルツで表記するようになったため、これはアメリカが2400MHz~2500MHzをISMバンドに割り当てるよう要求したということを意味します。

この会議の議事録には、「アメリカ代表がこの帯域をISMバンドに割り当てたのは、すでに国内に高周波治療器や電子調理器具があったからで、この調理器具は大西洋航路の船舶や航空機に搭載されるかも知れない」と書かれています。オブライエンさんは、この会議においてアメリカ代表が最初の商用電子レンジであるレイセオン・レーダーレンジ(Raytheon RaderRange)について言及したのではないかと考えていて、FCCが周波数を3000MHzではなく2450MHzにしたのはこのレンジの動作パラメーターに関係があったのではないかと予想しています。

1947年のFCC年報では、ISMのセクションで「医学、産業関係の利害関係者が参加して開かれたこれらの規制案の公聴会は1946年12月に開催された」と書かれている一方、1946年の報告書にはISMに関する記載はなく、この1946年の公聴会でレーダーレンジの周波数のことが決定されたと、オブライエンさんはにらんでいます。

しかし、これらの詳細な資料はオンラインでは閲覧が不可能な状態にあるため、オブライエンさんは資料管理請負会社に上記の事項に関わってくる資料を見せて欲しいと連絡。すると、以下のような返答がありました。

**社です。
我々は、急ぎではない資料請求について、捜索時間1時間につき50ドル(約4100円)をいただきます。
また、ファイルをメール添付でお送りするのには1通あたり10ドル(約820円)かかり、当該ファイルも1ページあたり30セント(約25円)かかります。
正直に申し上げて、リクエストいただいたファイルをどこから探したらいいのか、そもそも存在するのかどうかを把握できていない状態です。
おそらく、有益な情報としてお知らせするには数時間はかかると思われます。

オブライエンさんはこの資料のためにぽんとお金を出せるほどお金持ちではありませんでしたが、「世界中にはこの結果が気になる技術ファンたちがいるはずだ」と考え、クラウドファンディングを利用することを思いつきました。

目標額は500ドルに設定。これは資料管理請負会社の捜索時間に換算するとわずか10時間分です。しかし、オブライエンさんがこれだけの情報を得るのにすでに2~3倍の時間を費やしたのに対して、この会社はアーカイブを手元に持っているはず。「我々はすべてのFCCのファイルと文書を保管し、排他的にアクセスできます」とはこの会社のサイトの文言ですが、これが本当であれば、お金を払って調べてもらえば答えは得られるはずだ、というわけです。

クラウドファンディングの締切は12月20日。11月22日17時段階で残り335ドル(約2万8000円)です。

2012/11/22 18:36
投資は50%以上が集まり、残り215ドル(約1万8000円)まで来ました。

2012/11/26 9:39
「こんな小さな探求なのに、資金提供がこれほど早く予定額に達するなんて、予想していませんでした」ということで、オブライエンさんの予想以上のスピードでお金が集まり、無事予定額の500ドルを調達。現在は815ドル(約6万7000円)にまで到達しています。

オブライエンさんからは感謝の言葉とともに、誰かレイセオンで働いていた人を知らないか?という呼びかけが行われています。ひょっとすると電子レンジのマグネトロンを作るにあたり2450MHzのほうが動作が安定するので、FCCが他に取られないように先手を打って帯域を押さえたのではないないか、とオブライエンさんは感じているとのこと。事情についてはレイセオンに直接尋ねるのが早そうなのですが、残念ながらレイセオンは会社として学問研究を助けるつもりはない模様です。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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