世界を騒がせたOpenAIのサム・アルトマンCEO解任騒動の裏側で一体何が起きていたのか?

by TechCrunch
2023年11月、ChatGPTを開発するOpenAIの共同創設者兼CEOのサム・アルトマン氏が、取締役会によって解任されるという事態が発生しました。後にアルトマン氏はCEOに復帰しましたが、AI業界をリードする世界的企業の内紛は多くの人々の注目を集めました。経済紙のウォール・ストリート・ジャーナルで記者を務めるキーチ・ヘイギー氏が、サム・アルトマン氏の解任騒動の裏側をまとめた著書「The Optimist: Sam Altman, Openai, and the Race to Invent the Future(楽観主義者:サム・アルトマン、OpenAI、そして未来を発明する競争)」を2025年5月20日に刊行するとのことで、書籍から一部抜粋した内容がウォール・ストリート・ジャーナルのウェブ版に掲載されています。
Exclusive | The Secrets and Misdirection Behind Sam Altman’s Firing From OpenAI - WSJ
https://www.wsj.com/tech/ai/the-real-story-behind-sam-altman-firing-from-openai-efd51a5d

OpenAIは非営利法人である「OpenAI, Inc.」と、その子会社の営利法人「OpenAI Global, LLC」などで構成される特殊な会社です。このうち、非営利法人は「人類の利益のために安全で全人類に利益をもたらす汎用人工知能の構築」をミッションに掲げており、取締役会は株主の利益のためではなく、非営利法人のミッションに対する義務を負う立場にあります。
アルトマン氏の解任騒動が起こる約1年ほど前から、OpenAIの取締役会は新たに迎え入れるAI安全専門家を巡る議論で足踏み状態が続いていたとのこと。取締役会は慈善団体・Open PhilanthropyのAI安全性専門家であるアジェヤ・コトラ氏と面接を進めていましたが、アルトマン氏と同じく共同創業者で取締役会のメンバーでもあるグレッグ・ブロックマン氏の反対により、プロセスは停滞していたそうです。
アルトマン氏がコトラ氏の代わりとして取締役会メンバーに推薦した候補の1人に、AirbnbのCEOであるブライアン・チェスキー氏がいます。チェスキー氏はヘイギー氏の取材に対し、「ちょっとした権力闘争がありました。基本的なことですが、サムが名前を挙げた人物はサムに忠誠を誓っているに違いありません。だから他の取締役会のメンバーは、ノーと言ったのでしょう」と述べています。

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解任騒動が起きた時点で、OpenAIの取締役員はアルトマン氏、その盟友であるブロックマン氏、共同創業者のイリヤ・サツキヴァー氏、QuoraでCEOを務めるアダム・ディアンジェロ氏、起業家で慈善家でもあるターシャ・マッコーリー氏、ジョージタウン大学セキュリティ・新興テクノロジーセンターで戦略ディレクターを務めるヘレン・トナー氏の6人でした。特に後半の3人は、OpenAIと金銭的なつながりがありません。
OpenAIが開発するAIがますます強力になっていくにつれて、コーポレートガバナンスとアルトマン氏を監督する能力の重要性が、一部の取締役員により強く認識されるようになりました。トナー氏は取材に対し、「ChatGPTやGPT-4のようなものは、ここで賭け金が高まっていることを取締役会が認識する有意義なシフトでした」と述べています。そんな中、トナー氏とマッコーリー氏はすでにアルトマン氏への信頼を失い始めていたとのこと。
OpenAIはMicrosoftと共同で、新製品のリリース前にリスクを評価する共同安全委員会を設立しています。GPT-4の物議を醸す3つの機能のリリースについて話し合っていた2022年冬の会議で、アルトマン氏は「3つの機能すべてが共同安全委員会によって承認された」と主張したものの、トナー氏が証拠を求めたところ、承認されたのは1つだけだったことが判明しました。
また、同じ頃にはMicrosoftが共同安全委員会の承認を受ける前に、インドでリリース前のGPT-4のテストを実施。アルトマン氏やブロックマン氏はこの事実について知っていたと思われますが、リリース後に行われた取締役会の会議ではこの件について言及せず、外部の取締役員は6時間にわたる会議を終えた後、別のOpenAIの従業員に話しかけられて初めてこのことを知ったそうです。
追い打ちとなったのが2023年夏に開かれたあるディナーパーティーで、OpenAIが運営すると思われていた投資ファンドのOpenAI Startup Fundが、実はアルトマン氏個人によって所有されていることが発覚した件でした。OpenAIの幹部は取締役員に対し、アルトマン氏がファンドを設立したのは税務上の理由だったと説明しましたが、これにより外部の取締役員の間でアルトマン氏への疑念が強まったとのこと。

そして9月下旬、サツキヴァー氏がトナー氏に対し、当時OpenAIの最高技術責任者(CTO)を務めていたミラ・ムラティ氏と話すように伝えました。ムラティ氏はトナー氏に対し、以前からアルトマン氏の「有害な管理スタイル」が何年にもわたり問題を引き起こしており、アルトマン氏とブロックマン氏の関係によってムラティ氏の仕事が妨げられていると訴えたそうです。
再びサツキヴァー氏と話したトナー氏は、サツキヴァー氏がさまざまな理由でアルトマン氏への信頼を失っていることを打ち明けられました。たとえば、サツキヴァー氏は2021年にOpenAIの研究の方向性を追求するチームを設立したものの、その数カ月後にOpenAIの研究者であるヤコブ・パチョキ氏が同様のチームを設立し、サツキヴァー氏のチームは吸収されてしまったとのこと。サツキヴァー氏は取締役会がアルトマンCEOを解任できるようになる瞬間を待っていたと、ヘイギー氏は記しています。
この件以降、サツキヴァー氏とムラティ氏は慎重に取締役会のメンバーと個別に会話し、日常的に連絡を取り合っていました。10月にトナー氏がOpenAIの安全性を批判する内容を含む論文を発表した際には、アルトマン氏がサツキヴァー氏に対して「マッコーリー氏はトナー氏が取締役会を去るべきだとはっきり言った」と伝えましたが、マッコーリー氏とも連絡を取り合っていたサツキヴァー氏は、その発言がうそであると気が付いたとのこと。
サツキヴァー氏とムラティ氏は以前からアルトマン氏解任に向けた証拠を集めており、この段階になってサツキヴァー氏はGmailの自動削除機能を使い、トナー氏・マッコーリー氏・ディアンジェロ氏に証拠を記したPDFドキュメントを送信しました。アルトマン氏についてはうそや有害な行動が数十個にわたり記されており、その大部分はムラティ氏が撮影したSlackチャンネルのスクリーンショットで構成されていました。また、ブロックマン氏についてもいじめ疑惑に焦点を当てた内容が記されていたそうです。
そして11月16日、アルトマン氏とブロックマン氏を除く取締役会のメンバーがビデオ通話をつなぎ、アルトマン氏の解任に賛成票を投じました。また、ブロックマン氏が残っているとムラティ氏が暫定CEOに就任できる可能性が低いことから、ブロックマン氏を取締役員から解任することも決定されました。

アルトマン氏の解任が決まった日の夜、会議に参加していたムラティ氏に対し、取締役会からアルトマン氏の解任と暫定CEOへの就任要請が伝えられました。ムラティ氏は暫定CEOへの就任を受け、アルトマン氏を解任する理由について取締役会に尋ねたものの、取締役会は理由について説明しなかったそうです。
世界中にアルトマン氏解任のニュースが広まった11月17日、OpenAIの取締役会や経営陣が出席する会議が開かれました。この会議までの間に、ムラティ氏は「取締役会がアルトマン氏解任の影響にちゃんと備えておらず、結果としてOpenAIを危険にさらしているのではないか」と懸念を募らせていたそうで、会議でもアルトマン氏解任の理由について説明するよう、取締役会に30分の期限付きで求めました。
しかし、これに対して取締役会は「アルトマン氏の経営上の失敗を示す証拠を提供したのがムラティ氏であると明かすべきではない」と判断し、やはり明確な説明をしませんでした。取締役会はムラティ氏が従業員をなだめ、その間に次のCEOを探そうとしていましたが、それどころかムラティ氏は同僚を率いて取締役会に反旗を翻しました。また、アルトマン派の間ではすべてがサツキヴァー氏によるクーデターであり、それをトナー氏が後押ししたという話が広まり始めたとのこと。てっきり従業員から支持を得られると思っていたサツキヴァー氏は、この反応に驚いたそうです。
ソーシャルニュースサイト・Hacker Newsのユーザーが「記事を読む前よりも混乱しています」「ナンセンスです。ムラティ氏自身が説明するよう要求していたのなら、なぜ取締役会は彼らの決定を説明しなかったのでしょうか?」とコメントしているように、このあたりの経緯からムラティ氏やサツキヴァー氏、取締役会の間にも混乱があり、うまく連携できていなかったことがうかがえます。

結局、翌週にはOpenAIの従業員の9割が、アルトマン氏の復帰と取締役員の辞任を要求する書簡に署名。この中にはムラティ氏やサツキヴァー氏の名前もありました。こうして、アルトマン氏はOpenAIのCEOに復帰し、取締役会のメンバーも刷新されることとなりました。
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なお、サツキヴァー氏とムラティ氏はいずれもOpenAIを離れ、それぞれ異なるAIスタートアップを設立しています。
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in メモ, Posted by log1h_ik
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