OpenAIのサム・アルトマンCEO解任騒動は会社に批判的な論文を書いた取締役会メンバーを追い出そうとしたことが原因か
by TechCrunch
2023年11月19日に、OpenAIの共同創設者であるサム・アルトマン氏がCEOの座を取締役会の決定によって退任することとなり、同時にOpenAIを退社しました。アルトマン氏を追いかけるようにしてグレッグ・ブロックマン社長や一部の上級幹部もOpenAIを離れたことから、このニュースは世界中で大きく騒がれました。なぜアルトマン氏は取締役会との関係が悪化してしまったのかについて、取締役の1人が執筆した論文を巡るトラブルが一因であると報じられています。
Before Altman’s Ouster, OpenAI’s Board Was Divided and Feuding - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/11/21/technology/openai-altman-board-fight.html
Behind the Scenes of Sam Altman’s Wild Ouster From OpenAI - WSJ
https://www.wsj.com/tech/ai/altman-firing-openai-520a3a8c
OpenAIは、「非営利団体としてのOpenAI」の下に「事業を行う営利部門」が存在するという変わった仕組みになっています。これは「安全で全人類に利益をもたらす汎用人工知能(AGI)を構築するため」とOpenAIは説明しています。OpenAIがビジネス面で好調だったのにもかかわらず、アルトマン氏が突如解任されてしまったのは、取締役会が非営利団体としての判断を下したからというわけです。
アルトマン氏と取締役会の関係が悪化したのは今回が初めてではありません。2021年にOpenAIの共同創設者で研究担当ヴァイスプレジデントだったダリオ・アモデイ氏がOpenAIを退社したことがあり、この時もアモデイ氏を含めた数人がアルトマン氏をOpenAIから追い出そうとしました。しかし、アモデイ氏らの計画が失敗したため、最終的にアモデイ氏らはOpenAIを離れ、ライバル企業のAnthropicを設立しています。
今回、取締役会でアルトマン氏解任を支持したのは、OpenAIのチーフサイエンティストであるイルヤ・サツキヴァー氏、FAQサイト・Quoraの共同創設者であるアダム・ダンジェロ氏、起業家のターシャ・マッコーリー氏、Georgetown Center for Security and Emerging Technologyのディレクターであるヘレン・トナー氏の4人でした。
The Wall Street Journalは、OpenAI取締役会の関係者らの証言として「アルトマン氏解任の決定に至ったのは1つの出来事がきっかけなのではなく、時間の経過と共にだんだんと信頼が失われ、不安が増していったため」と説明しています。実際にOpenAIの取締役会は「アルトマン氏が取締役会とのコミュニケーションにおいて一貫して素直ではなかったから」と説明しています。
OpenAIは2022年から2023年にかけて、3人の取締役が辞任しています。その3人の中にはLinkedInの共同創設者でOpenAIに投資していたリード・ホフマン氏もいました。The Wall Street Journalは、このホフマン氏らの辞任によってOpenAIの取締役会は学者や部外者に傾き、アルトマン氏やそのビジョンに対する理解が薄まったとしています。さらにこの取締役会の空いた3人分のポストに誰を指名するかについても議論がまとまらず、記事作成時点にいたるまでポストが空いたままになっているとのこと。
そして、アルトマン氏と取締役会の間に不和が生まれた大きなきっかけが、取締役会メンバーの1人であるトナー氏が発表した論文でした。
トナー氏はGeorgetown Center for Security and Emerging Technologyのメンバーと連名で、「Artificial Intelligence and Costly Signals(人工知能とコストのシグナル)」という論文を2023年10月に発表しました。
Decoding Intentions - Center for Security and Emerging Technology
https://cset.georgetown.edu/publication/decoding-intentions/
トナー氏はこの論文の中で、「他社が同じような性能の製品を出すまで、(OpenAIのライバル企業である)AnthropicはチャットボットAIのClaudeのリリースを遅らせており、『ChatGPTのリリースに焦って手抜きのままでリリースをしない』という意志を示しています」と記していました。この部分がアルトマン氏の怒りを買ったとみられ、論文に対して「Anthropicのやり方を称賛する一方で、OpenAIの安全性に対する取り組みを批判しているようだ」と不満を示したとのこと。
特にOpenAIは2023年7月から連邦取引委員会から調査の対象となっており、この論文が不利に働く可能性があるとアルトマン氏はトナー氏に対してメールで警告しています。
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トナー氏は「この論文はAIを開発している国や企業の意図を理解しようとする際に一般の人々が直面するであろう課題を分析した学術論文です」と反論したそうですが、アルトマン氏は「OpenAIの取締役会のメンバーからの批判というのは非常に重みがあるのです」と回答しました。さらに、アルトマン氏はトナー氏を「会社に損害を与えた」と主張し、取締役会から解任しようという動きを見せたそうです。
The New York Timesによると、サツキヴァー氏はこの時にアルトマン氏に対し、AIの成長とAIの安全性のバランスを無視して成長のみに焦点を当てすぎているのではないかと考えたとのこと。結局、サツキヴァー氏はAIの安全性を重視するという理由で、アルトマン氏の解任に賛成しています。
アルトマン氏解任案が取締役会で提案されたとき、OpenAIの最高戦略責任者であるジェイソン・クォン氏は「アルトマン氏の追放は会社の将来を危険にさらすものであり、これは取締役会の責任に背反する行為だ」と述べました。しかし、トナー氏は「OpenAIの使命は『全人類に利益をもたらす人工知能を開発すること』であり、アルトマン氏を追放して会社がつぶれることがあったとしても、それは全人類の利益に一致する可能性がある」と主張。最終的に「アルトマン氏がいなければ、OpenAIはより強力になる」という主張が取締役の見解になったそうです。
なお、取締役会は、Twitchの元CEOであるエメット・シア氏をアルトマン氏解任後の新CEOに任命しました。しかし、シア氏を交えた全員集合会議を告知する社内Slackには、数人の従業員が中指を突き立てる絵文字で返答し、現場にやってきたのは十数人でした。そして、従業員770人のうち700人以上が「今の取締役を解任し、独立した取締役を新たに任命しない限り、OpenAIを辞職してアルトマン氏とブロックマン氏についていく」という内容の公開書簡に署名しています。
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