インタビュー

野望は特撮コレクションの美術館建設、特殊メイクの第一人者にして筋金入りの特撮マニア原口智生監督インタビュー


「ウルトラマン80」「仮面ライダー THE NEXT」「陰陽師」「リング0 バースデイ」など数々の映画で特殊メイクや造形を担当した日本屈指の特殊メイクアーティストであり、ウルトラマンメビウスなどで自ら監督、特技監督としても活躍している原口智生監督に、特撮の現状や今後の野望について聞いてきました。

また、原口監督は筋金入りの特撮マニアでもあるとのこと。幼少期から入り浸っていたという東宝の撮影所から、当時廃棄された撮影の小道具や模型をもらってきては保管しており、日本映画専門チャンネルの番組「特撮王国」で、その回のテーマに沿った貴重なコレクションを持ち寄って、特撮に関する深い知識を解説役として提供しています。特殊メイクアーティストであり、造形師であり、特撮マニアでもある原口監督は、現在の特撮を取り巻く状況をどのように見ているのでしょうか。

詳細は以下から。日本映画専門チャンネル『特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~』



◆幼稚園のころから東宝の撮影所に出入りする


GIGAZINE(以下、G):
特殊造形というものにとどまらず、ウルトラマンメビウスでは監督、特技監督、最近では「デスカッパ」の監督など、どんどん映画全体を手掛けられるようになっているという印象ですが、どのような経緯で現在のお仕事に就かれたのかお聞かせください。

原口智生監督(以下、原口):
僕は、人生の中で映画に関わるようになったのがけっこう早くて、最初はもちろん仕事じゃなかったんですが、祖父が東宝で録音技師をやっていましたので、幼稚園のころからですね。それと「北京原人の逆襲」で特撮監督をやった有川貞昌監督と父が仲が良くて、有川監督は円谷プロウルトラマンとかウルトラセブンもやっていたので、撮影所によく見学に連れていってもらっていました。幼稚園の終わりから、中学のころまで撮影所にはよく行っていましたね。


原口:
高校の頃から、撮影所で美術のアルバイトをやったり、着ぐるみを着るほうのバイトもやったりしていたんですが、そうこうして大学に入って、映画研究会に入り、在学中もバイトをちょこちょこやっていました。で、大学を卒業して、就職をする予定だったんですが、素行の事情で就職がダメになりまして、自主映画をやってた時代に知り合った手塚眞監督とか、石井聰亙監督とかから声をかけられるようになって、当時は特殊メイクでやっていこうと思っていたので、そのまま入って、今に至るという感じですね。

そうこうしている内に、特撮をやってみたくなって監督をやってみたり、逆に円谷プロのほうから頼まれて特撮監督をやったり、怪獣を作ったりとか、そんな流れですかね。


G:
「特撮王国」でも特撮について解説をされていますが、過去の作品についてもめちゃくちゃ詳しいですよね。

原口:
オタクという言葉はもうそんなに新しい言葉じゃないですけど、僕なんかはそのはしりの世代みたいなものかも知れませんね。撮影所にも足繁く行って、昔はけっこう撮影に使って壊れた物も廃棄されたりしていたので、家が近かったのもあって、そういうのをもらって大事にしてたという。自分のところに置ききれなかった分は友達に預かってもらったり、実家に突っ込んであったりしてたんですが。

◆予算に余裕がある作品なんてほとんど無い


G:
映画製作には時間とコストの問題がつきまとうと思うんですが、今まで一番厳しかった作品というのはどんなものでしょうか。

原口:
いっぱいありますね。「ガメラ大怪獣空中決戦」という樋口真嗣特技監督の1本目は、なかなか会社と監督サイドとのコンセンサスが取れなくて、キャラクターのデザインが決まらず、そうこうしている内にクランクインが近づいてきて、その上、作る物の数が多くて予算が少ないという状況で、これは大変でしたけど、なんとかやりきった感じですね。

G:
時間的な制約と予算的な制約では、どちらが厳しいんでしょうか?

原口:
どっちも厳しいですね。大体どっちも出てきます(笑) でも、余裕のある作品というのがほとんど無いので、慣れっこになっちゃいましたね。最初からあまり期待しないという。


G:
最近はCGを使った作品が増えてきていますが、こういう傾向の中で、特殊メイクの仕事への影響はあるんでしょうか?

原口:
僕も特殊メイクをやって28年くらいですが、始めた当時は、「猿の惑星」とかはありましたけど、業界にもまだいわゆる特殊メイクというちゃんとしたカテゴリもありませんでした。それがハリウッドのほうでSFXが出てきて、バブルの時になるとさらに作業量が増えて、それからデジタル技術が出てきて、仕事が減ってるんじゃないかという認識もあるだろうと思います。


原口:
ただ、特殊メイクというのは俳優さんありきなので、フルCGになってしまえば俳優さんも声だけになっちゃいますが、基本的に映画においては、今のところ俳優さんという実体を必要としないという映画はまだそんなにないと思います。仕事自体は減ってきているかもしれないけれど、それはCGの問題じゃなくって、業界の景気であったり、予算の問題だったりが大きいのかなと思います。

僕が始めた28年前の頃に比べれば、特殊メイクというものがスタンダードに「あるものだ」という認識になっているので、CGに押されて仕事が無くなってきているということで言えば、特殊メイクよりもむしろ、ミニチュア撮影とか着ぐるみのほうが減っているのかな、という感じですね。僕の場合は。

◆実はアバター見てないんですよ


G:
「アバター」の成功によって3D映画が量産されるような傾向がありますが、こういった流れについてはどう思われますか?

原口:
実はアバターを見ていないんですよ。興味が無いわけではないんですが、映画をたくさん見た時期っていうのが、学生の時だったり、子供の時だったりで、今僕は50歳なんですが、映画を見るということに自分の時間を使わなくなってきているんですね。下手をすると、劇場に映画を見に行くのが年に2回とか3回くらい。レンタルで見たりもしないんですよ。

結局、今、自分の中でやりたいこととか、やらざるを得ないこととかに時間を取られている中で、映画を2時間費やして見るという余裕が自分に無いという感じですね。忙しいということもあるし、優先順位として映画を鑑賞するということが後ろになっちゃってるんです。

映画も大作だと2時間以上、3時間とかもあるわけですが、まず個人的にもう長いのが嫌なんですよ。やっぱり90分くらいがちょうどいいですね。長くてもすばらしい映画はありますが。


G:
テレビが地上波デジタルに完全移行することが決定していますが、画面の高画質化に伴う特殊技術の難しさというのはあるんでしょうか。

原口:
今、デジタル放送という言い方をしていますが、10年前にハイビジョン、HDになるっていう時から、現実問題として作り物の粗が見えたり、女優さんで言えば肌の問題とか、壁に貼ってる紙のすぐ下にクギが出てるがバレたりとか、一時期騒ぎにはなりました。そうすると、ハードが高画質になったら周りの物のクオリティを全部上げなきゃいけないということになるんですが、でも予算に関しては景気があんまり良くないようで、被写体のほうのクオリティを上げるというところまでお金をかけられていない、というのがきっと現実なんじゃないかな。

画質が良いってことは、いいことなのかも知れないんですが、結局映画っていうのはウソなわけでしょ。劇中で演じている役は、あくまで役であって、例えば妻夫木聡くんが演じているとして、彼は本当は妻夫木聡くんなわけですよ。セリフを覚えて、ウソを演じてるわけで、そういうウソのものを高画質で見てもしょうがないんじゃないかなぁと思うんです。

僕が高画質で見るんだったら、やっぱり大自然とか、スポーツとか、そういうほうが良いんじゃないかなと思うんですね。


◆映画の道を目指す人へ


G:
最近の子供のなりたい職業というのが、公務員とか大企業のサラリーマンとか、安定志向が増えているということが言われたりしますが、原口さんのような職業を目指す人にアドバイスなどはありますか?

原口:
まあ、できればやめたほうがいい……と思うんだけど、どうしてもやりたかったら、人生なんてどうせいつか死ぬんだし、ひどい目に遭うとは思うけど、好きならなんとかなるんじゃないかな(笑)

僕は飽きたらやめるもん。何回もやめようと思ったことがありますよ。特殊メイクを長年やってきても、予算が無かったり時間が無かったり、それでもがんばってやったつもりが、できた映画が全然面白くなかったり。なにも報われないっていうようなことが多々あって、そのたびに「もうやめようかな……」って。こんなに働いてるのに、なんでこんなに経済的に苦しいんだろうとか。


原口:
やっぱり人間だから、好きだけど突然飽きちゃう時もあるんですよ。いろんなことが積み重なってるのかも知れないけど、「もうなんか飽きちゃったな」みたいな。でもまたしばらくするとやりたくなったり。だから、なんとも言えない。

今日も「特撮王国」に出演するのは3回目なんですが、人前に出てしゃべるのは得意でもないし、やりたい方向ってわけでもないんだけど、ゴジラとかウルトラマン、特撮が好きだったことに関しては一回も飽きたことがないというか、ずっときっと好きなんですね。一定して。で、僕ももう50歳だし、この番組に呼んでいただいて、昔もらったものを持ってきて、その話をするっていうのは、自分の人生の中でけっこう楽しいことなんです。


G:
仕事をする上で心がけている点というのはありますか?

原口:
気がつかなくて失敗したりすることもあるんですが、今日だと佐川監督とか川北監督とか、この世界で自分がメシを食える礎を築いてくれた先輩には敬意を持つっていうことですかね。その中で、影ながら業界を支えてきた先輩たちもいるわけで、そういう先輩たちの仕事っていうのを、自分が評価の糸口になりたいっていうのもあるかも知れないですね。

◆野望は美術館建設


G:
最後の質問ですが、今後こういうことをしたいというような予定や野望のようなものはありますか?

原口:
予定はなにも立ててないんですが、そりゃ潤沢な予算で撮りたい映画を撮ってみたいなっていうのはありますね(笑)

それ以外で言うと、さっきも言われたようにアバターとかの影響で従来の特撮っていうものが影を潜めて来ているっていうニュアンスは僕も分かるんで、その中で、僕がたまたま拾ったりもらったりした物をどうやったら活用できるのかなっていうのがありますね。


例えば「特撮王国」に呼んでもらうと、目の前にかつて撮影で使った物を持ってこれますよね。それが映画のカケラに過ぎないものでも、実際に使ったものを目の前にして、映画を撮った先輩と話すのって、なんかいいなって思うんです。それの何がいいかって、目の前に物があるからなんですよね。CGだけでできてる映画について、特撮王国みたいな番組で扱ったときに、目の前に何を置くんだっていう。それが特撮の造形っていうものの良さなのかなっていう。

だから、どこかの奇特なお金持ちがお金をドカンと出してくれて、美術館でも建てさせてくれないかなっていうのが野望ですかね。どちらにも現実味は無いんですが(笑)

G:
ありがとうございます。

最後に今回収録に使った原口監督のコレクションを近くで見せてもらいました。「極底探険船ポーラーボーラ」の撮影で実際に使用されたポーラーボーラ号。


「マイティジャック」で使用されたマイティジャック・マイティ号の尾翼


同じく「マイティジャック」で使用された水空両用高速戦闘機「コンクルーダー」


そして「デスカッパ」で使用したデスカッパの着ぐるみ(頭部)


日本映画専門チャンネル・「特撮王国スペシャル~第6弾 世界への挑戦状編~」
日本が海外とタッグを組んだ特撮映画を一挙放送!

<放送日>
3月19日(土)~21日(祝・月) あさ7時~ ほか

<放送作品>
「極底探険船ポーラーボーラ」/「デスカッパ」/「北京原人の逆襲」
「中国超人インフラマン」/「クライシス2050」/「白夫人の妖恋」
「ニッポン特撮、国境を越える!~世界に挑んだ男たち~ 1」

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in 取材,   インタビュー,   映画, Posted by darkhorse_log

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