汚染が原因か?アラスカで急増する鳥のくちばしの奇形の謎
アメリカ地質調査所の報告によると、1990年代後半からアラスカでくちばしが異様に伸びてカールしたり、上下のくちばしが交差したりしている奇形の鳥が多く観測されるようになっているそうです。
このような奇形の鳥はアラスカ州でアメリカコガラをはじめとした30以上の種において異常に高い割合で確認されており、発生地域はカナダのユーコン準州やブリティッシュコロンビア州、アメリカ本土のワシントン州などにまで拡大しつつあるとのこと。
汚染物質が原因であることを示唆する調査結果も出ているそうですが、原因究明にはさらなる調査が必要とのことで、アメリカ地質調査所では野鳥愛好家たちへ協力を呼びかけています。
詳細は以下から。Alaska Science Center - Beak Deformities
健康なアメリカコガラ。
くちばしのケラチン層が異常に発達し、カールしているアメリカコガラ。
こちらはくちばしが上下ともに伸び、完全に交差しています。
奇形はこれまでに2100羽以上の個体で確認されており、発現率は成鳥で約6.5%と推定されています。これは、これまでにスズメ目の集団で確認されたもっとも高い奇形率の記録の4倍以上の数値です。野生の鳥のクチバシの異常発達は通常の集団では0.5%未満とのこと。
クチバシの異常のほか、皮膚や脚、足、爪、羽などでも異常が見られるケースもあるそうです。奇形の個体はエサを食べるのに苦労するため、人間が用意したエサ場やゴミ捨て場などに居つく時間が長くなり、その分捕食者にとらえられるリスクも高くなります。また、毛づくろいが困難になるため、冬の間体温を保つことも難しくなり、死亡率が高くなります。繁殖期に卵を温めることや、ヒナがかえったあとにエサを取って運んだり、毛づくろいなどの世話をすることも困難になるため、親鳥の一方または両方がクチバシに異常を持つ巣ではヒナがかえる割合や巣立つ割合が低くなっているそうです。
アラスカ南岸・カナダ西岸からワシントン州にかけて生息するカラスのNorthwestern Crow(ヒメコバシガラス)でもクチバシの異常発達が見られ、成鳥の約17%が奇形と見られています。これは、野鳥で確認された奇形の率としては史上最も高い割合とのことです。
奇形の原因としては環境汚染・栄養・病気や寄生虫・遺伝などが考えられますが、これまでの調査で、症状としてクチバシの異常発達が見られることがある肝臓の病気や寄生虫などの形跡は見られず、この奇形が遺伝するという証拠も得られなかったそうです。
環境汚染については、これまでに1970年代に発生した五大湖周辺の魚を食べる鳥類での奇形は工業排水に含まれるPCB(ポリ塩化ビフェニル)やPCDD(ポリ塩化ジベンゾダイオキシン)、PCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)などの有機塩素化合物が原因であったこと、1980年代前半にカリフォルニアで発生した水鳥の奇形は農業廃水中の高濃度のセレンが原因であったことがわかっています。そこで、アラスカのアメリカコガラで健康な成鳥と奇形の成鳥、卵やヒナなど広範囲のサンプルで、金属元素や非金属元素、有機農薬やPCB・PCDD・PCDFを含むさまざまな汚染物質の有無を検査したところ、セレンなどの元素が奇形の原因であるという証拠は得られず、有機塩素化合物が原因と示唆するような結果が得られたそうです。特に、PCBはアメリカコガラの卵・ヒナ・成鳥に共通して見られ、その濃度とクチバシの奇形や孵化率の低下との相関が見られたそうです。
また、民家の庭などのエサやり場でよく見られるヒマワリの種に含まれる農薬などの汚染物質も調査したところ、汚染物質の濃度は低く、人間が与えるエサが汚染源となっている可能性は除外されたようです。
今後はPCBを含むダイオキシン類を中心にさらなる調査を進め、アメリカコガラだけでなくヒメコバシガラスでも調査を行う予定とのこと。さらに、ビタミンAやビタミンD3などの不足、カルシウムとリンの摂取率の偏りなどといった栄養状態もクチバシの異常発達の原因となりうるとのことで、汚染物質にくわえ何らかの理由による栄養不良も奇形発生に関与している可能性があるとして、この点も調査していく予定とのことです。
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