メモ

100万人近くの児童がADHD(注意欠陥多動性障害)と誤診か、学年の中で生まれが遅いことが背景に


幼稚園や小学校の低学年のころ、4月生まれの子どもは教師の話をよく聞き勉強やスポーツもできる「先生のお気に入り」が多く、3月生まれは逆にクラスのトラブルメーカーで「問題児」的な扱いを受ける場合が多い、と感じたことがある人も多いのではないでしょうか?

メディアの影響もありADHD(注意欠陥・多動性障害)の認知度が高く、ADHDを疑って受診する患者数も多いアメリカでは、現在18歳未満の子ども450万人以上がADHDの診断を受けていますが、そのうち100万人近くが誤診である可能性が高いことが明らかになりました。日本でも取りざたされ始めた感のあるADHDですが、アメリカ同様の誤診が発生する可能性を考えると、決して対岸の火事とは言えないようです。

詳細は以下から。Nearly 1 million children potentially misdiagnosed with ADHD, study finds | MSU News | Michigan State University

NCSU News :: NC State News and Information » Study Shows Birth Dates, School Enrollment Dates Affect ADHD Diagnosis Rates

これらの記事によると、ADHDと診断された450万人以上の児童のうち、5人に1人は学年の中で生まれが遅いことが原因で、つまり「5歳児が5歳児らしいふるまいをすると6歳のクラスメートと比べ落ち着きがなく見える」ことによりADHDと誤診されている可能性が高いようです。それらの児童が誤診によりリタリンの処方を受けているということであれば、長期的な健康への影響も懸念されるほか、年間5億ドル(約430億円)規模の金額が無駄になっていると、専門家が指摘しています。

映画やテレビドラマなどにADHDのキャラクターが登場することも多く、マジック・ジョンソンからパリス・ヒルトンまでさまざまな有名人がADHDと診断されことを公言しているアメリカでは、「ADHD」や「Hyper」といった言葉は人を形容する際日常的に使われ、落ち着きがなく衝動的な児童がADHDなのではないかと教師が疑い、専門家を紹介するのはごく一般的なこと。しかし、ADHDに処方されるリタリン(メチルフェニデート)はその覚醒剤的な作用から乱用も多く依存性も高い薬品であり、例えば血液検査や脳波測定といった神経学的な診断方法がまだ確立されていないため、一体どれだけのADHD患者が「誤診」や「詐病」であるのかという議論は絶えません。


ミシガン州立大学の経済学者Todd Elder准教授と、ノースカロライナ州立大学などの経済学者Melinda Morrill准教授らにより行われた2つの別々の研究で、「学年の中で生まれが遅いためADHDと誤診されている児童が多数存在する」という共通の結論を導く調査結果が出ています。

子どもがADHDであることに周囲の大人が気付かず、適切に診断され薬物治療を受けていれば改善されるはずの症状のために学業や社会生活で苦労する、というケースも防ぐべきことですが、逆にADHDでない子どもがADHDであると誤診され、薬の副作用や将来的に薬物依存となる可能性が高まるなどのリスクを負う場合も、子どもが被害者と言えます。

また、ミシガン大学のElder准教授の試算によると、年間3億2000万~5億ドル(約275億~430億円)程度の額が、ADHDと誤診された子どもの薬物治療に使われ、そのうち8000万~9000万ドル(約69億~77億円)はメディケイド(公的医療保険制度)が負担し税金の無駄遣いになっているそうです。


Elder准教授の研究では、Early Childhood Longitudinal Study(子どもの発達と幼児教育に関する長期的調査プログラム)から約1万2000人のデータを利用し、幼稚園の同じ学年の中で一番早く生まれた子どもと一番遅く生まれた子どもとの間で、ADHDと診断された子どもの割合や薬物治療を受けている割合を比較しました。

その結果、カットオフ・デート(アメリカでは州により異なりますが、「その日までに5歳になっていないと幼稚園に入れない」という日付、日本でいえば4月1日)に生まれた子どもは、カットオフ・デート直後に生まれた子ども(日本でいう4月2日生まれ)と比べ、ADHDと診断される割合が60%も高かったそうです。また、それらの子どもが8年生(日本でいう中学2年生)になった時点では、同じ学年で1番年少の子供は1番年長の子どもとくらべ、向精神薬を処方されている割合が2倍だったとのこと。

これは、カットオフ・デートが異なるさまざまな州でそれぞれの州内の子どもを比較しても、同じ時期に生まれたが住んでいる州のカットオフ・デートが異なるため「早生まれ」になったり「遅生まれ」になったりする子どもを比較しても、同じように明確なパターンが見られたとのこと。

例えば、カットオフ・デートが12月1日のミシガン州では、12月1日生まれ(学年で最年少)の子どもの方が12月2日生まれ(学年で最年長)の子どもよりADHDと診断されている割合が高く、カットオフ・デートが9月1日であるイリノイ州に住む8月生まれの子ども(日本でいう3月生まれにあたる)は、同じ8月生まれでもミシガン州に住んでいる子ども(日本でいう12月生まれにあたる)と比べADHD率が高いといった具合です。

ADHDの診断は専門の医師が行うわけですが、ADHDが発見されることが多い幼稚園~小学校低学年の子どもでは、クラスでの子どものふるまいを観察した教師による所見が診断に大きく影響する、とElder教授は語ります。

Elder教授の研究では、ADHDと診断されたすべての子どものうち、20%が「学年の中で比較的幼い」ことに影響された「誤診」である可能性が高いというのが最終的な結論で、アメリカには現在、学年の中で生まれが遅いためADHDと誤診されている子どもが約90万人いるという計算になるそうです。

「注意力や落ち着きがなく、じっと座っていられない子どもがいても、それは単に、その子が6歳児の中に紛れた5歳児だからかもしれないということです」と語るElder准教授。「5歳と6歳というのは大きな違いです。教師や医療従事者は、子どもがADHDであるかを診断する際そのことを考慮すべきです」


一方、ノースカロライナ大学のMelinda Morrill准教授らの研究では、国民健康調査や民間の医療保険のデータを用い、Elder准教授と同様にさまざまな手法で、子どもが学年の中で年少であるか年長であるかによるADHDの診断を受ける率の違いを分析したところ、カットオフ・デート直後に生まれた子ども(学年最年長)はカットオフ・デート直前に生まれた子ども(学年最年少)と比べ、ADHDと診断されている割合が25%低いという結果が出たそうです。

仮に、寒い時期の生まれや暑い時期の生まれといった生まれた季節が、何らかの理由によりADHD発症率に影響していると仮定しても、研究では同じ季節に生まれた子どもたちの誕生日がカットオフ・デート直前であるか直後であるかによりADHDと診断される率に大きく差が出るということが示されたので、季節による影響は無視することができます。

「これは、潜在する生物学的・医学的な理由とは別の要素により、ADHDと診断されたりされなかったりする子どもたちがいることを示唆しています」とMorrill准教授は語ります。同じ季節に生まれた子どものADHD発症率は一定であるはずと考えると、診断された率の差は、「7歳児に囲まれた環境で6歳児が6歳らしくふるまっていたため落ち着きがなく見えた」あるいは「5歳児に囲まれた環境で6歳児が6歳らしくふるまっていたため落ち着いているように見えた」ことによる違いであるというのが、合理的な説明とのこと。

例えば、仮に同じような言動をとりADHD発症リスクも同じである一卵性双生児が、カットオフ・デートを挟んで生まれたため違う学年に入学した場合、先に生まれた子どもは自分より年上のクラスメートに囲まれクラスの中で幼く見られ、後に生まれた子どもは年下のクラスメートに囲まれ大人っぽく見られることも考えられるわけで、その双子がそれぞれのクラスで同じようなふるまいをしていても、ADHDかどうか診断を受ける際に2人のそれぞれの担任教師の所見がまったく異なる、ということもあり得ます。


photo by Oude School

学年の中で年少な子どもに対するADHDの誤診を減らすことができれば、医療費を削減でき、本来薬物投与が不要だったはずの子どもへの副作用などの健康リスクも軽減できるので、この先取り組むべき重要な課題となるかもしれません。教師が児童を観察する際、その子が学年の中で年長な方なのか年少な方なのかを考慮すること、「5歳児と6歳児の違いは大きい」と心に留めておくことが、誤診を防ぐためのポイントとなるようです。

2010年8月20日11:42追記:なお、上記Elder准教授の研究に用いられたデータは1998年9月に始まる年度にアメリカのkindergarten(小学校1年生となる前の1年間、日本でいう幼稚園の年長組)に入学した子どものデータで、リタリンやそのジェネリックを含む薬物治療を受けていた割合のデータは、それらの子どもが5年生と8年生になった時点(2003年度と2006年度)でのもの。幼稚園のときにリタリンを処方されていたというわけではありません。

・関連記事
スポーツで成功するには春生まれが有利 - GIGAZINE

甘党は砂糖中毒?砂糖に麻薬なみの依存性があることが明らかに - GIGAZINE

中国がインターネット中毒を「病気」として扱うことに決定 - GIGAZINE

近い将来あなたの人生を変えることになるかもしれないすごい薬 - GIGAZINE

in メモ, Posted by darkhorse_log