大西洋横断定期便として計画された巨大飛行艇「Airliner Number 4」
ノーマン・ベル・ゲデス(ノーマン・ベル・ゲディーズ)は20世紀前半に活躍した舞台美術家・工業デザイナーで、1940年のニューヨーク万博で出展した「フューチュラマ」で有名です。彼が1929年に計画したのが、大西洋横断定期便「Airliner Number 4」。空想の飛行艇なのかというぐらい巨大な機体で、もし実現していたらかなり興味深いものになっていたことは間違いありません。
Airlinerについての詳細は以下の通り。
Airliner #4のヒントになったのはドイツ・ドルニエ社のDo Xという飛行艇。
水面に浮かぶDo X。
the flying boats
1920年代、大西洋を横断して旅客を輸送していたのは船舶か飛行船だったので、それに変わるものとして計画されたのが当時世界最大の航空機Do Xで、3機が製造されました。デモフライトは行ったものの問題点が多かったため、航空会社から注文を受けることはありませんでした。このDo Xを見て、ゲデスは「大きいこと」こそが安全性と快適性のキーになると確信、O.A.Koller博士の助けを得てAirliner #4を設計しました。
Airliner #4の威容。
横から見た断面図。フロートがむちゃくちゃでかい。
デッキの見取り図。これはラウンジやメインダイニングのあるフロア。
補助翼内部には機械室(修理作業も可能)があり、6つの代替エンジンを搭載しています。小さな鉄道のようなものが敷設されていて自由に補助翼内を動き回れるようになっていて、飛行中でもエンジン交換ができるようになっていたそうです。ダメになったエンジンは5分以内に予備と交換され、機械室に運ばれて修理されるらしい。エンジンは全部で20基だが、これは離陸のために必要な数で、巡航速度で飛ぶだけなら12基で十分だったらしい。機内には定員110名の40フィート(約12m)級救命艇6隻を積載、救命艇にはエンジン、側面に窓、無線通信機、2週間分の水と食料が積み込まれていた。さらに、機体のフロートには2機の折りたたみ翼式小型水上飛行機を搭載。この飛行機は空中・水上で離陸可能で、いざというときになれば助けを求めに行けるようになっていました。
はじめ、シカゴの実業家がAirliner #4を使い、シカゴ~ロンドン間をセントローレンス川と大圏コースを経由して結ぶことを考えました。入念な研究と計算の結果、この計画は商業的にもいけそうなことがわかりました。シカゴ~ロンドン間の飛行時間は42時間で、ニューファンドランド島を通る際に燃料を補給。一週間に3便の運行が可能で、週1便しか運行できない大西洋航路のオーシャン・ライナーに比べて大きなアドバンテージがありました。
現代のオーシャン・ライナーに使われる船の建造は6000万ドル(約70億円)近くかかるのに対し、Airliner #4は900万ドル(1930年代当時、現代の価値なら約1億ドル=約117億円ぐらい)。6機建造すれば往復運行がスケジュール通りできると考えられていました。運賃は船の一等運賃と同じぐらいで300ドル(現代なら約3500ドル=約41万円)ほど。しかも、設備は現代のオーシャン・ライナーと同じように広くて快適でした。
見込みによると、一週間運行すると運賃や郵便代、手荷物などから得られる収入が47万900ドル。コストは人件費や燃料・保守費用、諸経費、飛行機の減価償却など含めて27万3950ドルで、一週間あたりの利益は19万6950ドルになる試算でした。単純に現代での額に直すと224万3595ドル、日本円で2億7000万円ほどになります。本当に可能だったのだろうか…。
ちなみに、その後の歴史にこの飛行艇が出てこないことで分かるとおり計画はダメになってしまったようで、大西洋を横断する空路が誕生するのは1939年6月28日のパン・アメリカン航空による空路開設を待たなければなりません。この計画を進めたシカゴの実業家はしばらくは計画をあきらめていなかったようで、著書に以下のような言葉を残しています。「大陸間輸送のできる空路ができれば、その影響でシカゴだってニューヨークのように世界のメトロポリスになることは簡単なのではないか。」
設計したノーマン・ベル・ゲデスは1958年に亡くなりました。
元の記事は以下。
BelGeddes
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