皮膚の感覚や動作をこれ以上なく高い精度で再現する次世代の義手技術
事故などで体の一部を失ってしまった後に、従来の生活を取り戻すための道具として義手などの義肢が用いられています。より自然な感覚や操作を実現するためにさまざまな技術改良が続けられてきたわけですが、アメリカの研究チームによる実験では、従来よりも飛躍的に精度の高い感覚や動作が実現されているということです。
Artificial arms get closer to the real thing : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/artificial-arms-get-closer-to-the-real-thing-1.16111?WT.mc_id=TWT_NatureNews
研究チームが取り組んだのは、実際の触覚フィードバックによる機器の制御と、より信頼性の高いモーター制御を可能にするという2つの課題で、フロリダ大学の生物医学工学者であるケヴィン・オットー博士は「これらの技術は、従来の仕組みが持っていた限界に取り組み、解決するものになります」と語っています。
従来の義手では単純な刺激を与えることしかできず、装着者が得られる感覚はごく単純で、電気信号によるチクチクとした刺激を感じることもあったのですが、これは長い時間にわたって装着するにつれて不快感を増すものとなっていました。研究チームでは装着者の体に現存している神経に対して緻密な電気信号を与えることで、より正確な触覚を再現することに成功したとのこと。アメリカ・クリーブランド大学のダスティン・タイラー神経工学准教授は2名の治験依頼者に対し、パターン化されたパルス信号を複数の強度で与える検証を行うことで、「触覚の感じ方を従来の刺激的な感覚から、自然な圧力感へと改良することに成功しました」と語っています。
タイラー准教授が治験を実施する様子などは以下のムービーで見ることができます。
Restoring the Sense of Touch
研究チームでは、義手の指先に取り付けた圧力センサーに圧力が入力されると、装着者の感覚を再現する電気信号へと変換してフィードバックを行う仕組みを開発。異なったパターンの刺激を加えることで、「たたく」「継続的な圧力」「移動する圧力」などの感覚を再現することに成功しているとのこと。実験では、「指先に触れたサンドペーパー」や「手のひらにパッド」などの感覚を被験者は判別しており、予想を超える精度が実現されている様子がわかります。
この精密な感覚が実現されたことで、装着者が行える動作の精度も格段に向上しています。以下のムービーのような、チェリーから「へた」を取る作業の場合には、従来の義手を使った場合の成功率が個数比で全体の77%程度だったのに対し、新しい義手を使った場合には100%を達成しています。柔らかい果実を確実につかむためには繊細な触覚と操作が必要なので、この結果には特筆すべきものがあるといえます。
現状では、刺激を発生させる機器のサイズが大きく、体内に機器を埋め込む段階には達していないのが今後の課題とのこと。省サイズ化が成功すれば、ペースメーカーのように完全に埋め込むことが可能になります。
また、これと並行して脳から送られた指令を確実に読み取るための技術も開発されています。これまでの義手では、皮膚の上に装着した電極が筋肉に流れる微細な電流を感知することで操作を行っていましたが、この仕組みは皮膚の厚みによる影響を受けたり、温度や湿度などが原因の誤作動が起きていました。
そのため研究チームでは、義手そのものをチタン製のボルトを使って被験者の骨に直接装着する方法を検証。骨細胞はチタンのボルトにそって成長するために、皮膚の上から電気信号を感知するよりも高い精度でデータを採取することが可能になり、信号のノイズや欠落による誤動作を防止することが可能になっているそうです。2013年1月からこの装置を装着している元トラックドライバーの「Magnus N」氏は、「まるで本物の自分の腕のようだ」と自然な装着感を語っています。
オットー博士は「これらの技術がより高度に組み合わさることで、この分野では大きな飛躍が起こることになります」と将来の展望を語っています。治験に参加しているこの男性は、究極の理想について「妻の手を握って、この手に感じることができれば」と語っていました。
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