ロボット技術により3本目のスティックを得た義手の「サイボーグ・ドラマー」

生まれつきの盲目のギタリストが素晴らしいギタープレイを見せたり、事故により片手を失ってしまったドラマーが、特別製のドラムセットを開発したことで以前と遜色ない演奏が可能になるなど、ハンディキャップを負ってしまった人が素晴らしいプレイを行うという例はいくらでも見ることができます。現在開発されているロボットアームを使うと、以前にはなかった3本目のドラムスティックを使って、さらに上をいくプレイを披露することになるのかもしれません。

Meet the world's first cyborg drummer | Dazed
http://www.dazeddigital.com/music/article/19162/1/meet-the-worlds-first-cyborg-drummer-jason-barnes-robot-arm

2年前に不慮の事故で右腕の肘から先を失ったドラマーのジェイソン・バーンズさんは、一時期はプロのミュージシャンを目指していたこともありましたが、事故により従来のようにドラムを叩けなくなってしまいました。それでもドラムをあきらめきれなかったバーンズさんは、バネを使った簡単なドラム用義手を自作して再びスティックを握ります。

以前ほど巧みなスティックさばきはできないもののドラムを続けていたバーンズさんは、ジョージア州アトランタにある音楽学校「Atlanta Institute of Music and Media」に入学し、インストラクターのエリック・サンダース氏と出会うことになります。サンダース氏は、自作のドラム用義手を使っていたバーンズさんをジョージア工科大学のジル・ワインバーグ教授に紹介したことから、ロボット技術によるドラム用ロボットアームの作成に着手することとなりました。

ロボット義手を装着した「サイボーグ・ドラマー」のバーンズさんがプレイする光景を収めたムービーはこちらから。

Cyborg drummer creates unique beats - YouTube

ロボットアームの先に取り付けられたスティックが動き、シンバルのビートを刻みます。

ロボットアームには、なんと2本のスティックが取り付けられ、それぞれ別の動きをするようになっています。「ざーっ」というドラムロールもお手の物。

通常だと両手で刻むような細かいハイハットのビートも、片手だけで。

チキチキと右手が刻むハイハットに合わせて、残りの腕と体でビートを刻むバーンズさん。

アームの先にはコントロール基板やモーターが備え付けられ、スティックの動きをコントロールしています。ロボットアームはバーンズさんがドラムを叩く時に使っていた腕の筋肉の動きを感知するセンサーを備えており、バーンズさんのイメージに応じたスティックの動きを再現するようにプログラムされています。

他のミュージシャンとセッションを行うバーンズさん。ジャズドラマーの彼は、4小節単位でソロプレイを回しあう「4バース」もロボットアームを使ってこなします。

元のように、とはいかないまでも、自由にドラムを叩くことができている様子です。

以下のムービーでは、ロボットアームを作成したワインバーグ教授がセッションに参加している光景やインタビューを見ることができます。

Robotic Drumming Prosthesis - YouTube

部屋の奥でピアノを弾くワインバーグ教授

ロボットアームには筋肉の動きを感知するセンサーのほかにも集音用のマイクが取り付けられ、周りの音を聴いて自分でプレイを判断するようにプログラムされています。そしてそのプレイが3本目のスティックによって再現される、というわけです。

右手でゴーストノートを入れながらタム回しするようなプレイも可能になっているようです。

ワインバーグ教授は、「体の一部を失ってしまった人たちが元通りに、場合によっては以前よりも優れた動きをロボットアームが可能にすることも将来には可能です」と語ります。

バーンズさんは「ドラムを叩けるロボットができるなんて思ってもいなかったけど、近いうちに実現されることになりそうだ」と興奮気味に語っています。

進化するロボット技術により、失った可能性を取り戻すばかりか、さらに上をいくプレイを手に入れることができる日も遠くはなさそうです。