健康アドバイスを命令口調で伝えると反発されやすいという研究結果

禁酒や禁煙などの健康のための呼びかけでは「今すぐやめるべき」「必ず守るべき」といった切迫感のある言い回しが使われることがあります。しかし、こうした強い言い回しが受け手に「自由が脅かされた」という感覚を生み、防衛的な反応を引き起こしてアドバイスへの抵抗につながる可能性があるとするメタ分析が報告されました。研究チームは、命令口調などの「自由を脅かす言葉」が説得力を損なうまでの一連の流れを複数の研究をまとめて検証しています。
Words that trigger: a meta-analysis of threatening language, reactance, and persuasion in health | Journal of Communication | Oxford Academic
https://academic.oup.com/joc/article-abstract/75/5/348/8098161
Forceful language makes people resist health advice - PsyPost
https://www.psypost.org/forceful-language-makes-people-resist-health-advice/

この研究は中国・蘇州にある西交利物浦大学のロン・マー氏、コネチカット大学のゼシン・マー氏らが行った分析で、学術誌「Journal of Communication」に掲載されています。
マー氏らの研究チームが焦点を当てたのは「心理的リアクタンス理論」です。人は自分の行動を自分で選ぶ自由や自律性を重視しており、メッセージがその自由を奪うかのように示唆すると「リアクタンス」と呼ばれる否定的な動機づけ状態が生じます。心理的リアクタンス理論では、リアクタンスが強まると受け手が自律性を取り戻そうとしてメッセージを無視したり、場合によっては「禁止された行動」をあえて行ったりすることがあると説明されます。
今回の分析の目的は、健康に関するメッセージの「言い方」がどのように防衛反応を引き起こし、最終的に説得の成否へつながるのかを、研究をまたいで整理することです。過去の研究でも同様の現象は検討されてきましたが、研究チームには「リアクタンスを形作る要素がどのようにつながるのか、どの言葉が引き金になりやすいのかについては整理が十分ではない」という問題意識があったとのこと。
そこで研究チームは、複数の研究のデータを統合して全体の傾向を推定する「メタ分析」を実施しました。1000件を超える報告から条件に合う実験研究を選別し、最終的に35件の研究・計1万658人分のデータを対象としています。選ばれた研究はいずれも、禁煙や飲酒などの個人の健康行動をテーマにしていました。研究チームは、臓器提供のような利他的行動に関する研究は、心理的な動機づけが同じとは限らないとして除外しています。

研究チームが検証したのは、次のような連鎖です。
自由を脅かすような言い回しに触れる
↓
自由が脅かされたと感じる
↓
怒りや反発的な考え(状態リアクタンス)が強まる
↓
メッセージに同意しにくくなり、行動を変える意図も弱まる
研究チームは、対象とした研究の統計結果をコード化し、こうしたつながりが研究全体で成り立つかどうかを確かめました。
ポイントになったのが「状態リアクタンス」の扱いです。リアクタンスを主に「怒り」として捉える立場もあれば、「反論を作る」といった思考の働きとして捉える立場もあります。研究チームは両者を切り離さず、怒りと否定的な思考が絡み合って同時に立ち上がるとみなす「絡み合いモデル」を採用しました。
研究チームの分析では、自由を脅かす言い回しを使うことと「自分の選択肢が制限された」と受け手が感じることの間に統計的な関連が示されました。研究チームは「選べないことを示唆する表現が含まれるほど脅威を感じやすい傾向が出た」と述べています。さらに、脅威を感じることは状態リアクタンスとも強く結び付いており、自由が阻害されていると感じた人ほど、怒りが強まり、メッセージに否定的な考えも生まれやすい傾向が示されました。

同じ分析で、状態リアクタンスが高い人ほど、メッセージに同意しにくくなり、行動を変える意図も持ちにくくなる傾向が出ました。ただし研究チームは、負の関連が一貫している一方で効果の強さ自体は大きくない点に触れ、「健康行動の意思決定にはリアクタンス以外の要因も関わる可能性がある」と述べています。
研究チームは、実験で「自由を脅かす言い回し」を作るときにどんな表現が使われていたかも整理しました。その結果、対象とした研究の多くでは、次のような表現が組み合わされていました。
・「must」「have to」のように、やらなければならないことを強く言い切る表現
・例外を認めないような断定的な言い回し
・感嘆符
・「選択の余地がない」ことをはっきり書く表現
一方で、自由への脅威が低いとされるメッセージでは、命令ではなく助言として伝える言い回しが使われる傾向が見られました。たとえば「could」「consider」のように、やるかどうかを受け手が選べる余地を残す言葉です。

ただし研究チームは、強い表現を単純にたくさん入れたからといって反応が強くなるとは限らない点にも触れています。自由を脅かす要素の数を数えるだけでは、反発の強さをうまく予測できなかったためです。研究チームは、どんな場面で、どの言葉をどのように組み合わせたかが重要である可能性を示唆しています。
また研究チームは、状態リアクタンスをどう測ったかによって結果が変わるのかどうかも検証しましたが、怒りだけを測った研究と、否定的な思考だけを測った研究を比べても、統計的に有意な差は確認されませんでした。研究チームは「怒りとして表れる抵抗でも、頭の中で反論を組み立てる形の抵抗でも、説得に与える影響がおおむね同じ方向に出たことは、採用した絡み合いモデルと合致する」と述べています。
一方で研究チームは注意点も挙げています。対象とした研究の結果にはばらつきが大きく、実験ごとに効果の強さがかなり異なっていました。「全体の傾向は確認できても、どんな条件で強く出るのかは、今回の分析では十分に説明できていない可能性がある」と研究チームは述べています。また、研究チームは年齢や性別などの違いが影響するかもしれないと示唆しており、データからは男性の方が女性よりもリアクタンスによって説得が損なわれやすいという傾向がうかがえるとしています。
さらに、今回の分析が対象にしたのが文章の表現のみで、画像の刺激や配色といった視覚的な要素は含まれていない点もこの研究の限界として研究チームは挙げています。健康に関する呼びかけではビジュアルが反発を呼ぶことも考えられるため、今後はデザインが「自由が脅かされた」という感覚にどう作用するかも含めて検討する必要があるとのことです。
研究チームは今後の課題について「どの表現が最も強い引き金になるのかを切り分ける必要性がある」と述べています。過去の研究では命令表現や断定、感嘆符など複数の要素を同時に盛るデザインが多く、どの要素が最も効いているのかを単独で評価しにくいとした上で、要素を一つずつ操作して比較する研究や、文化的背景の違いを踏まえた研究、健康行動の種類によって違いが出るかを検討する研究が求められると研究チームはまとめています。
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in サイエンス, Posted by log1b_ok
You can read the machine translated English article Research shows that giving health advice….







