映像コンテンツのサブスクを宣伝するのに「海賊版は犯罪だから正規で見よう」とキャンペーンするのは逆効果だという研究結果
映画やドラマ、アニメなどのストリーミングサービスを宣伝する文句として、「違法な海賊版で見ていませんか。ちゃんと正規のサービスで見ましょう」というように、海賊版対策のメッセージが用いられることがあります。スペインのマドリード自治大学経済ビジネス学部でマーケティング分野の教授を務めるイグナシオ・レドンド氏らは、ストリーミングサービスの宣伝には、「広告ありだと割引」「継続期間に応じて割引」などのプランを提供する宣伝と、2種の著作権侵害防止メッセージを使った宣伝のうち、どれが優れているかを調査した研究結果を発表しました。
Incentivizing SVOD Platform Subscription Intention through Tiered Discounts and Anti-piracy Messages[v1] | Preprints.org
https://www.preprints.org/manuscript/202409.0420/v1
Threatening Anti-Piracy Messaging Fails to Stimulate Intent to Subscribe * TorrentFreak
https://torrentfreak.com/threatening-anti-piracy-messaging-fails-to-stimulate-intent-to-subscribe-240908/
レドンド氏らが2024年9月4日に発表した論文「段階的な割引と著作権侵害防止メッセージを通じてストリーミングサブスクリプションサービスの意欲を刺激する」では、競争が激化する映像コンテンツ市場において加入者を獲得して維持するための方法を分析しています。論文によると、映像コンテンツ市場は海賊版により高い解約率と大幅な利益損失に直面しており、ユーザーをつなぎ止める施策を要しているとのこと。
その中でサブスクリプションプラットフォームは、ユーザーへのインセンティブとして「広告レベル」「忠誠心レベル」「著作権侵害防止メッセージ」を用意することが多くなっています。それぞれ、広告を嫌うユーザーは「広告レベルに応じたプラン」に引かれ、そのサービスを熱心に使う人は「継続利用などの忠誠心レベルに応じたプラン」に興味を持ちやすいと考えられます。
また、正義に対する感受性が高い人、刑事罰などへの恐怖を感じやすい人には「著作権侵害防止メッセージ」が効果的だと考えられています。過去の研究では、一部の海賊版利用者は「何もかもを無料で得ようとする犯罪者」ではなく「合法コンテンツがない時に違法ダウンロードを行う潜在的顧客」であるという調査結果が示されており、著作権侵害を批判して正規のサービスへ誘導するアプローチが効果的な可能性があります。
海賊版の利用者は「方法があればお金を払って合法的にコンテンツを得る」という調査結果 - GIGAZINE
by picjumbo.com
レドンド氏らはスペインの全国調査を通して、ストリーミングのサブスクリプションに加入している883人の被験者に対し、研究者らが構築した架空の新しいプラットフォーム「Flixio」に加入したいと思うかどうかを聞き取り調査しました。調査では、「2種類の段階的割引プラン、2種類の対海賊版メッセージのうち、どれがサブスクリプションの加入意欲を高めるか」「各タイプのインセンティブと、サービス内のコンテンツの評価が、どのように加入したい気持ちに貢献するか」という2点の研究を主な目的としています。
まず、「段階的な広告割引」というインセンティブについては、広告全般に関するユーザーの意見が、ユーザーの満足度をかなり正確に予測することが判明しました。例えば、「広告が表示される代わりに割引」というプランでは、広告に対して肯定的なユーザーが割引を得ることで満足度を高めます。一方で、広告を強く嫌うユーザーは、割引なしで少し高いプランに加入することで広告を非表示にできるため、自身の好みに応じた適切なプランを選択できます。論文では「オンラインのサブスクリプションサービスでは、さまざまなユーザーの特定の性質に合った段階的な広告割引を提供することで、ユーザーとの関係を改善でき、ユーザーはカスタマイズされたより費用対効果の高いサービスに満足できます」と指摘しました。
次に、例えば「月額会員なら月に1000円だが、年間会員なら年1万円で、月あたりが安くなる」といったような、忠誠心に応じたアプローチを使用しました。こちらも広告と同様に、ユーザーの忠誠心レベルに応じたさまざまな割引形式を提供することで、ライトなユーザーは入りやすく、ヘビーユーザーとの関係はより強固にできることが判明したそうです。レドンド氏は「さらに、忠誠心の高いユーザーを評価することは、ユーザーの忠誠心を強化する効果も十分に実証されています」と付け加えました。
さらに、割引プランの提供のほか、著作権侵害防止メッセージを表示することで、「海賊版は良くないからサブスクリプションサービスで見よう」とユーザーに訴える方法も検討しています。著作権侵害防止メッセージのうち「社会的メッセージ」は、「海賊版は映画業界の労働者をただ働きにさせる」「面白い作品を海賊版で見ると、将来の面白い作品は誕生しなくなる」というように、著作権侵害をすることで与える影響について説明します。研究者によると、この種のメッセージは正義に対する感受性が高い人にしか通じないため、期待通りの効果を生むことは難しいとのこと。
メッセージアプローチのもう1つのタイプは「海賊版は犯罪」「著作権侵害はこのような法的処罰がある」などの「脅迫メッセージ」です。調査の結果として、脅迫的なメッセージでも合法的なプラットフォームに登録する意欲は高まらなかったとのこと。その理由としては、「犯罪であるという脅迫的メッセージは著作権侵害を抑止する効果はあっても、正規品を購入したりサービスに登録したりする可能性は高める動機を与えるわけではない」「特に強い脅迫的なメッセージは、逆にメッセージを発する側に対する不信感や嫌悪感を引き起こすという裏目に出た可能性がある」という2点を研究者らは考えています。心理学用語に、人は自由を制限されたときにそれにあらがう性質があるとする「心理的リアクタンス」というものがあり、今回の研究結果もその傾向が出たと分析されています。
調査の結果として、サブスクリプションプラットフォームにユーザーを誘導する施策としては「段階的な割引プラン」が有効で、「著作権侵害を使わないように訴えるメッセージ」は効果的ではないと研究者らは結論付けています。レドンド氏は「この研究の調査結果は、ユーザーにとってより満足のいくサービスを形成し、そして最終的にはプラットフォームにとってより収益性の高いインセンティブを形成するのに、役立つ可能性があります」と述べています。
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