ホッキョクグマはDNAレベルで気候変動に耐性がある可能性が研究で発見される、絶滅リスク評価に影響か

温暖化の影響によりホッキョクグマの3分の2が2050年までに絶滅すると予測されていますが、イギリスのイースト・アングリア大学の研究者らが2025年12月に発表した研究では、ホッキョクグマが地球温暖化という環境ストレスに対応するため、ホッキョクグマの遺伝子発現の制御に関わる要素が変化している可能性が示されました。気候変動に遺伝子レベルで適応する高い能力を持つことで、将来の絶滅リスク評価にも影響を与える可能性があります。
Diverging transposon activity among polar bear sub-populations inhabiting different climate zones | Mobile DNA
https://link.springer.com/article/10.1186/s13100-025-00387-4

Polar bears are adapting to climate change at a genetic level – and it could help them avoid extinction
https://theconversation.com/polar-bears-are-adapting-to-climate-change-at-a-genetic-level-and-it-could-help-them-avoid-extinction-269852
ホッキョクグマが生息しているグリーンランドでは、北東部と南東部の気温に大きな差があることが近年の研究で判明しています。また、北東部は北極ツンドラであるのに対し、南東部は森林ツンドラに覆われており降水量が多く風が強い厳しい環境となっており、モデル研究では40年以内に南東部のホッキョクグマの個体数が90%以上減少する可能性が高いと考えられています。以下の図はホッキョクグマの生息地であるグリーンランドの沿岸における気温をデンマーク気象研究所のデータから視覚化したもの。

そこでイースト・アングリア大学の生物科学部上級研究員であるアリス・ゴッデン氏らの研究チームは、グリーンランド北東部と南東部に生息する17頭のホッキョクグマを対象に血液サンプルの遺伝子データを比較しました。遺伝子のRNA配列を解析することで、気候との関係において「どの遺伝子が気候の影響を受けて活性化しているか」を調べ、環境変化がホッキョクグマの生態にどのような影響を与えているかを探りました。
遺伝子の分析では、細胞内においてゲノム上の位置を転移することから「ジャンピング遺伝子」とも呼ばれるトランスポゾン(TE)というセグメントが注目されました。TEは通常時は抑制されていますが環境ストレスが強まると活性化しやすく、他の遺伝子の発現を変化させる可能性があります。ヒトの遺伝子は45%がTEで構成されており、植物では70%を超えるものもありますが、ホッキョクグマの遺伝子は約38.1%がTEで構成されています。
分析の結果、グリーンランド南東部の温暖な気候によりホッキョクグマの遺伝子全体にわたってTEの大規模な活性化が引き起こされていることが発見されました。さらに、変化したTE配列は北東部のホッキョクグマよりも南東部のホッキョクグマの方が若く豊富に存在し、1500個以上のTEが気温上昇への適応を助ける可能性のある遺伝的変化を示す「アップレギュレーション(発現量の増加)」していることも判明しています。

TEの変化により、熱ストレスや代謝、老化に関わる遺伝子群に影響が及んでいる可能性も発見されています。これは、ホッキョクグマがより温暖な環境に適応していることを示唆しています。加えて、食料が不足している時期には脂肪処理に関するゲノム領域で活性化したTEが発見されました。これは、北東部のホッキョクグマが主に脂肪の多いアザラシを食べている一方で、南東部のホッキョクグマは温暖な地域で見られる植物性食物に適応しつつあることを示している可能性があります。
ゴッデン氏は「今回の発見は、ホッキョクグマが極端な環境適応メカニズムを持つ可能性を示しています。ただし、これが種全体の絶滅リスクを低くするとは限りません。今後の研究で、より厳しい気候に生息する他のホッキョクグマ個体群も調査対象とすることで、ホッキョクグマがどのように絶滅リスクに対応して生き残ることができるのか、またどの個体群が最も危険にさらされているかを解明する必要があります」と述べています。
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in サイエンス, 生き物, Posted by log1e_dh
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