サイエンス

光を使った超高速メモリが提唱される、現代コンピューティングの処理速度と消費電力の限界を突破する可能性


光で計算するフォトニックコンピューティングは、光で処理したデータを結局は電気のメモリに出し入れしなければならない点が実用化を阻む大きな壁の一つとされています。USC Information Sciences Institute(USC ISI)とウィスコンシン大学マディソン校の研究チームが提唱した、世界初となる再生型のフォトニック(光)メモリは、現代のコンピュータが抱える処理速度と消費電力の限界を突破する可能性を秘めており、AIやデータセンターなどの分野に革命をもたらすことが期待されています。

[2503.19544v1] Design of Energy-Efficient Cross-coupled Differential Photonic-SRAM (pSRAM) Bitcell for High-Speed On-Chip Photonic Memory and Compute Systems
https://arxiv.org/abs/2503.19544v1

Scientists Create Ultra Fast Memory Using Light - Information Sciences Institute
https://www.isi.edu/news/81186/scientists-create-ultra-fast-memory-using-light/

現在のコンピュータシステムはトランジスタの微細化が進む一方で、電子信号を送る金属配線の抵抗や発熱がボトルネックとなり、データ転送速度の向上が限界に達しているといわれています。光通信技術を用いることでデータ転送の高速化は進んでいるものの、データを保存するメモリ部分は依然として電子技術に依存しています。

今回開発された「フォトニックSRAM(pSRAM)」は、従来の電子メモリと同様にデータを保持する機能を持っていますが、電気ではなく光を使って動作する仕組み。マイクロリング共振器(MRR)とフォトダイオードを交差結合させた独自の構造を採用しており、光信号のままでデータの書き込みや読み出しを行うことが可能です。


研究チームが行ったシミュレーションでは、pSRAMは40GHzという極めて高速な周期で読み書きを実現できたとのこと。さらにエネルギー効率も非常に高く、1ビットあたりのスイッチングエネルギーは約0.6ピコジュール、待機時の静的エネルギーは約0.03ピコジュールに抑えられました。このビットセルのサイズは約330×290マイクロメートルで、大規模なメモリアレイへの集積も可能だと研究チームは述べています。

以下は、光信号によってpSRAM内のデータが正確に書き換えられる様子を実証したシミュレーション波形です。グラフの上段は書き込みを行うための「光パルスの入力」を示し、下段はその光を受けてメモリの保存データ(電圧Q/QB)が「0から1」、あるいは「1から0」へと反転する様子を表しています。右のグラフは、ドライブ回路を組み合わせることで、わずか25ピコ秒でデータ書き換えに成功していることを示しています。


さらに、これまでの光メモリは特殊な材料が必要とされることが多かったのに対し、今回のpSRAMはGlobalFoundriesの45nmシリコンフォトニクスプロセスという、既存の商用プラットフォームで製造することを想定しています。これは、将来的に大規模な光メモリシステムを量産し、既存の電子システムと統合することが現実的であることを意味すると研究チームは論じました。

研究チームを率いるUSC ISIのアジェイ・P・ジェイコブ氏は、「AIアクセラレータなどの能力を完全に引き出すためには、電気メモリと同様に堅牢な光メモリが不可欠です」とコメント。研究の成果は、2025年12月にサンフランシスコで開催される国際電子デバイス会議(IEDM)で発表される予定です。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1i_yk

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