一度は消えかけた「カセットテープ」の売上が急上昇している理由とは?

カセットテープはかつて主流の音楽メディアとして世界中で使用されていましたが、1990年代に登場したコンパクトディスク(CD)や2000年代のデジタルフォーマットの台頭、2010年代のサブスクリプションサービスの普及によって廃れてしまいました。ところが、過去10年ほどでカセットテープの人気が再び高まっているとのことで、ニュージーランドのオークランド工科大学コミュニケーション学部で上級講師を務めるピーター・ホアー氏が、その理由について解説しています。
Cassette tapes are making a comeback. Yes, really
https://theconversation.com/cassette-tapes-are-making-a-comeback-yes-really-268108

カセットテープは1980年代半ばから1990年代前半にかけて最盛期を迎え、1989年には日本だけで年間約5億本ものカセットテープが販売されたとされています。しかし、CDの登場やサブスクリプションサービスの普及によってカセットテープの需要は減り、中古屋の棚やゴミ集積場へと送られることとなりました。
ところが過去10年ほどでカセットテープの売上が増加しつつあり、英国レコード産業協会によると2022年のカセットテープの売り上げは2003年以来の最高水準に達しており、アメリカでは2025年第1四半期のカセットテープ販売本数が前年比で204.7%も急増したことが報じられています。
アーティスト側もカセットテープに目を向けており、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュ、レディー・ガガ、チャーリー・XCX、ザ・ウィークエンド、ロイエル・オーティスなど、多くの有名アーティストがカセットテープで楽曲をリリースしています。
多くのニュースでは「カセットテープが復活した」と報じられていますが、ホアー氏はまだ本格的な復活とはいえないと考えています。実際、販売台数は1980~1990年代の方がはるかに多く、アメリカでは2023年に年間43万6400本のカセットテープが売れたものの、1980年代の年間4億4000万本には到底及ばない状況です。

ホアー氏は近年のカセットテープの隆盛について、「カセットテープの再発見、あるいは若いリスナーにとっての発見」の結果であると考えています。
今日、録音された音楽のほとんどはSpotifyやApple Musicといったデジタルチャネルを通じて聴かれており、音源が壊れるといった事態は起こりません。一方、カセットテープは簡単に壊れたり、テープが詰まったりする上に、特定の曲を聴くために数分間ほど早送りしたり、あるいは巻き戻したりする必要があります。さらに、もともと音質が高くない上に時間経過と共にテープは劣化していき、バックグラウンドに「サーッ」といったノイズが混じります。
一見すると、便利で高品質なデジタルメディアに慣れた世代が、デメリットの多いカセットテープに手を出す理由はないように思えます。しかし、一部のリスナーは音質面ではなく、カセットテープやアナログレコードがもたらす触感や、アーティストや音楽とつながっている感覚を評価しているとのこと。
カセットテープの楽しさは「物質性」や「この場所にあること」にあり、遠く離れた企業所有のサーバー上にある電気信号を受け取るサブスクリプションサービスとは対照的です。ホアー氏は、「カセットテープへの新たな関心は、味気なく滑らかで、どこにでも存在し、逃れられないデジタル世界への疑問と解釈できるかもしれません」と述べました。
もちろん、カセットテープが持つレトロでクールな雰囲気に引かれる消費者も多いほか、好きなアーティストがリリースするカセットテープ版を購入することで、アーティストへの献身を示す物質的な方法としている人々もいます。

また、カセットテープは消費者に対し、「録音された音をカスタマイズおよび再構成し、制作プロセスに自ら介入する力」を与えたメディアでもありました。1970年代以降、人々は空のカセットテープに自ら音楽を録音したり、既存のアルバムを切り刻んでアレンジしたり、市販の音楽をコピーしたりしてきました。そのため、カセットテープは自己表現や企業支配からの自由の象徴でもあるとのこと。
ホアー氏は、「カセットテープがすぐにストリーミングサービスに取って代わることはないでしょうが、それは問題ではありません。カセットテープが提供するのは、私たちが直面しているデジタル覇権の流れに逆らった音楽の聴き方なのです。もちろん、テープが切れるまでですが」と述べました。
なお、日本でも若者世代を中心にカセットテープの人気が高まっており、Vaundyやあいみょんといった人気アーティストもカセットテープを売り出しています。
令和に新発売、懐かしのラジカセ 音のチープな感じがいいと若者が買い求めるカセットテープに人気アーティストもアナログ回帰 | 特集 | MBSニュース
https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2024/04/099870.shtml
・関連記事
絶滅の危機にも瀕したカセットテープを古い機械で新たに生産している工場 - GIGAZINE
全米最後の「カセットテープ複製工場」で続けられる音楽カセットの製造風景 - GIGAZINE
レコードとカセットテープの販売数が前年比で2ケタ成長、CDは売上ダウン - GIGAZINE
所有しているのに視聴できないビデオカセットとは? - GIGAZINE
リスナーの97%は音楽がAI作か人間作かを見破れないと調査で判明 - GIGAZINE
SpotifyやApple Musicなど音楽ストリーミングの影響でヒット曲がどんどん短くなっている - GIGAZINE
SpotifyやApple Musicの台頭で「古い音楽」を聴く人の割合が急増しており文化停滞の危険があるという主張 - GIGAZINE
世界の音楽ストリーミング再生回数が年間4兆回に到達 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in ハードウェア, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article What is the reason behind the sudden ris….







