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「SNSが誤情報を拡散して選挙に影響を与える仕組み」などを研究するためのデータアクセスをMetaとTikTokが妨害している


近年はSNSにおける誤情報の拡散やヘイトスピーチの増加、それに伴う政治や選挙への影響が懸念されており、研究者らはSNSでのコミュニケーションや言論に着目した研究を進めています。そんな中で欧州委員会(EC)が、TikTokとMetaがデジタルサービス法(DSA)に基づく「研究者に公的データへの適切なアクセスを許可する義務」に違反していると認定しました。

DSA - Commission preliminarily finds TikTok and Meta in breach of their transparency obligations
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_2503


Meta and TikTok are obstructing researchers’ access to data, European Commission rules | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/meta-and-tiktok-are-obstructing-researchers-access-data-european-commission-rules

ドイツのドレスデン工科大学の計算社会科学者であるフィリップ・ロレンツ=シュプレーン氏は2024年、ヨーロッパの政治家がオンライン上でどのようなコミュニケーションを取っており、どれほど分断的な言葉を使っているのかを研究しようとしました。

この際ロレンツ=シュプレーン氏が頼りにしていたのが、2024年2月に発効したデジタルサービス法でした。デジタルサービス法は「より安全なデジタル空間を作ること」「ヨーロッパ市場と世界の両方で、革新・成長・競争を促進するための平等な競争条件を確立すること」を目的としてECが導入した法律で、大規模なオンラインプラットフォームや検索エンジンに対し、さまざまな義務を課しています。


デジタルサービス法で企業に課される義務には「ユーザー権限の強化」「未成年者の強力な保護」「より熱心なモデレーションと偽情報の減少」などがありますが、その中に「透明性向上と説明責任の強化」も含まれます。デジタルサービス法の対象となる企業は、研究者が一般に公開されているデータへのアクセスを求めた場合、それを提供する義務があると定められています。

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そのためロレンツ=シュプレーン氏はXやTikTok、Metaなどの企業に対し、要求をするだけで必要なデータを得られるはずでした。しかし実際のところ、Xは何度も質問を繰り返し、最終的には理由も述べずロレンツ=シュプレーン氏の要求を拒否。TikTokはアクセスを提供したものの、同社が提供しているデータはその他の研究者から「大きな欠陥がある」と指摘されていました。

さらにFacebookやInstagramを運営するMetaは、研究者に対して「深刻な制限のあるダッシュボード」しか提供していませんでした。このダッシュボードには、「2万5000人以上のフォロワーがいるアカウントのデータしか得られない」などの制限があり、これでは一部のヨーロッパの政治家を調査できません。

こうした問題を受けてECは調査を実施。2025年10月24日の声明で、「本日欧州委員会は、TikTokとMetaの両社が、デジタルサービス法(DSA)に基づいて研究者に公的データへの適切なアクセスを許可する義務に違反していると暫定的に認定しました」と発表しました。

なお、2024年7月にはXに対し、ECが「コンテンツモデレーションと広告に関する透明性と説明責任を果たせておらず、デジタルサービス法に違反している」と警告しています。ECによるこの調査は記事作成時点でも継続中です。

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一連の動きは、ECがデジタルサービス法の施行に真剣に取り組んでいる兆候だと歓迎されています。ドレスデン工科大学の心理学者であるスティーブン・レワンドウスキー氏は、「研究者によるデータへのアクセスは、透明性と民主的な説明責任を確保する上で極めて重要な要素です。国民は、プラットフォームとそのアルゴリズムが情報社会にどのような影響を与えているかを知る権利があります」と述べました。

ECはこれらの企業がデジタルサービス法に違反していると判断した場合、各社に10億ドル(約1500億円)規模の罰金を科すことができますが、その前にこれらの企業には自己弁護する機会が与えられます。Metaの広報担当者は科学誌・Scienceへのメールで、同社はデジタルサービス法の順守に必要な措置をすでに講じていると主張。TikTokの広報担当者は、ECの調査結果について検討中としながらも、デジタルサービス法のデータ共有要件はEUのプライバシー規制と矛盾していると指摘しています。

大手テクノロジー企業が持っているデータは、選挙や政治に関する誤情報やデマ、扇動、ヘイトスピーチなどがSNS上で広がる動きを研究する上で必要不可欠です。しかし、これまでにデジタルサービス法を利用してデータを要求した研究者からは、プラットフォーム側がデータの引き渡しを遅らせたり拒否したりする複数の手法を用いているという声が上がっています。たとえばXには非常にシンプルなオンライン申請フォームがあるものの、すぐに承認されることはなく、数十日後に拒否されたり、意味があるのかわからない質問を何度も繰り返されるループに突入したりするとのこと。

2025年10月29日には、デジタルサービス法に基づいて要求できるデータ範囲がさらに広がり、非公開のデータもプラットフォームに要求できるようになりました。これにはプラットフォーム側の反発が予想されますが、研究者にとってはプラットフォームの実際の仕組みをより深く理解するチャンスとなります。

たとえば、ユーザーの怒りを誘発するコンテンツは「いいね」の数が多いという研究結果がありますが、これはプラットフォーム側に誘導された結果である可能性も考えられます。ロレンツ=シュプレーン氏は、「これは人々の心理によるもので、単にそういうコンテンツを好むだけなのか、それともプラットフォーム側が何らかの形で押し付けているのか、という疑問は常に残ります。この分野で真の進歩を遂げたいのであれば、まさにこうしたデータが必要なのです」と述べました。

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in ネットサービス, Posted by log1h_ik

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