勝者を観客投票で決めるインタラクティブ作品にすることが大前提だった映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』の辻本貴則監督と中岡亮プロデューサーにインタビュー

音楽原作キャラクターラッププロジェクトとして展開されている『ヒプノシスマイク』の最新コンテンツとして「#ヒプムビ」こと映画『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』が2025年2月21日(金)から公開されました。
最大の特徴は、作中に7つのディビジョンがあるため7つのマルチエンディングが用意されていることと、その結末に向けて行われるラップバトルの勝敗は観客の投票によって決めるということ。つまり、見に行った上映回がどのルートを経てどのエンディングにたどり着くか誰にもわからないということです。
どのようにして本作を世に送り出すことになったのか、監督の辻󠄀本貴則さんとプロデューサーの中岡亮さんにお話をうかがってきました。
映画 ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-
https://hypnosismic-movie.com/
GIGAZINE(以下、G):
映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』は、2020年に企画が動き出し4年以上の歳月をかけて完成した作品だということなのですが、最初からこのように、映画館でアプリを使って投票してもらうことを前提とした企画だったのでしょうか。それとも、最初は違う内容だったりするのでしょうか。
ポリゴン・ピクチュアズ 中岡亮プロデューサー(以下、中岡):
「インタラクティブ映画」、つまり観客の皆さんの投票によって勝ち負けが決まるマルチエンディングの映画を作りたいということは、最初に決まっていました。「決まっていた」というか、それがすべてのスタートだったのですが、スマホの利用を含めたテクニカルな部分、技術の部分は何も担保するものがない状態で「それは、どうやったら実現するかな?そもそも、できるのかな?世の中にそんなものはあるのかな?聞いたことないな……」というところからのスタートでした。
G:
ええー……すごいところからのスタートだったんですね。
中岡:
はい。裏取りして「こういうシステムがあるから、乗っかる形で作れば大丈夫」ではなかったので、「まだ令和の日本ではできないかもしれない……」という思いはありました。
G:
それを実現しているのが『CtrlMovie』というアプリの存在だと。
ラップバトルの投票はインタラクティブ映画システム「CtrlMovie」で! | 映画 ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-
https://hypnosismic-movie.com/news/information/241/
中岡:
この『CtrlMovie』というアプリ、かなり「ヒプマイ仕様」になっていて、アプリを通じてキングレコードさんの実現したいことをやっていただいているのではないかと思います。
辻󠄀本貴則監督(以下、辻󠄀本):
このアプリも含め、劇場公開後の反響がとても楽しみですね。

G:
なるほど。今回、バトルの勝敗によって上映パターンは48通りにも及びます。この作り方にしたことで大変だったところや苦労したところというのはありましたか?
辻󠄀本:
最初から「48通りある」と思って作っているわけではなくて、結果的に「ルートが合計48通りあるんだ」という感じなんです。もし最初から「48通り作ってください」と言われていたら、めちゃくちゃしんどかったと思います(笑)
G:
(笑)
辻󠄀本:
エンディングに関しては、ディビジョンが7つあるから7通りあるのはもちろんその通りだと思っていました。キャラクターもそれぞれ違うので、その点は苦労しなかったです。一番苦労したのは、これだけの尺がある作品なので、ずっと同じアニメーターの方に最初から最後まで携わっていただくのが難しいという点ですね。
G:
あー、なるほど。そういう点が出てくるんですね。
イケブクロ・ディビジョン代表「Buster Bros!!!」

ヨコハマ・ディビジョン代表「MAD TRIGGER CREW」

シブヤ・ディビジョン代表「Fling Posse」

シンジュク・ディビジョン代表「麻天狼」

ナゴヤ・ディビジョン代表「Bad Ass Temple」

オオサカ・ディビジョン代表「どついたれ本舗」

中王区「言の葉党」

辻󠄀本:
なので、まず最初に「これが理想型です」というサンプル、見本のようなものを作ってから、いろんなアニメーターさんに振り分けていきました。ところが、最初に一番いいと思うものを作り上げているので、長尺の中で全体のクオリティを保つというのがとても難しかったです。最初にベストの答えを見つけているから、「これを目指さなければ完成までたどり着けないよ」ということで、現場が大変なのにもかかわらず、監督として粘ってクオリティを上げようと、「みんな、ごめんなさい」と言いつつNGを出していました。
G:
おお……。
辻󠄀本:
尺が長いだけに、それがいつまでも続いてしまって。時間との戦いの部分が一番苦しかったです。映画3本分ぐらいの分量を作ったことになりますから。
G:
それは大変だ……。今回、投票機会が5回あるのですが、初戦の組み合わせは固定になっています。この対戦カードはどのように決まったのでしょうか。
中岡:
今までに行われたディビジョン・ラップバトルの組み合わせと、それぞれのキャラクター、特にリーダーたちの関係性を考慮したときに「次にやるディビジョン・ラップバトルはこれしかない」と、キングレコードさんに決めていただきました。もちろん、キングレコードさんも裏ではめちゃくちゃ悩まれたかもしれないのですが、我々のところに来たときには「これで行きます」ということだったので、「承りました」と。
G:
なるほど。
中岡:
ただ、本編を見るとわかるのですが、前後に関係性のドラマの肉付けをしていて、僕らも「この組み合わせである必然性」というのは感じています。もちろん、1回戦も含めてインタラクティブだったら、もう死んじゃうぐらいのバリエーションですし(笑)
辻󠄀本:
そう、さすがに初戦の組み合わせは固定だよねと(笑)
G:
(笑) このファイナルディビジョン・ラップバトルの開催記念曲のMVがYouTubeで公開されて、大人気を博しています。(映画の公開日である2月21日時点で204万再生オーバー)
【映画】ファイナルディビジョン・ラップバトル開催記念曲「ヒプノシスマイク - Division Rap Battle - FINAL」 - YouTube

G:
MVについて、監督がXに「元々実写の監督なので私らしいMVってなんだろう?ってことで、みんなが聖地巡礼できる映像を提案させていただきました」と投稿されていました。
「ヒプノシスマイク -D.R.B- FINAL」MV公開‼️ 元々実写の監督なので私らしいMVってなんだろう?ってことで、みんなが聖地巡礼できる映像を提案させていただきました。声優の方々との撮影があり、現地ロケもありで、なんとも盛り沢山なヒプマイMVに! 映画もそうですがMVでこだわった……ぎゃ文字数! https://t.co/lvZrMg0F3T
— 辻󠄀本 貴則 / Takanori Tsujimoto (@TakaTsujimo) December 20, 2024
辻󠄀本:
みなさんが「聖地巡礼したい」ということは我々もわかっているんです。僕だって、ウルトラマンやゴジラが現れた場所に行ったりしますから。聖地があるというのは、ファンにとっては「その後も楽しめる」ということだから、できる限り実際にあるロケーションをと考えました。MVとして、大きなフックが欲しいというのもありましたし。その上で、僕は実写の監督でもありますから、「背景を実写で、キャラクターをアニメーションで、というのはどこまで追求できますか?」とポリゴン・ピクチュアズさんに相談した上で、キングレコードさんにプレゼンしたという感じです。
G:
そういうことだったんですか。MV公開にあたっては「映画では感情表現の豊かさをポリゴン・ピクチュアズさんと追求してきたので、それをこのMVにも凝縮すべく、キャラがカメラに近づいて表情を見せまくるぜ大作戦に!」とも投稿されていて。
「ヒプノシスマイク -D.R.B- FINAL」MV公開‼️ 映画と同じく拘ったのはキャラの動き・表情…芝居です。映画では感情表現の豊かさをポリゴン・ピクチュアズさんと追求してきたので、それをこのMVにも凝縮すべく、キャラがカメラに近づいて表情を見せまくるぜ大作戦に! 髪の毛の揺れは命……ぐぬ文字数! https://t.co/5RevpfTXGD
— 辻󠄀本 貴則 / Takanori Tsujimoto (@TakaTsujimo) December 20, 2024
辻󠄀本:
これはもう、僕は延々と言い続けなければいけないんです。ポリゴンさんが最後の最後まで期待に応えてくれて、「僕がこの偉業を世に広めていかねば!」という使命感を芽生えさせたぐらいです。スタッフの方々は、最後には「これぐらい髪の毛を揺らさないとOK出ないでしょう?」って言ってくれていましたから。
G:
(笑) それは、「まだまだだ」と監督がNGを出したことがあるからですか?
辻󠄀本:
はい……それはもう何度も。
中岡:
初期は特にありました。制作カロリーがかかるので「どこをがんばりますか」というのがある一方で、スケジュールの都合、お財布の都合など、いろんなもののバランスを取っていく必要もあるのですが、辻󠄀本さんに「それじゃダメだよね」と言っていただいて、品質を引き上げてもらった部分があります。もちろん、無理しなければいけなくて、スケジュールをぶっちぎりそうになったところもありましたが(笑)
G:
(笑)
中岡:
ポリゴン・ピクチュアズは「アニメーションが得意な会社である」と自負しているところがあるんですけれど、その自負を超えて「いいものができた」というところには監督をはじめ関わったスタッフに感謝しかないです。
辻󠄀本:
よかったです。でも、だいぶ圧迫してしまいましたよね。「監督、ここまで求めてるけど、本当にやるんですか?」とスタッフの方が思ったところもあるんじゃないでしょうか。
中岡:
全然、ありますね(笑)
G:
ある(笑)
辻󠄀本:
「本当にやっていいですか?ここでやると、ずっとやらないといけなくなりますよ」っていう雰囲気、確かに序盤はありましたもんね。でも、ちゃんと追求すると見るからによくなるんです。表情変化がしっかりある、髪の毛や着ている服がちゃんと動く。そうなると「できるのにやらない選択肢はないよね……」って。
G:
それもわかりますね……。
辻󠄀本:
キングレコードさんもこの作品に期待しているというのをすごく感じていたので、監督として粘るのはそういうところだろうと。でも、それぐらいですよ。変なところでは粘らないようにする。間違ったところで粘るのはよくないので。『ヒプノシスマイク』は、とにかくキャラクターの魅力を引き出すのが最優先だと思っていたので。
中岡:
選択と集中をしてもらったということだと思います。仮の話でしかないですが、もしかすると今回の映画を辻󠄀本さんではない、たとえばアニメ業界の監督にやってもらっていた場合に「キーになるところの『おいしいカット』は揺らすけれど、他では止めましょう」と言われていたら、「そういうものですよね」となっていたと思います。ある種、実写の監督ならではだったのかもしれなくて、こうして公開を迎えるにあたって今だから言えるのは、結果的にはベストの人選だったのかなと。

辻󠄀本:
途中でスケジュールもかなりのマズい状況に……(笑) それでも走りきってくれたスタッフのおかげなので、僕はこうしてSNSを使ってステルスで感謝を述べるという。目の前だと言いにくいからね(笑)
中岡:
最終的に、現場のアニメーターが誇れるアウトプットになっていたので、そこはよかったと思います。
G:
ちなみに、ちょっと作品から離れて辻󠄀本監督について伺いたいところがあって。辻󠄀本監督はこれまでに多くの作品でインタビューも受けておられるのですが、YouTubeで『ハードリベンジミリー ブラッディバトル』のときのインタビュー映像を見ることができまして。
『ハードリベンジミリー ブラッディバトル』辻󠄀本貴則監督インタビュー1 - YouTube

辻󠄀本:
うわっ、えらいの引っ張り出してきますね!何をしゃべっているんだろう……。
G:
「映画監督になりたいと思ったきっかけ」を質問されて、高校生のころに自主映画を撮ったあと歯科技工士になっていた監督は、DVカメラが安くて今なら買えるし、車もあるからロケに出てなにか撮ってみようと、再び仲間で集まったと答えられていました。
辻󠄀本:
ああー、確かに。その通りです。
G:
当時、ちょうど『フェイス/オフ』が上映されていたので観に行って「こういうのやりたいよね」となって、ノンリニア編集の普及期だったのでPCでがんばって編集し、モデルガンも火薬ではなくCG表現を独学でした、とも話をしておられました。当時、CGを独学でやられたのはかなりすごいのではないかと思って、どのようにしたのだろうかとお伺いしたかったのですが……。
辻󠄀本:
すみません、「CG」は言い過ぎました!合成処理です!
(一同笑)
辻󠄀本:
銃を撃ったとき、マズルフラッシュといって銃口のあたりが火花のようにパッと光るんですが、これをPC編集で1コマ挿入するだけで、本当に撃ったように見えるというテクニックがあるんです。確か、岩井俊二さんのコラムか何かで読んだ情報で、岩井さんはノンリニア編集の先駆者でして「そうか、1コマだけ銃口に火花の画を描けば良いんだ!」と。それを、独学でやってみたということなんです。
G:
なるほど。
辻󠄀本:
それがすごく楽しくて、「もう歯科技工士をやってる場合じゃない!」と。
(一同笑)
G:
その時代から映像制作をしておられて、実写映画の監督をしつつ、本作ではCGアニメの映画の監督も務められているわけですが、技術の変遷や、「技術が正統進化してここまで来たか」のような感覚はありますか?
辻󠄀本:
そうですね……今やスマホを普通に使っていますけれど、十数年前だと「携帯電話で映画を見られる」なんて思いもしなかったですよね。そう考えると、「正統進化」どころではない、とても想像のつかないようなところにまでたどり着いているなと思います。でも同時に、そこに身を置いて興味を示していないと、映画監督としては置いていかれてしまうという気持ちもあります。だから、本作の「インタラクティブ映画を」というお話を聞いたときも、「僕はそんなのわからないからやめておきます」でなくて「面白そうなのでぜひ参加したい!」となるようにしている、という感じです。
G:
辻󠄀本監督は2025年1月まで放送された『ウルトラマンアーク』ではメイン監督を務められていました。『ウルトラマン』の方でもいろいろなインタビューを受けておられて、その中で、自分のアイデアの引き出しがなくなっていくのを感じて焦りを感じるという言葉があったのですが、本作のような別ベクトルの作品を手がけることがなにか影響を及ぼす点はありますか?
辻󠄀本:
『ウルトラマン』に関してはもう8年やっていて、いろいろなアイデアを出してきているので、「この前に出した案をアレンジする」ということもあります。ところが、アニメ作品は畑が違う別物なので、どんどんとアイデアがわいてくるんです。むしろ、「違うことをやる」というのが僕のモチベーションだったり、創作意欲のきっかけだったりします。アニメをやっている中で、さらに実写や特撮のアイデアが得られたりするので、今こうして両方やれている状態というのはちょうどいいなと思っています。
G:
いよいよ映画が公開となるわけですが、制作側としては、7通りのマルチエンディング、そして48通りの上映パターンがあるインタラクティブ映画について、観客の反応をどのように予想していますか?
中岡:
制作する中でも、本作が世の中に出たときにどうなるんだろうかという話はよくしていました。『ヒプノシスマイク』の特徴の1つは地域名を冠したディビジョンがある点で、作品が上映される映画館はそのすべてのディビジョンにあるわけです。そうなると、当然、特定ディビジョンのファンは推しに勝って欲しいだろうし、一方で「地元を負けさせたくない」という思いも出てくるかもしれない。フタを開けたときにポジティブ、ネガティブ、どちら寄りなのかはまったく想像がつかなくて……どういうものになるか、怖いもの見たさという部分もありますね。

G:
勝者が投票の結果で決まるので、自分の推しが勝つかどうかわからないわけですもんね。
辻󠄀本:
本当にどうなるんでしょう。早く劇場で見てみたいです。
G:
その点も踏まえて、ファンの皆さんへ最後に一言いただければと思います。
辻󠄀本:
観客参加型ムービーということで、自分が推しているディビジョンが優勝する結末が観られるのが一番いいですけれど、そうではない、負けるルートになることもあります。でも、推しのキャラたちも負けたときには同じ気持ちで悔しさを表現しているので、同じ気持ちを共有できる映画でもあります。純粋に、『ヒプマイ』の世界に没頭するという楽しみをしていただければうれしいです。そして、お財布に余裕がありましたら、2回、3回と見て、いろいろなルートを楽しんでいただければと思います。
中岡:
試写会や関係者試写など、制作に携わっていない方にも見ていただく機会がありましたが、それを踏まえた上で、ファンの方、「大丈夫だよ」とお伝えしたいです。試写を観た方の中にも個人的に『ヒプマイ』が好きだという方はいて、その反応として「音源があり、キャライラストがあるというところから始まった『ヒプマイ』の初期衝動が映画に入っている」と言ってくださった方もいました。投票システムも面白がってくださる方が多く、映画館に1度足を運べば「大丈夫だよ」ということがわかっていただけると思います。
G:
本当に、どういった上映になっていくのかが楽しみです。本日はありがとうございました。
辻󠄀本・中岡:
ありがとうございました。
映画『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』は48のルート・7つのエンディングがある、劇場映画として日本初のインタラクティブ映画として、2025年2月21日(金)から公開中です。
【予告編】映画「ヒプノシスマイク - Division Rap Battle - 」 - YouTube

配給:TOHO NEXT
©ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- Movie
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