AIで動物の気持ちを理解する技術はここまで進んでいる

科学誌のScienceが、動物の顔をスキャンして個体を識別したり、体調不良を検知したりするAI技術の現状について特集しました。
Can AI read pain and other emotions in your dog’s face? | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/can-ai-read-pain-and-other-emotions-your-dog-s-face
チャールズ・ダーウィンが19世紀に「哺乳類の表情はある種の『共通言語』であり、人類は進化の歴史の中でその能力を培ってきたに違いない」と説いて以来、多くの科学者が動物の表情の研究を行ってきました。

例えば、イギリス・ポーツマス大学の研究者らが2020年に発表した論文によると、人間の顔の動きの38%は犬と共通しており、34%は猫と、そして47%は霊長類や馬と共通しているとのこと。
しかし、必ずしも人類は動物の顔からその感情を読み解くのが上手というわけではありません。そこで活躍するのがAIです。
例えば、西イングランド大学ブリストル校とスコットランド農林大学が共同開発を進めているAIプロジェクト・Intellipigの「スマート農場」では、毎朝のエサの時間に豚の顔を撮影し、1秒足らずでAIが豚の鼻や耳、目などから豚を識別して、その個体にあったエサを与えます。
また、もしその豚が体の痛みや精神的な苦痛を感じている兆候があると、隣の部屋でコーヒーをすすっている飼育員に警告が飛ぶようになっています。

最も動物の顔に出やすい感情は苦痛で、去勢されたばかりの馬や、腫れた足をひきずっている羊は間違いなく痛みを感じているので、その表情は痛みのサンプルに使えます。
IntellipigのようなAIの開発は、このようにして集められた膨大な動物の顔のデータをAI技術の専門家がコード化し、AIをトレーニングすることで実現しました。
さらに、イスラエル・ハイファ大学のアンナ・ザマンスキー氏らは、しばしば動物の顔に現れる微妙な不快感をAIで捉えるという、より困難な課題に挑戦しています。そのような表情をAIに学習させるには、無数の動物の写真で、表情筋の動きに関する目印、例えば目や鼻孔の周りに手動でフラグ付けし、それをデジタルな点の塊に変換する必要があります。

また、フラグ付けされた写真でトレーニングされたAIで新しい写真に自動で目印を付ける技術も進歩しており、これにより犬が餌入れに鼻を突っ込んだり、猫がソファの後ろから顔の半分だけを見せたりしている写真でも、表情を読み取れるようになってきているとのこと。
これらの技術では、「この馬は痛みを感じている」という具合に、AIに学習させる最初の写真のフラグ付けは依然として人間による判断に頼っていますが、サンパウロ大学で馬の行動と福祉を研究している獣医師のガブリエル・レンチオーニ氏らは、さらに踏み込んだアプローチを採用しています。
2021年にレンチオーニ氏らが発表した論文では、AIシステムに「手術前後」と「鎮痛剤を投与する前後」の馬の写真を入力し、耳と目と口の動きに注目するよう指示しました。こうして馬の顔写真3000枚でトレーニングしたところ、AIは88%の精度で馬が痛みを感じているかどうかを読み取れるようになりました。

また、コンピュータービジョン技術を使用した別のAIプロジェクトであるSleip AIでは、獣医師が見過ごした馬の痛みすらAIで検知できるようになったと報告されています。
このように、日進月歩で進化するAIは人間よりも動物の表情を読み取るのがうまくなってきており、ザマンスキー氏らが2025年初頭に発表した論文では、AIは羊が痛みを伴う手術を受けたばかりだということを82%の精度で判定できるとの結果が得られました。これに対し、高度な訓練を受けた専門家4人の精度は70%にとどまったそうです。
ザマンスキー氏と愛犬のベッキー。

ザマンスキー氏は、AIが特定の能力で人間を上回ってきている状況を、チェスAIのDeep Blueがグランドマスターのガルリ・カスパロフ氏を破った1997年になぞらえて、「最近のAIに対する反応がそうであるように、AIとカスパロフ氏の対局はパニックを引き起こし、多くの人が『なんてこった。私の仕事がAIに奪われてしまう!』と言いました。しかしその後、彼らはAIが自分の能力を高める強力なツールに過ぎないことに気づくのです」と話しました。
一般人にとってより身近な動物の福祉にも、AIが一役買うようになってきています。フランス・リヨン大学のブリタニー・フロルキエヴィッツ氏らの研究チームは、猫カフェの猫たちが遊んだりじゃれ合ったりする動画を数百時間分析し、そこから猫の幸せの兆候を探しました。その結果、猫はなんと276種類もの表情を見せることが判明したそうです。
フロルキエヴィッチ氏は、ザマンスキー氏らと協力して猫の表情の研究結果をAIに統合する取り組みを進めており、初期の成果として猫たちが絆を深め合うために互いに表情をまねし合っていることを突き止めました。

こうした成果を元に、ザマンスキー氏や共同開発者のジョージ・マートベル氏らは、インターネットを活用して犬・猫・馬・霊長類のさまざまな表情のデータベースを構築しており、近いうちに猫の顔を30秒間スキャンするだけで「口の周りにかなりの緊張が検出されたので、この猫は中程度の痛みを感じています」といったわかりすいメッセージに変換してくれるAIアプリをリリースする予定です。
ザマンスキー氏は「私の仕事は、動物たちのよりよい暮らしを支えるエージェントになることです。動物が幸せだとわかれば、私たちも幸せになれます」と話しました。
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in ソフトウェア, 生き物, Posted by log1l_ks
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