サイエンス

地中海の底に沈められたニュートリノ検出器が従来の20倍のエネルギーを持つニュートリノを検出


ニュートリノとは、太陽などで起こる核融合反応や超新星爆発などから発生すると考えられている素粒子です。地中海の海底に沈められたニュートリノ検出器が、これまで検出された中で最もエネルギーの高いニュートリノを検知したことを、キュービックキロメーターニュートリノ望遠鏡(KM3NeT)のプロジェクトチームが発表しました。

Observation of an ultra-high-energy cosmic neutrino with KM3NeT | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-024-08543-1

Record-breaking neutrino is most energetic ever detected
https://www.nature.com/articles/d41586-025-00444-1

The observation of an ultra-high-energy cosmic neutrino at the bottom of the sea - KM3NeT
https://www.km3net.org/the-observation-of-an-ultra-high-energy-cosmic-neutrino-at-the-bottom-of-the-sea/


Seafloor detector picks up record neutrino while under construction - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2025/02/most-energetic-neutrino-yet-seen-smashes-through-seafloor-detector/

ニュートリノは他の物質と反応しにくいため、非常に観測が難しい素粒子であることが知られており、大規模な観測施設でのみ検知することが可能です。実際に南極のアイスキューブ・ニュートリノ観測所では、圧力をかけた熱水ドリルで深さ2450mの穴を86個垂直に掘り、60個の光学センサーモジュールを使用してニュートリノの検出に取り組んでいます。

南極地下で観測されたニュートリノが39億光年先のブラックホールから飛来したものと判明 - GIGAZINE


KM3NeTも同様に、地中海の海底にニュートリノ望遠鏡を沈めニュートリノの検出を行うというプロジェクトです。記事作成時点でもKM3NeTは構築中で、現時点での完成度は約10%とのこと。

ニュートリノが水中の原子に衝突すると、ミュー粒子という電子よりも重い素粒子が放出されます。水中で光は真空中よりも遅く進むため、水中で放出されたミュー粒子は水中を進む光よりも速く移動するとのこと。局所的に光速を超えるスピードで粒子が移動すると、チェレンコフ光という青い光が生じます。アイスキューブ・ニュートリノ観測所やKM3NeTの光学モジュールは、このチェレンコフ光を検出することができる施設となっています。


2025年2月12日にKM3NeTのプロジェクトチームは「過去最高となる60PeV(ペタ電子ボルト)~230PeVに達するエネルギーを持ったニュートリノを検出しました」と発表しました。なお、これまで検出されたニュートリノの記録は10PeV前後なほか、世界最大の衝突型円形加速器である大型ハドロン衝突型加速器は陽子を7TeV(テラ電子ボルト)までしか加速することができません。

プロジェクトチームによると、あまりのエネルギーの大きさから、最も高い位置にある検出器は完全に飽和状態になってしまったとのこと。また、全体の約3分の1の検出器がミュー粒子の通過の兆候を検出しました。


プロジェクトチームは検出のタイミングと放出されたエネルギーの量に基づいて、ニュートリノの発生源を推定しました。その結果、ニュートリノが地球の表面とほぼ並行に移動した可能性が示唆されたものの、銀河系内でニュートリノの発生源が見つかることはありませんでした。一方、銀河系よりも遠方の宇宙には、ブレーザーと呼ばれる大質量ブラックホールがエネルギー源となって輝く天体があり、既知のブレーザーの中には生成される粒子が地球がある方向に向けて放出されるものもあります。プロジェクトチームによると、今回検出されたニュートリノが飛来した方向にはブレーザーを含む約12個の高エネルギー天体が存在しており、予測された経路から1%の偏差内にある2個の天体が特定されたとのこと。

プロジェクトチームは「今回の発見は、従来の光学天文学や電波天文学と比べて依然として初期段階にあるニュートリノ天文学におけるマイルストーンです。今回検出されたニュートリノのような高エネルギーニュートリノは、宇宙線の起源と宇宙線がどのようにして膨大なエネルギーに加速できるかについての長年の疑問を解決するのに役立つかもしれません。KM3NeTのような次世代のニュートリノ観測所は今回のニュートリノの検出により、私たちの理解の限界を押し広げてくれます」と述べています。

今後プロジェクトチームはKM3NeTの検出ラインの増加やデータ取得時間の増加などの拡張を進め、ニュートリノ検出感度の向上やニュートリノ源の特定能力の向上に努めるとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1r_ut

You can read the machine translated English article Neutrino detector sunk to bottom of Medi….