何十年かけても見つからない「ダークマター」の3つの候補とは?
by NASA's Marshall Space Flight Center
1930年代に、目に見えない物質としてダークマターの存在が示唆されてから記事作成時点で約90年が経過していますが、これまでのところその正体は謎に包まれたままです。しかし、さまざまな研究によりいくつかの候補が浮上しており、その中でも主要なものについてニュースサイトのSalon.comが専門家への取材から3つまとめました。
Why dark matter's mysteries persist after decades of searching | Salon.com
https://www.salon.com/2024/12/26/why-dark-matters-mysteries-persist-after-decades-of-searching/
スイスの天文学者であるフリッツ・ツビッキーは1933年に、銀河団の中の銀河の振る舞いを説明するには「目に見えない質量(ミッシングマス)」が必要だと考えて、そのような質量を生み出す物質に「ダークマター」と名付けました。さらに、1970年代に入るとアメリカの天文学者のヴェラ・ルービンらが、銀河の周辺部の星々が予想よりも速く回転していることを突き止め、ダークマターの存在を実証しました。
それ以来、さまざまな研究者がダークマターの正体を追究し、ダークマターが宇宙の約26.8%を占めていることや、銀河同士が衝突すると銀河に含まれているダークマターは減速することなく突き抜けていくことなどが判明しています。
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こうして集積されてきた手がかりは、ダークマターを検出する実験を設計するための基礎となります。その中で最も人気なのは、ダークマターが「弱く相互作用する質量粒子(WIMP)」でできているかどうかを確かめるものと、仮説上の素粒子である「アクシオン」を探すものです。
◆候補1:WIMP
世界最大の地下研究所であるイタリアのグラン・サッソ国立研究所では、液体キセノンで満たされた検出器でダークマターを探索する試みが行われています。
ダークマターは、光と相互作用しないので目には見えませんが、キセノンの粒子に衝突した際に発せられるごく微弱な光を検出することで検出できるはずだというのが、この実験の狙いです。
実験に携わるバックネル大学のアビゲイル・コペック博士によると、毎秒約10億個ものWIMPがこの検出器を通過していると予想されているとのこと。しかし、これまでのところ粒子の衝突が起きたのは確認されていません。
そもそもWIMPとは、「私たちが知っているすべての粒子、つまり標準モデルの素粒子にはパートナー粒子があるはずだ」という考えである超対称性理論を土台としたもの。このパートナー粒子の中にはダークマターの性質によく合致するものがあり、これこそWIMPではないかと期待されてきましたが、10年以上の観測や大型ハドロン衝突型加速器(LHC)による実験でも、その存在を裏付ける証拠は得られませんでした。
by Chic Bee
マサチューセッツ工科大学の理論素粒子物理学者であるトレイシー・スラティエ氏は「LHCを使っても超対称性の証拠が見つからなかったため、このアイデアはあまり人気ではなくなりました。まだ見込みはありますが、LHCの不発は科学者が『これが唯一の可能性ではないらしい』と気づくきっかけになりました」と話しています。
◆候補2:アクシオン
もうひとつの候補であるアクシオンは、「ダークマターはこれまで見つかったどの粒子よりも桁外れに軽く、波のように振る舞うのではないか」とする量子色力学(QCD)の中で提唱された粒子です。
シドニー大学でダークマターを研究している素粒子天体物理学者のキアラン・オヘア氏によると、アクシオンの発見は標準宇宙論モデルにおける「強いCP問題」という課題の解決にもつながるので、科学者にとって魅力的な説だとのこと。
オヘア氏はSalon.comに、「もしダークマターがQCDアクシオンなら、本質的に不可視ですから、私たちがその中を泳いでいても気づくことはできません。ですから、確認するには非常に特殊な実験をする必要があるでしょう」と話しました。
例えば、ワシントン大学ではアクシオン検出器を用いた実験プロジェクトであるADMX(Axion Dark Matter eXperiment)が進められています。
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by NASA Goddard Space Flight Center
また、科学者らは既にアクシオンのように非常に質量が小さい粒子であるニュートリノを発見しています。これは、速度が速くエネルギーが高い「ホットダークマター」との一種だと言われることもありますが、あまりにも軽すぎて宇宙にあるダークマターの振る舞いを説明できないため、少なくともこれらの粒子がダークマターの大部分を占めるとは考えられていないとのことです。
◆候補3:原始ブラックホール
捉えどころのない粒子以外の候補として人気なのが、ビッグバンの直後に誕生した原始ブラックホールです。
もし小惑星ほどのブラックホールを観測することができれば、原始ブラックホールの有力な証拠となりますが、ただでさえ光を放たない上に小さなブラックホールの発見はかなりの難題です。
オヘア氏は「小惑星質量のブラックホールを観測するのは、信じられないほど困難ですので、探索技術のアイデアを実現させるのには少し時間がかかります。運が良ければ、2030年ごろまでにハードルをクリアし、原始ブラックホールを観測することができるか、またはブラックホールをダークマターの候補から外す成果が得られると思います」と話しました。
天文学者らは既に、原始ブラックホールを内部に取り込んだ「ホーキング星」の候補となる天体をいくつか発見しており、その中に原始ブラックホールがあればどんな風に見えるのか調査しています。
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ダークマターを研究する分野では、これまで数多くの実験や観測が行われており、どれもダークマター発見には至っていませんが、失敗した試みもダークマターの正体に迫る重要な1歩であることに違いはありません。多くの専門家は、遅くとも記事作成時点から10年以内にはダークマターの正体がつかめるだろうと、明るい見通しを持っています。あるいは、ダークマターは存在しないということが判明し、それが未知のまったく新しい物理法則の発見につながる可能性もあります。
スラティエ氏は「ダークマターを実験的に検証するという発想は、単なる誤った希望なのかもしれません。しかし、私たちが知っていることを踏まえると、ダークマターは私たちが知っているどの粒子よりも軽い新しい粒子であり、私たちの周りで常に生成され、部屋の中を飛び回っている可能性があります。だとすれば、感度の高い検出器を部屋に置くだけでそれを見つけられるはずです」と話しました。
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