ダークマターの正体「アクシオン」の雲が中性子星を覆っているとの研究結果、ダークマター観測に期待
by NASA's Marshall Space Flight Center
人間や地球、夜空の星々などを形作っている通常の物質は、宇宙に存在する物質とエネルギーのうちたった5%以下で、残りはまだ正体がわかっていないダークマターとダークエネルギーで構成されていると考えられています。全宇宙の4分の1を占めるダークマターの正体として有力視されている仮想粒子「アクシオン」の雲が、中性子星という極端な天体の周囲で生成されており、密度が十分に高ければ既存の観測技術で捉えることが可能かもしれないとする仮説が提唱されました。
Phys. Rev. X 14, 041015 (2024) - Axion Clouds around Neutron Stars
https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.14.041015
Dark matter might live in a dense haze around stellar corpses | Space
https://www.space.com/neutron-stars-axions-dark-matter
Axion clouds around neutron stars could reveal dark matter origins – Physics World
https://physicsworld.com/a/axion-clouds-around-neutron-stars-could-reveal-dark-matter-origins/
アムステルダム大学重力・宇宙素粒子物理学研究所(GRAPPA)のディオン・ノールデュイス氏らの研究チームは、2024年10月17日付けのPhysical Review Xに掲載した論文で、アクシオンと呼ばれる粒子が中性子星の周囲に雲を形成する可能性があり、もしそうなら電波望遠鏡でそれを観測できるだろうとの研究結果を発表しました。
by Kevin Gill
アクシオンとは、「CPの破れ」という素粒子物理学の問題を解決するための仮想粒子として考案されたもので、まだ観測されたことも存在が証明されたこともありませんが、他の物質や光とほとんど相互作用を起こさない、つまり見ることも触れることもできないという性質がダークマターと似ています。
そのため、アクシオンはダークマターの有力候補のひとつに数えられており、今回の研究結果はダークマターの正体に迫るものとしても注目されています。
なお、SF的な語感からすると少し意外なことに、アクシオンという名前は日用品メーカー・Colgate-Palmolive(CP)の食器用洗剤ブランド「Axion」から拝借して名付けられたものだとのこと。量子色力学における「CPの破れ」の問題をきれいさっぱり解決してくれる粒子を、「CPの洗剤」とかけたネーミングというわけです。
by Omar Bárcena
研究チームが注目した中性子星は、太陽の少なくとも8倍の質量を持つ恒星が、核融合に必要な燃料を使い果たして超新星爆発を起こした際に発生します。残された核の質量があまりに大きければそのまま重力崩壊してブラックホールになりますが、そうならなかった場合は陽子と電子が合体して中性子が生成されるほどの高密度の天体となります。
これが中性子星で、その密度は「小さじ1杯分の中性子星の質量がシロナガスクジラ8万5000頭の体重に匹敵する」とも言われています。
中性子星は、その極端に強い磁場から「マグネター」と呼ばれることもあり、中性子星の極では磁気圏によって発生する電磁場からアクシオンが生成される可能性があるとのこと。
こうして生成されたアクシオンは、中性子星の強力な重力に捉えられて雲を形成し、場合によっては局所的な暗黒物質の密度を20桁以上超えるほどの濃密な「アクシオン雲」になり得ることを、研究チームは突き止めました。
ノールデュイス氏は「巨大な重力場を持つ中性子星は、生成されたアクシオンの一部を捕らえるのにうってつけの天体です。ブラックホールもアクシオンを効率的に捕獲しますが、同時により効率的にアクシオンを飲み込む天体でもあります。また、これまでのところブラックホールの周囲でもアクシオンが生成されるかどうかはまったく不明です」と説明しています。
アクシオンは非常に軽く、ほとんど光と相互作用しませんが、アクシオン雲が十分に形成されると「アクシオン・光子混合(axion-photon mixing)」と呼ばれるプロセスにより大量のアクシオンが光に変換されるため、電波という形でその信号を観測することも可能かもしれません。
中性子星を取り巻くアクシオン雲に関する研究はまだ始まったばかりで、もしアクシオンが検出されても、ダークマターが発見されたとはいえない可能性もあります。また、ダークマターの正体がアクシオンだけとも限りません。
ノールデュイス氏は「アクシオン雲を完全に理解するには、素粒子天体物理学、プラズマ物理学、観測電波天文学など、物理学の複数の分野からの相補的な取り組みが必要になります。この研究は、そのような将来の研究につながる学際的な取り組みのきっかけとなることでしょう」と話しました。
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