サイエンス

脳を損傷して「オヤジギャグ中毒」になってしまったケースが報告される


くだらないダジャレやばかばかしいジョークを思いついたけど、口には出さなかったという経験がある人は多いはず。脳がダメージを受けたことで、つまらない冗談を言う衝動を抑えられなくなる病気である「ふざけ症(Witzelsucht)」になった人について報告した文献を、サイエンス系ニュースサイトのScienceAlertがまとめました。

This Rare Neurological Condition Can Cause an Addiction to Jokes : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/this-rare-neurological-condition-can-cause-an-addiction-to-jokes

2016年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校デイヴィッド・ゲフィン医科大学院の医師らが発表した症例報告では、脳卒中を患ったことで強迫的な冗談に悩まされることになった当時69歳の男性のケースが報告されました。

この男性は、病院を訪問する10年前に原因不明のくも膜下出血を患い、性格が急変してしまっていたとのこと。男性の変化には、まだ使えるものを探してゴミ箱をあさるほどのリサイクル癖の発症や、若い女性をハグする際に失礼なほど長く抱きしめようとすることなどがありましたが、特に家族を悩ませたのは男性が冗談を言いたいという強迫的な衝動を抑えられなくなったことです。

昼夜を問わず笑い話を作りたくなってしまった男性は、夜な夜な大笑いしながら妻を起こして冗談を聞かせるので、うんざりした妻はついに思いついたジョークはノートにでも書いておいて欲しいと頼んだとのこと。


医師らは「患者はジョークが満載された50ページのネタ帳を持参しましたが、その内容のほとんどは性的なものやスカトロ的なものを含んだジョークか、ばかばかしいダジャレでした」と述べています。

医師らが男性のネタ帳からピックアップして症例報告に記載したダジャレの一例は次のとおり。「肛門科医はセラピストになんと言いましたか?」「1日中くそったれ(assholes)の相手をしているんです」。


診察の結果、男性はユーモアに対する絶え間ない欲求を特徴とする一連の症状である「Witzelsucht」と診断されました。ドイツ語の「冗談を言う(Witzeln)」と「依存症(Sucht)」を組み合わせた言葉であるWitzelsuchtは、日本語では「ふざけ症」と呼ばれます。

ふざけ症は、ドイツの神経学者のヘルマン・オッペンハイムが1890年に初めて紹介したものです。オッペンハイムは外傷や病気による右前頭葉の損傷が、患者の行き過ぎたユーモアにつながることを発見しました。

多くの場合、ふざけ症の患者が思いつく冗談は社会的に不適切で場違いなタイミングだったり、下品で不愉快な内容だったりしますが、本人には自覚がなく、むしろ自分のジョークの面白さに大受けします。

その後の1929年、ドイツの脳神経外科医であるオトフリート・フェルスターが、意識のある状態で患者の脳の手術を行っていた際、特定の部位の刺激により患者が突然ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語、ドイツ語のダジャレを言い始めたことを発表しました。


これにより、神経学者はユーモアに関連した脳の領域を細かく絞り込むことができましたが、それから数十年が経過した記事作成時点でも、ふざけ症がどれくらいの頻度で発生するのか、どうすれば治療できるのかなどは解明されておらず、症例研究もあまり進んでいません。

前述の69歳の男性を診察した医師のマリオ・メンデス氏は、このふざけ症について最も多くの資料を作成している専門家のひとりで、メンデス氏による別の症例報告では銃撃により脳を損傷した63歳の男性のケースが紹介されました。

うつ病や自殺願望に悩まされていたこの男性は、あるとき銃を乱射し始めたため警察に撃たれ、頭部に複数の弾丸を受けました。そして、手術により奇跡的に一命を取り留めた結果、男性は喜びと幸福感に満ちた人格変化を経験し、もはやうつ病や自殺願望の治療を必要としないほどに回復したとのこと。

うつ病患者から一転して陽気になった男性は、頻繁に冗談やダジャレを飛ばしたり、口を閉じながら息んで頭のへこんだ部分を膨らませる持ちネタを披露したりして周囲の人を楽しませるようになったため、ふざけ症と診断されました。

医師らは症例報告に、「男性を診察をしたところ、彼は我関せずという様子で、よく冗談やダジャレを言ったり、他人をからかうような軽口をたたいたりして、概して自分の状況を真剣に受け止めていないことが観察されました。また、彼はしばしば頭蓋骨の欠損部を膨らませて周りの人を驚かせたり楽しませたりしていました」と記しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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