サイエンス

ロサンゼルスの山火事では水が足りず「海水」をまく異例の消火活動が行われている、海水散布が最後の手段である理由とは?


2025年1月にアメリカのロサンゼルスで発生した山火事では、あまりに火事が大規模だったため給水タンクが底をつき、消火栓から水が出ないという事態に陥りました。これを受けて消防当局は「海水をくみ上げて上空から散布する」という異例の消火活動を行っていますが、海水の散布は自然にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があり、あくまでも最後の手段だとのこと。海水の散布が自然に及ぼす影響について、スミソニアン環境研究センターの環境学者であるパトリック・メゴニガル氏が解説しています。

Firefighting planes are dumping ocean water on the Los Angeles fires − why using saltwater is typically a last resort
https://theconversation.com/firefighting-planes-are-dumping-ocean-water-on-the-los-angeles-fires-why-using-saltwater-is-typically-a-last-resort-247188


ロサンゼルスの山火事では消防車が駆けつけたにもかかわらず、消火栓の水圧低下や給水タンクの枯渇によって消火栓から水が出ず、積載した水を使い果たした後は火の手が回るのを見ているしかないという状況が発生しました。これは、消防士の安全確保のために送電が遮断されて水をくみ上げるポンプが停止したことや、都市の消火システムが大規模な山火事に対応していないことなどが理由といわれています。

そんな中、消防当局はSuper Scooper(スーパースクーパー)と呼ばれる空中消火機を使い、海水をくみ上げて空中散布するという異例の消火活動に当たっています。実際にSuper Scooperが海水をくみ上げる様子などは、以下の動画で確認できます。

Firefighters battle Palisades wildfire with ocean water - YouTube


「太平洋の豊富な海水を使って山火事を消火する」という解決策は非常に単純ですが、あくまでもこれは最後の手段となっています。その理由のひとつは、塩水をまくと普段塩分にさらされていない森林などの生態系に悪影響が及び、植物が枯れてしまう可能性があるためです。


海水散布や高潮などによって森林が塩水にさらされた際の影響については、まだ十分に理解されていません。そこでメゴニガル氏は、長らく塩分にさらされていなかった森林が塩水にさらされた際の反応を理解するため、「TEMPEST」と名付けられた実験を行っています。

TEMPESTではアメリカ大西洋岸のチェサピーク湾から組み上げた塩水と淡水をそれぞれタンクに貯蔵し、実験区域の森林を土壌が飽和するほどの塩水または淡水にさらします。これは、沿岸部が嵐に襲われた際の高潮や洪水をシミュレートしたものだとのこと。

by Smithsonian Environmental Research Center

実験の結果、2022年6月に行われた森林を10時間塩水にさらす実験と、2023年6月に行われた森林を20時間塩水にさらす実験では、森林に大きな影響がみられませんでした。しかし、2024年6月に森林を30時間塩水にさらす実験を行ったところ、森林のユリノキの葉が例年より早い8月中旬から茶色くなり始め、9月中旬には冬のように葉が落ちてしまったと報告されています。この変化は塩水にさらした森林でのみ確認され、淡水にさらした森林では発生しませんでした。

一連の実験でみられた森林の回復力は、塩水をくみ上げた箇所が河口だったため、比較的塩分の少ない塩水が用いられたことが影響している可能性があります。また、2022年6月と2023年6月の実験後には雨が降ったため、土壌の塩分が洗い流された一方で、2024年6月の実験の後は大規模な干ばつが発生したため、土壌に塩分が残留し続けたことも影響しているとみられます。

さらに、メゴニガル氏らの研究チームが塩水にさらした森林の土壌から水をくみ上げたところ、実験から約1カ月後に土壌の水が茶色に変色し、その状態が2年間続いたことも報告されています。これは、土壌に含まれる枯れた植物から化合物が抽出されたことを示しているとのことです。他にも実験室で行った実験では、塩分が土壌の粘度やその他の粒子を分散・移動させることも示唆されました。

by Smithsonian Environmental Research Center

メゴニガル氏は、「海水が消火に役立つとはいえ、消防当局が淡水を好むのには理由があります」「一方でアメリカの海岸線は、世界的な気温上昇によって海水面の上昇が加速し、より広範囲かつ頻繁に海水にさらされる事態に直面しています。これにより森林や田畑、農場が浸水し、海岸の景観に未知のリスクが生じています」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ロサンゼルスの山火事で重要なライフラインとなった無料の火災追跡アプリ「Watch Duty」とは? - GIGAZINE

DJIのアップデートにより空港や山火事発生地域でドローンが自動停止されなくなり操作は人間の手に委ねられることに - GIGAZINE

4億3000万年前の「歴史上最も古い山火事」の痕跡が発見される、当時の生態系も明らかに - GIGAZINE

ロサンゼルスで撮影された高速道路に迫る山火事が戦慄すぎる光景 - GIGAZINE

大規模な山火事「メガファイア」の消防活動はそもそもが間違っているという指摘 - GIGAZINE

海が燃えているように見える不思議な火災はなぜ発生したのか? - GIGAZINE

なぜ人間は海の水が飲めないのか? - GIGAZINE

海水を淡水に変える技術を使って世界中の水不足を解決することが難しい理由とは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article The Los Angeles wildfire is running out ….