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ロサンゼルスの山火事で重要なライフラインとなった無料の火災追跡アプリ「Watch Duty」とは?


火災の発生状況・避難勧告区域・大気質指数・風向などさまざまな情報を追跡できる無料アプリが「Watch Duty」です。このアプリは被害総額が20兆円を超えたロサンゼルスの山火事において、地元住民だけでなく消火活動にあたる消防士も頼りにしていることで話題となりました。そんなWatch Dutyがロサンゼルス市民にとって重要なライフラインになるまでの経緯を、テクノロジーメディアのThe Vergeがまとめています。

How Watch Duty became crucial for tracking the Los Angeles wildfires - The Verge
https://www.theverge.com/2025/1/11/24340913/watch-duty-wildfire-tracking-app-los-angeles-nonprofit


LA residents find a lifeline in this free wildfire-tracking app - The Verge
https://www.theverge.com/2025/1/9/24339799/watch-duty-wildfire-tracking-app-la-wildfires

現地時間の2025年1月7日にアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスで発生した山火事は、記事作成時点でも延焼範囲が広がっており、最も被害の大きいパリセーズ地区の火災は14%しか消火されていません。そんなロサンゼルス山火事の被災者は、ソーシャルメディア上で「Watch Duty」と呼ばれる火災情報追跡アプリのダウンロードを呼びかけ合っています。

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Watch Dutyは2021年にリリースされ、記事作成時点ではアメリカの22州で利用可能な火災情報追跡アプリです。火災が発生している地域には地図上に炎のアイコンが示され、他にも避難警報やリアルタイムでのテキスト・写真・動画などを投稿できるようになっています。


他にも、ユーザーは避難場所・避難経路・消火活動に関する情報などにアクセスでき、地図を拡大して特定の地点に関する最新情報を確認することも可能です。The VergeはWatch Dutyを「火災緊急時に必要なすべての情報をワンストップでチェックできるサービス」と評しています。

Watch Dutyは約200人のボランティアにより運営されており、その多くは現役あるいは引退した消防士・ディスパッチャー・救急隊員です。情報源となっているのは政府報告書やボランティアによるレポート、緊急通報システムからの山火事に関する情報で、無線スキャナーや野生生物ように設置されたカメラ、人工衛星、警察や消防署からの公式アナウンスなどで、情報の真偽を精査・監視してもいます。

Watch Duty | How It Works - YouTube


Watch Dutyは「ユーザーのエンゲージメント」「利用時間」「広告売上」を気にしないという点で、テクノロジー業界においては非常にユニークな存在です。Watch Dutyを運営する非営利団体は、提供する情報の正確性と、その情報をサービスが提供できる速度のみを気にしています。Watch Dutyは過去数日間で150万人以上がダウンロードする人気を博しており、AppleとGoogleが提供するモバイルアプリストアでもトップに躍り出ました。

Watch Dutyの優れた点として、The Vergeは「シンプルさ」を挙げています。Watch Dutyがユーザーデータをスクレイピングしたり、広告を表示したり、ログインを要求したり、ユーザー情報を追跡したりすることはありません。The Vergeは「Watch Dutyのシンプルな技術スタックとUIは、恐らく数えきれないほど多くの命を救うのに役立ってきました」と、Watch Dutyのシンプルさを称賛しています。

Watch Dutyは無料で使用可能ですが、税控除対象となる寄付も受け付けており、寄付者は消防航空機の飛行経路をリアルタイムで監視することができる「消防飛行追跡システム」や、4つ以上の郡で使える地上の状況が変化するたび通知を受け取ることができる機能などを利用することが可能です。

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Watch Dutyはサービスの提供範囲をアメリカ全土、海外にまで拡大する計画があり、山火事以外の緊急速報を取り扱う計画もあります。そのため、The Vergeは「Watch Dutyは最終的に、何百人もの人々にとって遅くて信頼性の低い地方自治体の警報システムの一部に取って代わる存在になるかもしれません」と指摘しました。

Watch Dutyのアイデアは、共同創業者のジョン・ミルズ氏が2020年にウォルブリッジで起きた山火事に被災した際に、「身を守るために必要な情報源がひとつもない」と感じたことがきっかけに生まれたそうです。ミルズ氏はWatch Dutyの共同創業者でありCTOを務めるデビッド・メリット氏の協力をあおぎ、火災情報を追跡するためのアプリを開発することを決めます。

メリット氏は当時を振り返りながら、「Watch Dutyはジョンのアイデアから生まれたもので、4年前に彼が私に話してくれたアイデアそのものです。我々は60日間でアプリを構築し、フルタイムのスタッフなしで完全にボランティアのみで運営を行っています。協力してくれた多くのエンジニアにとってWatch Dutyはサイドプロジェクトだったため、できるだけシンプルにする必要がありました」と語りました。

火災多発地域での火災情報は断片的で、消防署や郡が公式情報を発信する場も、FacebookやX(旧Twitter)などのプラットフォームに分散しています。また、ソーシャルメディアプラットフォームは警報サービスへの自動アクセスを有料化する傾向が強まっている、という問題も抱えています。政府もさまざまな警報システムを活用しているため、人命を奪う可能性のある緊急性の高い山火事が発生した場合、人々が必要な情報に素早くアクセスすることができないという問題もはらんでいます。


メリット氏は「我々が提供するWatch Dutyを公共サービスだと考えています。これは緊急時に安全を確保するためのタイムリーで適切な情報であり、誰もが持つべきものです。現時点では、この種の緊急情報は非常に分散しています。最善の意図を機関でさえ、官僚主義や契約によって制限がかけられている状況です。我々は消防活動に重点を置いた政府機関と提携しています」と、山火事に関する政府機関発の情報すら断片化している現状を語っています。

また、メリット氏はWatch Dutyと他サービスの違いとして、「情報の即時性」を挙げました。具体的には、「政府機関が使用するプッシュ通知やテキストメッセージの配信システムには、15分程度の遅延が発生するものがあり、これは消防活動にとって好ましいものではありません。Watch Dutyはプッシュ通知を1分以内に送信することを目指しています。現在、ロサンゼルスでは150万人がアプリを通じてプッシュ通知を受け取っています。60秒間に送信するには膨大な量のメッセージです。一般的に、人々はほぼ同時に通知を受け取っています」とのことです。

メリット氏はWatch Dutyを構築するため、多数の企業パートナーに依存していると語りました。Watch DutyはGoogle Cloud、Amazon Web Services(AWS)、Firebase、Fastly、Herokuといった複数のプラットフォームを組み合わせて構築されています。また、Watch Dutyは警報機能とメールの内部ルーティングにのみAIを使用しているそうです。

この他、Watch Dutyがプッシュ通知する山火事に関する最新情報は、そのほとんどがボランティアにより投稿された情報で、Slackで誰がどの場所を取材するかなどが調整されている模様。メリット氏はWatch Dutyで提供される情報について、「すべての情報は量より質を重視して精査されます。記者(ボランティアで山火事情報を投稿するユーザー)には行動規範もあります。例えば、負傷者について報道したり、特定の住所を伝えたりすることは禁じられています。すべて特定の基準に基づいて行われており、ボランティアによる投稿をWatch Dutyが編集することはありません」と説明しています。

当初はボランティアの力だけで運営を進めてきたWatch Dutyですが、記事作成時点ではフルタイムのスタッフを雇用することができるようになっているそうです。「ボランティアの協力も受けていますが、組織が成長し、物事が複雑になり、プロセスが厳格になるにつれて、社内の有給スタッフが増えつつあります」とメリット氏は語りました。

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メリット氏によるとWatch Dutyはアプリを有料化したり、ユーザーデータを収集したりする予定はないそうです。これについて、「これは多くのテクノロジーがやっていることの対極です。私たちはユーザーにアプリ内で時間を過ごしてほしくありません。情報を入手したら、すぐにアプリを閉じて欲しいのです。写真を追加するオプションはありますが、追跡している火災のさまざまな視点を提供するものに限定しています。情報を入手するために悲観的に画面をスクロールして欲しいとは思いません」と語りました。

なお、記事作成時点でWatch Dutyは国立気象局や環境保護庁といった公的機関から入手できる情報に大きく依存しています。トランプ次期大統領は大気質を監視するEPAおよび国立気象局の親機関である国立海洋大気庁を解体する可能性が指摘されているため、これが実現すれば、Watch Dutyの運営にも影響を及ぼす可能性があります。

しかし、メリット氏は「政策の変更による影響を受けることはほとんどないでしょう」「Watch Dutyの運営費用のメインはスタッフに支払われる給与です。私たちは優秀なエンジニアを雇い、非常に堅固なプラットフォームを持つように努めていますが、国立気象局からデータを購入するために助成金を調達する必要がある場合はそうするでしょう」と語りました。

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in モバイル,   ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by logu_ii

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