富裕層はなぜ「アメリカン・エキスプレス」のカードを愛用するのか?
クレジットカードには、VisaやMasterCard、JCBなどさまざまなブランドが存在していますが、アメリカの富裕層の多くはアメリカン・エキスプレス(AMEX)を好んで使います。その理由について、海外メディアのCNBCが解説しています。
Why Wealthy Americans Love AmEx - YouTube
19世紀半ばに運送会社として創業したAMEXは、その後旅行小切手やチャージカード事業に進出し、長い歴史と伝統を築いています。特に、AMEXのゴールド・プリファード・カードやプラチナ・カードといったプレミアムカードは、富裕層のステータスシンボルとして広く認知されています。
プラチナ・カードの年会費は16万5000円とあるように、AMEXのクレジットカードの年会費は比較的高額です。しかし、高額な年会費を支払う顧客に対し、AMEXは豊富な特典とリワードプログラムを提供しています。一例としてAMEXは、ホテルの宿泊券やトラベルクレジット、空港ラウンジの利用権などを顧客に提供しており、富裕層の旅行やビジネスシーンにおけるニーズを満たしています。実際にAMEXは会員へのサービスとリワード提供に1年間で約170億ドル(約2兆6000億円)を費やしたことが報告されています。
CNBCによると、こうした日常生活で役立つさまざまな特典を顧客に提供することで、AMEXは顧客の利用頻度を高めることに成功しているとのこと。AMEXによる高所得者をターゲットとしたビジネスモデルの展開により、2022年のAMEXは529億ドル(約8兆3000億円)の収益を獲得しているほか、AMEX会員は、非会員と比較して年間支出額が平均3倍にも達することが明らかになっています。
AMEXのライバルとしては、VisaやMasterCardなどのブランドがありますが、VisaやMasterCardは実際にクレジットカードを発行することなく、取引処理を行う仲介者としての役割を担う「オープンループシステム」で運営されている一方、AMEXはクレジットカード発行事業やアクワイアラー、ネットワークの3つの役割をすべて自社で担う「クローズドループシステム」を採用しています。これにより、AMEXは顧客の支出状況を詳細に把握し、より的確なマーケティングやリワードプログラムを提供することが可能とのこと。
また、カード発行会社と加盟店から手数料を徴収するVisaやMasterCardと異なり、AMEXは取引処理手数料に加えて利息収入も徴収しています。自社でクレジットカードを発行するAMEXは、顧客がカードを利用して発生した債務に対して利息を徴収することが可能です。このほか、AMEXは加盟店に対して、VisaやMasterCardよりも高い手数料を課していることが多く、これが高いAMEXの収益につながっています。それでも、一部の加盟店はAMEXカードを持つ高額消費者を引きつけるために、高い取引処理手数料を支払っているそうです。
こうした差別化により、AMEXはVisaやMasterCardなどとは異なるビジネスモデルを確立し、成功をおさめてきました。しかし、近年ではVisaやMasterCardもデータ分析やAIを活用することで、AMEXのクローズドループシステムの優位性を縮める動きを見せています。そのため、AMEXは近年、ミレニアル世代や銀行口座を持たないアメリカ人をターゲットとした顧客基盤の拡大に力を入れています。実際に、2022年にクレジットカードを新規に発行した顧客の約60%がZ世代ならびにミレニアル世代だったことからも、若い世代へのアプローチが重要であることが分かっており、こうした顧客層の取り込みがAMEXの長期的な成長に不可欠であることが指摘されています。
また、デジタル決済やオンラインサービスの需要が近年高まっていることを受け、AMEXはアプリやウェブサイトの改善、データ分析の強化にも力を入れています。そのほか、AMEXは成長の余地が大きい海外市場への進出を加速させており、中国ではアメリカ系クレジットカード会社として初めて事業認可を取得し、現地ブランドとの提携を通じて富裕層の取り込みを進めています。また、ヨーロッパ市場においても、フランスやドイツではクレジットカードの普及率がアメリカやイギリス、オーストラリアに比べて低いことから、大きな成長の機会があると見込まれています。
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