Spotifyによる人気プレイリストを「ゴーストアーティスト」で埋め尽くすロイヤリティ削減プログラムの実態とは?
音楽ストリーミングサービスのSpotifyでは、人気のプレイリストに「ゴーストアーティスト」と呼ばれる架空の名前で活動するアーティストの楽曲が数多く掲載されていることが指摘されています。Spotifyはこれらの楽曲を「Perfect Fit Content(PFC)」と呼び、収益化戦略の一環として積極的に利用していることを、著作家のリズ・ペリー氏が自著「Mood Machine: The Rise of Spotify and the Costs of the Perfect Playlist」内で暴露しています。
The Ghosts in the Machine, by Liz Pelly
https://harpers.org/archive/2025/01/the-ghosts-in-the-machine-liz-pelly-spotify-musicians/
Fejkade artister på Spotify spelas miljontals gånger - DN.se
https://www.dn.se/kultur/dn-avslojar-svenska-fejkartisterna-som-tog-over-pa-spotify-storre-an-robyn/
The Ugly Truth About Spotify Is Finally Revealed
https://www.honest-broker.com/p/the-ugly-truth-about-spotify-is-finally
2017年頃からペリー氏は、「ゴーストアーティストによるストックミュージックがSpotify上の人気のプレイリストを埋め尽くしている」とのうわさを耳にするようになったとのこと。Spotify公式が作成するプレイリストは比較的再生数が多く、アーティストや音楽レーベルにとって貴重な収入源となっているそうで、ストックミュージックがプレイリストを席巻すると、アーティストやレーベルは収入源を失うことになります。
ペリー氏は当初、このうわさについて懐疑的な目を向けていたものの、多くのミュージシャンやレーベルなどからこの問題に関する報告を受けました。同時期には、「Spotifyがプレイリストの一部を同社が作成した安価な偽アーティストの作品で埋め尽くしている」と主張する記事がインターネット上で公開され、波紋を呼びました。しかし、Spotifyの広報担当者はこの報道について「断固として真実ではありません」と否定しました。
2023年にはSpotifyの「Ambient Chill」プレイリストから有名アーティストがほぼ一掃され、スウェーデンのストックミュージック会社「Epidemic Sound」の楽曲に置き換えられたことが音楽ライターのデビッド・ターナー氏によって報告されています。
これらの「ゴーストアーティスト」の特徴としてペリー氏は、「Spotify上で数百万回再生され、さまざまなプレイリストに掲載されている」「Spotifyの認証済みアーティストバッジを持っていることが多い」「所属レーベルは、Epidemic Soundなどのストックミュージック会社であることが多い」「プロフィール画像はおそらくAIが生成したもので、プロフィール欄にはアーティストの経歴や公式ウェブサイトへのリンクがないことが多い」「名前をGoogleで検索しても情報が見つからない」と指摘しています。
さらに、スウェーデンの日刊紙・Dagens Nyheterは、Spotifyでのストリーミングデータを著作権収集団体STIMから取得した文書と比較して、「約20人の作曲家が500人以上の『アーティスト』の楽曲を制作しており、その楽曲はSpotifyで数百万回再生されている」との調査結果を報告しています。
ペリー氏は1年以上にわたり、Spotifyの元従業員と話をしたり、Spotifyの社内記録やSlackメッセージを確認したり、多くのミュージシャンとのやり取りを行ったりしてゴーストアーティストに関する実態を調査。この結果、Spotifyは一部のストックミュージック会社とパートナーシップを結んでおり、Spotifyの一部チームがプラットフォーム全体のプレイリストにこれらのストックミュージック会社の楽曲を追加していることが明らかになりました。こうしたストックミュージックは、人間のアーティストが制作した楽曲よりも安価にストリーミングできるため、Spotifyはストックミュージックの総ストリーミング回数を増やすために取り組んでいるそうです。
Spotifyとストックミュージック会社とのパートナーシップを含む一連のプログラムはPFCと呼ばれており、人間のアーティストにとっての脅威となっているほか、「Spotifyが利益を追求するために、音楽の質を犠牲にしている」との批判を招いています。また、PFC楽曲を制作したアーティストには、楽曲ごとに数百ドル(数万円)の報酬が支払われるだけで、マスター音源の所有権はストックミュージック会社に帰属し、アーティストは将来的な収益を得ることは一切できません。そのほか、演奏権協会に所属するアーティストは、PFCに参加できないといった数々の制約が存在しています。
それでも、ペリー氏がインタビューを行った一部のアーティストは、「生活のためにPFC楽曲を制作する仕事を請け負わざるを得ない」と報告。このアーティストはPFC楽曲の制作について「楽曲を作っても喜びがない」と述べています。
Spotifyの元従業員によると、PFCのマネージャーは「このプログラムに参加したミュージシャンは、単に彼らの創造的な活動を別の方法で収益化することを選択しただけだ」と主張し、その存在や活動を正当化していたとのこと。Spotifyの広報担当者はPFCの存在を認め、「アーティストが制作した音楽が所属するバンド名や別の活動名で公開されることは、何十年にもわたって行われてきました」と指摘しました。
PFC楽曲の制作はパターン化されており、アーティストにはストックミュージック会社からターゲットとなるプレイリストへのリンクが送られた後、「シンプルに」「挑戦的または攻撃的な要素は避けて」「可能な限り平凡に」といったリスナーの注意を過剰に引かないような指示を元に楽曲を制作するとのこと。また、楽曲の制作時間は短、く1~2時間で15曲ほど録音することもあるそう。楽曲の録音はほとんどの場合、一発録りで行われます。
しかし、近年ではAI技術の発達に伴い、PFCで用いられる楽曲の多くがAIで生成可能なレベルになっています。また、Spotify自身もAI生成音楽のプラットフォームへの導入に前向きな姿勢を示しており、ペリー氏は将来的にゴーストアーティストがAIに取って代わられる可能性や音楽業界の雇用に影響を与える可能性について懸念しています。
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