ライムを手搾りして外に出かけたせいで両手にひどい「やけど」を負った男性の症例
ライムを搾ってジュースを作ってから屋外でスポーツを楽しんだところ、手にやけどのような症状が発生し、数カ月にわたって皮膚の異常に悩まされたという男性の「植物性光皮膚炎」についての症例が報告されました。
Phytophotodermatitis | New England Journal of Medicine
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm2410140
Man suffers chemical burn that lasted months after squeezing limes - Ars Technica
https://arstechnica.com/health/2024/11/man-suffers-chemical-burn-that-lasted-months-after-squeezing-limes/
2024年11月27日付けの医学雑誌・The New England Journal of Medicineに、食品を調理する際に見落とされがちなリスクの事例として、植物性光皮膚炎を負った40歳の男性の症例が掲載されました。
この男性は、テキサス州にあるアレルギークリニックを受診する2日から、ひどい灼熱(しゃくねつ)感を伴う発疹に悩まされていました。発疹は数日後には水ぶくれになり、数週間にわたって皮膚の黒ずみや鱗屑(りんせつ)、つまりウロコ状に皮膚が剥がれる症状が見られました。
最終的に男性の手の肌が元通りになるまで、数カ月間かかったそうです。
症例報告によると、男性は発疹が出る直前に十数個のライムを手で絞ってジュースにしてから、日焼け止めを塗らずに野外でサッカーを楽しんでいたとのこと。
このことから、医師は男性の症状を典型的な「植物性光皮膚炎」と診断しました。植物性光皮膚炎とは、植物に含まれる有毒物質と紫外線が反応することで引き起こされる、灼熱感や水疱(すいほう)、鱗屑、色素沈着などの症状を伴う皮膚炎です。
原因はフロクマリン類という有機化合物で、ライムのほかにはセロリ、ニンジン、パセリ、フェンネル、パースニップ、ライム、ビターオレンジ、レモン、グレープフルーツ、スイートオレンジなどさまざまな植物に含まれます。
すべのフロクマリンが有害というわけではありませんが、光毒性があるものが皮膚細胞に入り込んで紫外線にさらされると、DNAを構成するピリミジン塩基と架橋、つまりDNAの二本鎖と結合してしまい、DNAの複製が阻害されて細胞死と炎症を引き起こします。
ライムによって引き起こされる植物性光皮膚炎は、屋外で働くバーテンダーの間では「マルガリータ焼け」と呼ばれる職業病として知られています。この症状に関する記録の歴史は古く、古代エジプトでは白斑を患った人の肌にドクゼリモドキというセリ科の草の汁を塗り、日光浴をさせる治療が行われていたとのこと。
これはドクゼリモドキに含まれるフロクマリン類やメトキサレンなどのソラレン誘導体の作用を利用したもので、現代の白斑治療の際にもソラレンを配合した薬と紫外線照射を用いたPUVA療法が行われることがありますが、ソラレンの作用や日光が強すぎると植物性光皮膚炎になるので、古代エジプト人にとってはリスキーな治療法だったといわれています。
今回の症例報告の男性は、炎症を抑える局所ステロイドクリームとローションで治療しましたが、前述の通り完治には数カ月かかってしまいました。
バーテンダーやカクテル愛好家向けの情報サイト・A Bar Aboveは「ライムをその場で搾る必要がない場合は、屋外での提供前に室内でまとめて作っておくことを検討するといいでしょう。また、ライムを使い終わったら手やライムジュースに触れた可能性のあるものはすべて洗ってください。腕に果汁が飛び散っただけでも、非常にやっかいなやけどを引き起こす可能性があります」と述べました。
・関連記事
アレルギーを引き起こす意外なモノ9種類 - GIGAZINE
TikTokで流行している「あえて日焼けをすることでニキビを治す」というライフハックは本当に役に立つのか? - GIGAZINE
肌にいいこと/悪いことに関する7つの真実と都市伝説 - GIGAZINE
目に光を当てて失明につながる網膜の損傷を治療する医療機器をアメリカ食品医薬品局が認可 - GIGAZINE
「多くの人は日焼け止めを塗る時に重大なミスを犯している」と科学者が警鐘を鳴らす - GIGAZINE
・関連コンテンツ