ADHDを障害とみなすべきか研究者らは疑問視している、多様な考え方や行動のうちの1つで正常な状態との指摘
現代社会において、年齢や発達に比べて注意力が足りない、衝動的で落ち着きがないなどの特徴を症状とする注意欠如多動症(ADHD)は、神経発達症や発達障害とみなされています。しかし、ADHDの科学的理解が進むにつれて、専門家は「ADHDを障害とみなすべきなのか」について疑問を抱いています。
Researchers are questioning if ADHD should be seen as a disorder
https://www.economist.com/science-and-technology/2024/10/30/researchers-are-questioning-if-adhd-should-be-seen-as-a-disorder
近年、ADHDの診断数は多くの国で急速に増加しており、アメリカの2万6000の診療所や病院でADHDとの診断を受けた人の数は2020年から2022年にかけて60%増加しました。また、イングランドの国民保険サービス(NHS)によるADHD治療薬の処方数は2018年から2023年にかけて倍増したことが報告されています。
診断数の増加はADHDに対する理解が深まったことを示しているほか、これまで適切な診断を受けられずにADHD治療薬を処方されなかった患者への光明が差したことを示しています。しかし、ADHDの科学的理解が進むにつれて、ADHDを障害とみなすべきかどうか疑問に思う専門家が増えているそうです。
専門家によると、ADHDは単にニューロダイバーシティのスペクトルの別のポイント、つまり多様な考え方や行動のうちの1つであり、むしろ正常とのこと。そのため、専門家はADHDの症状がある患者に対し、ADHD治療薬を使った薬物的介入を行うのではなく、患者の強みを活用する支援的な環境の構築や、日常生活の課題に対処するのに役立つツールを提供するなどの非薬物的介入を積極的に行うよう推進しています。
ADHDを診断する際には、不注意や多動性、衝動性、および症状が引き起こす問題の深刻さに関する一連の質問が行われます。しかし、海外メディアのThe Economistが「このような主観的な判断は最適ではありません」と指摘するように、ADHDの診断や治療は容易ではありません。
キングス・カレッジ・ロンドンの神経科学者であるエドマンド・バーク氏は「近年、ADHDが患者によって異なることが受け入れられるようになってきました」と述べており、ワーキングメモリの治療などの特定の心理的介入を行っても、患者によって治療の効果が異なる可能性が指摘されています。
一方で、ADHD治療薬は脳のドーパミン受容体やノルエピネフリン受容体に作用することで、患者の集中力などをただちに促進できるという利点があり、ADHDと診断された人々の長期失業の可能性低下や事故死のリスク減少とADHD治療薬の関連が明らかになっています。
しかし、ADHD治療薬は、身体の成長に悪影響を与える可能性があるほか、精神病や心臓の問題のリスクの増加が指摘されています。そのため、一部の専門家は安易にADHD治療薬を用いるのではなく、個人の特定の認知的、行動的、感情的な問題に合わせた支援を提供する「トランスダイアグノスティック(診断横断的)」なアプローチによる治療を行うべきと主張しています。
バークベック大学のナンシー・ドイル氏は「ADHDの症状を持つ人が自然と環境に適応してくれることを望むのではなく、積極的に学校や職場の再設計を行うべきです。気が散るような騒音をカットするために窓やドアを閉めたり、長時間じっと座っておくことが困難な患者に対し、立ったり動いたりするプログラムを導入したりといったアプローチが重要です」と語りました。
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