サイエンス

遺伝子発現を制御するマイクロRNAを発見した研究者2人がノーベル医学・生理学賞を受賞


スウェーデン・カロリンスカ研究所のノーベル賞委員会が、マサチューセッツ大学のビクター・アンブロス教授とハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授に2024年度のノーベル医学・生理学賞を授与すると発表しました。受賞理由は「マイクロRNA(miRNA)の発見と転写後遺伝子制御における役割に対して」です。

Press release: The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2024 - NobelPrize.org
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2024/press-release/

Medicine Nobel awarded for gene-regulating ‘microRNAs’
https://www.nature.com/articles/d41586-024-03212-9

Medicine Nobel for microRNAs - Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2024/10/medicine-nobel-goes-to-previously-unknown-way-of-controlling-genes/

授賞の知らせを受けた後に大学に出勤するアンブロス教授


ノーベル賞委員会からの電話を受けた直後のラブカン教授


アンブロス教授とラブカン教授がmiRNAについての研究を初めて世に出したのは1993年のことです。

The C. elegans heterochronic gene lin-4 encodes small RNAs with antisense complementarity to lin-14 - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8252621/

当時同じグループで研究員を務めていた両氏は、Caenorhabditis elegansという線虫の発生に関与するlin-4とlin-14という2種類の遺伝子を特定しました。この遺伝子が変異すると、線虫の胚が適切に発生しなくなるとのこと。アンブロス教授はlin-4遺伝子が何らかの形でlin-14遺伝子の活動を阻害することを発見しましたが、その仕組みはわかっていませんでした。

通常、遺伝子は何らかのタンパク質の設計図となっています。しかし、lin-4遺伝子は従来の遺伝子と異なり、タンパク質ではなく、22塩基あるいは61塩基の小さなRNA分子、すなわちmiRNAを生成することがわかりました。そして、このmiRNAがlin-14のメッセンジャーRNA(mRNA)の3' 非翻訳領域と相補的に結合することが判明。アンブロス教授とラブカン教授は、この相互作用によってlin-14遺伝子によるタンパク質生成が抑制され、線虫の発生が適切に進行することを明らかにしました。


1993年の発表時点では、このmiRNAは線虫特有のシステムだと思われていました。しかし、ラブカン教授らの研究チームが2000年に発表した研究では、Caenorhabditis elegansで発見されたlet-7 RNAと呼ばれるmiRNAが脊椎動物や昆虫を含む広範な動物種に存在することが示されました。また、let-7 RNAの標的遺伝子もショウジョウバエや脊椎動物に存在することが判明。一方で、植物や単細胞生物ではlet-7 RNAが検出されなかったとのこと。このことから、let-7 RNAは生物が進化の過程で獲得した発生メカニズムの一種である可能性が示唆されました。


Conservation of the sequence and temporal expression of let-7 heterochronic regulatory RNA - PubMed
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11081512/

線虫だけでなくヒトやマウスなど多くの動物において、miRNAが遺伝子制御に大きく関わっている可能性があるという研究結果は、生物学の世界に大きな衝撃を与えました。その後の研究から、miRNAは遺伝子から生成された長いRNAを前駆体としており、このmiRNA前駆体が折りたたまれて塩基対を形成し、ヘアピンと呼ばれる構造を形成したあと、ダイサーと呼ばれる酵素によって切断されて生成されることがわかりました。


また、生成されたmiRNAはmRNAにタンパク質複合体を誘導し、RNAを消化させたりタンパク質への翻訳を阻止したりすることも明らかとなりました。さらに、記事作成時点でおよそ5万種類のmiRNAが発見されており、当初検出されなかった植物からもmiRNAが発見され、miRNAのシステムがもっと以前から存在していた可能性も考えられています。

miRNAの研究が進んだことで、さまざまな遺伝病などにmiRNAが関与している可能性が示されました。例えば、miRNAを生成するために必要なダイサーが神経細胞で発現しなくなると、ニューロン間の接続の分岐が制限されて小頭症を引き起こすことがわかっています。まだ初期段階ですが、miRNAを医療に応用する研究も進んでおり、任意のmiRNAを細胞に届ける方法が模索されているとのこと。

授賞式は、創設者であるアルフレッド・ノーベルの命日にあたる12月10日に、スウェーデンのストックホルムで行われます。ラブカン教授は2009年のノーベル医学・生理学賞の授賞式に同行していたそうで、「授賞式でノーベル賞を受け取るのを楽しみにしています。すでに授賞式の祝賀パーティーのやり方は知っていますので」とコメントしています。

なお、ノーベル賞委員会はアンブロス教授とラブカン教授に授賞を知らせる電話でのやりとりをYouTubeで公開しています。

First Reactions | Victor Ambros, Nobel Prize in Physiology or Medicine 2024 | Telephone interview - YouTube


First Reactions | Gary Ruvkun, Nobel Prize in Physiology or Medicine 2024 | Telephone interview - YouTube

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in サイエンス,   動画, Posted by log1i_yk

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