「砂が枯渇する」は本当なのか?
山でも海でも川でも、世界中の至る所で目にすることができる「砂」ですが、枯渇が問題視されることがあります。この「砂不足問題」について、土木技師のグレイディ・ヒルハウス氏が解説しました。
Is the World Really Running Out of Sand? — Practical Engineering
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アメリカ農務省が作成した粘土(Clay)・沈泥(Silt)・砂(Sand)の相対分数に基づく分類システムの土質組織三角形によると、砂は「少なくとも85%が砂である粒状物質」ということになります。
統一土壌分類システムでは、土は「GRAVELS(砂利)」「SANDS(砂)」「SLITS&CLAYS((沈泥&粘土)」「HIGHLY ORGANIC SOILS(高有機質土)」に分類されています。
この分類システムにおける砂は、「粗粒分の50%以上が目開き4.75mmのふるいを通過し、粗粒分の50%未満しか目開き0.075mmのふるいを通過できないもの」と定義されています。
砂は、ガラスや半導体、光ファイバー、フィルター、研磨剤などさまざまな物質の材料として使用されており、何より現代の都市建設には欠かせないコンクリートにとっても不可欠な材料です。
コンクリートの重要性や、人類がコンクリートをどれだけ使用しているかは、「いくら強調してもし過ぎることはないほど」だとヒルハウス氏。コンクリートは想像できるあらゆる形状に成型可能で、非常に低コストでありながら耐久性が高く、水・セメント・砂利・砂といった世界中のどこでも入手できる材料から作り出すことができるなど、他の建築材料と比較しても多くの利点を持っています。
こういったコンクリートの特性により、人類は何世代にもわたって利用可能な丈夫な建造物を建てることができるようになりました。
コンクリートの原料のほとんどは採掘され、そのまま利用されています。そして、多くの場合は利用現場の近くで採掘されています。その理由は、建設用途の砂のコストの大部分が、輸送費で占められるためです。
コンクリートに使用するのに最適な砂は、川から採掘される砂です。しかし、川での砂の採掘は水路の性質の変化につながるケースもあるためデリケートな問題でもあります。
また、砂は世界中に均等に分布しているわけではなく、再生不可能な資源でもあります。地質学的プロセスによって砂が生成される速度は、人類が砂を利用する速度よりもはるかに遅いため、「いずれは砂が枯渇する」という説がまことしやかにささやかれるケースがあります。
しかし、砂は人工的に作り出すことが可能です。そして、人工砂の作成プロセスはそれほど複雑ではありません。まずはハンマーを使って大きな岩石を小さく砕きます。
次に、ふるいを使ってサイズを分類し、大き過ぎるものや小さ過ぎるものを取り除くだけ。人工砂の加工作業は、天然の砂を採掘する作業と比べて多くの利点を有しており、例えば既存の採石場や粉砕作業で発生した砂利などを流用できたり、採掘作業を川から離れた場所で実行できるため環境への影響を抑えたりすることもできます。
さらに、人工砂を使うことでコンクリートの強度を高めることも可能です。
天然砂を顕微鏡で確認すると、丸みを帯びており、球形で滑らかです。
これに対して、人工砂は鋭く尖っているのが特徴。
2本の円筒形の入れ物に天然砂(右)と人工砂(左)を同じ量だけ入れて容器を持ち上げます。大きな違いはないように見えますが、天然砂は粒子の摩擦が少ないため、人工砂よりも広がっているのがわかります。「これを見れば、人工砂で作られたコンクリートの方が強度が高いと直感的にわかるはず」とヒルハウス氏は語りました。
さらに、実際に天然砂と人工砂でコンクリートを作り、その強度を検証。検証の結果、人工砂で作成したコンクリートの強度は、天然砂で作成したコンクリートの約3倍も高かったそうです。
しかし、コンクリートには強度以外にも求められる特性が複数存在します。例えば、コンクリートは固まる前の段階では液状ですが、水の約2.5倍の密度を持っている重い物体であるため、非常に硬く成型は大変な重労働になるそうです。そのため、コンクリートの原材料によっては固まる前の液体コンクリートが硬くなりすぎてしまい、ホースが詰まったり気泡が閉じ込められたりしてしまい、固まった後の品質が低下してしまいます。コンクリートのこの特性は、「作業性」と呼ばれるそうです。
コンクリートの作業性を向上させるには水を多く利用すればOK。ただし、水を多く利用すればするほどコンクリートの強度は低下します。ここでキーとなってくるのが砂粒の形状です。
人工砂でコンクリートを作ると、明らかに作業性が悪くなってしまいます。天然砂のコンクリートと人工砂のコンクリートの作業性が同一になるように調整する場合、加える水分量が人工砂のコンクリートの方が約30%も多く必要となるそうです。
さらに、それぞれのコンクリートの強度を検証したところ、人工砂で作ったコンクリートの方が天然砂で作ったコンクリートよりも強度が10%劣っていました。
つまり、作業性を考慮すると人工砂よりも天然砂のようなより摩擦の少ない砂を利用する方が、質の高いコンクリートを作れるということです。
ただし、ヒルハウス氏は「コンクリートはパン焼きのようなもので、材料が異なれば仕上がりも変わります。地元のパンのレシピが地元の材料の入手性に基づいて進化したのと同じように、建設業界もさまざまな地元の材料を使用してコンクリートで優れた構造特性を実現する方法を開発してきました。エンジニアリングの多くのことと同じように、本当の課題はコストにあります」と述べ、根本的な問題は天然砂と人工砂の違いではなく、コストにあると指摘。
砂は採掘にかかるコストよりも輸送にかかるコストの方が高くつくケースがあります。これは砂が重く、大量に必要となるためです。いくら高品質でも、遠方から輸送していてはコストがかさみ過ぎてしまうわけです。また、世界的に厳しくなっている環境規制に伴い、砂の採掘作業のコストも上昇しています。
これらを踏まえ、ヒルハウス氏は「砂が枯渇しつつあるわけではなく、砂が以前よりも高価になっているのが問題」と指摘しました。さらに、「建設業界では多くの変化が起きており、砂や砂利などの資材の需要も大きく伸びています。しかし、世界中でこうした資材が不足していると言うのは公平ではないと思います。私たちは、資材の調達にかかるすべてのコストをより意識するようになり、それが私たちの将来や環境にどのような影響を与えるかについて、より深く考えるようになってきているだけです」と語っています。
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