サイエンス

砂や空気中など自然環境から人間のDNAを採取できる技術の遺伝子プライバシー的な問題とは?


科学技術の発達により、髪の毛一本あればDNA配列を発見して同じDNAを持つ人を特定することができます。最新の研究では、特定のDNAを探し出す必要すらなく、水滴や砂、さらには空気などのあらゆる環境からサンプルを採取し、そこに含まれるDNAを分析できるところまで進歩しています。この技術は、犯罪捜査や医学研究に役立つ大きな利点がある一方で、重大なプライバシー侵害も懸念されています。

We can ID people from DNA that shows up in environmental studies | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2023/05/human-genomic-bycatch-our-dna-shows-up-in-environmental-samples/


Your DNA Can Now Be Pulled From Thin Air. Privacy Experts Are Worried. - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/05/15/science/environmental-dna-ethics-privacy.html

自然保護活動家としても活躍する動物学者のリアム・ホイットモア氏は、アオウミガメを研究する中で、研究サンプルに人間のDNAが紛れ込む可能性に思い当たりました。


さっそく同僚とともに、野生生物と病原体のモニタリング研究のために採取した古い水や砂のサンプルを確かめたところ、やはり人間のDNAが紛れていました。ホイットモア氏らが、見つけたDNAを細かく分析すると、さすがに個人までは特定できなかったものの、その人の祖先や病気への耐性に関するゲノム領域を多数発見したとのこと。

ホイットモア氏らは「自然環境中のDNAからは、個人を特定することこそできませんでした。しかし、誰かがこの配列を公開遺伝データと比較することで、より特定の個人のプライベートな情報を知ることができるでしょう」と指摘しました。


アメリカと欧州連合(EU)では、識別可能なヒトDNAサンプルを扱う研究で政府から資金提供を受ける場合、組織内の審査委員会の承認を受ける必要があります。また、DNAを提供する参加者から書面によるインフォームドコンセントも得なければいけません。しかし、ホイットモア氏が直面したように、人間のDNAが自然環境の中で偶然入手された場合、研究のための同意や承認を得ることが難しくなります。それもふまえてホイットモア氏らは、潜在的な問題の一部と、発見の潜在的な利点を概説しました。

ホイットモア氏によると、DNAを入手されることによって、本人の認識や同意なしに位置を追跡されたり監視されたり、あるいはデータを商業的に流用されたりと、さまざまな有害な利用方法が懸念されるとのこと。また、DNAからはさまざまな病気への耐性もわかるため、この点も重要なプライバシーの問題だとホイットモア氏は指摘しました。一方で、自然環境にDNAが発見されると、とある病気と関連を持つ集団を特定してその病気や治療への理解が広まる可能性も考えられます。その他、逃亡犯や誘拐の被害者などを捜索するのに役立ったり、考古学研究で未発見の文明を発見したりといった有用な用途も考えられるため、プライバシーの側面を重視しながら、慎重にバランスをとる必要があるとホイットモア氏は述べています。

遺伝的プライバシーに関する法律に取り組む法学者のナタリー・ラム氏は、「環境サンプル中のヒト塩基配列の倫理性」という論文の中で、「意図せず流出した遺伝情報を捜査目的に利用することは、私たち全員を永続的な『遺伝子監視下』に置く危険性があります。現在、法執行機関は、他の目的で収集した遺伝情報を異なる捜査の目的で利用することに、あまり積極的ではないことが確認されています。しかし、少なくともアメリカの下級裁判所は、『個人が世界を移動する際に意図せず必然的に流しているDNAについて、憲法上のプライバシー権はない』と判示しています」とプライバシーの問題について語っています。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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