サイエンス

ほとんど知られていない1型糖尿病と2型糖尿病の中間の「1.5型糖尿病」とは?


糖尿病は一般的に、体の免疫系が正常な細胞を破壊してしまうことで起きる「1型糖尿病」と、主に食べ過ぎや運動不足が原因となる「2型糖尿病」の2種類に大別されます。認知度や社会の理解が低く、医療機関で誤診されてしまうことも多い別のタイプの糖尿病の「1.5型糖尿病」について、専門家が解説しました。

What is type 1.5 diabetes? It’s a bit like type 1 and a bit like type 2 – but it’s often misdiagnosed
https://theconversation.com/what-is-type-1-5-diabetes-its-a-bit-like-type-1-and-a-bit-like-type-2-but-its-often-misdiagnosed-237041

オーストラリア・サザンクロス大学のエミリー・バーチ氏と、クイーンズランド大学のローレン・ボール氏によると、実は発症メカニズムや原因などによって糖尿病を細かく分類すると10種類以上もありますが、最も一般的な区分では糖尿病は1型と2型に分けられるとのこと。

◆1型と2型の違い
まず、1型糖尿病は免疫系がインスリンというホルモンを作るすい臓の細胞を破壊してしまう自己免疫疾患で、多くは子どもや若い成人で発症します。1型糖尿病では、インスリンがほとんど、あるいはまったく分泌されなくなるため、1型糖尿病の人は毎日インスリン製剤の投与を受ける必要があります。


一方、2型糖尿病はインスリン抵抗性によりインスリンへの反応が鈍くなり、それを超えるのに十分な量のインスリンをすい臓が作れなくなるのが原因です。その多くは成人に見られますが、近年では若年化や子どもの患者の増加も指摘されるようになりました。

2型糖尿病は、発症後もある程度インスリンが分泌される点で1型糖尿病とは異なっており、治療には食事や身体運動などの改善や経口薬、インスリン製剤などが用いられます。

◆1.5型糖尿病とは?
1.5型糖尿病の正式名称は「成人潜在性自己免疫性糖尿病(LADA)」で、主な原因は1型糖尿病と同じく免疫系がインスリンを作る細胞を攻撃することです。一方、1型糖尿病と比べて1.5型糖尿病は進行が遅いため、すぐにはインスリンを必要としないことが多いとのこと。

1.5型糖尿病の患者としては、アメリカの象徴的なバンドだった「NSYNC」の元メンバーのランス・バス氏が有名です。


一般的な1型糖尿病では、診断時からインスリンが必要になるのに対し、ほとんどの1.5型糖尿病では5年以内にインスリンが必要となります。また、進行が遅いため30歳以上になってから診断されるケースが多く、これは1型糖尿病の診断年齢よりも遅いものの、平均的な2型糖尿病の診断年齢よりは早い時期です。

また、原因も1型と2型の両方の特徴を備えており、1型糖尿病の患者と同じ遺伝的および自己免疫的なリスク要因が見られます。また、肥満や運動不足など、2型糖尿病の人に多い生活習慣の要因の影響を受ける可能性があることも証明されています。


◆1.5型糖尿病の症状と治療
1.5型糖尿病の症状は人によって大きく異なり、中にはまったく症状が出ない人もいるとのこと。一般的な症状としては、喉の渇きの増加、頻尿、倦怠(けんたい)感、目のかすみ、意図しない体重の減少などがあります。

多くの場合、1.5型糖尿病の人にはまず血糖値を正常範囲に維持するための経口薬が処方されます。また、血糖値コントロールの状況や使用している薬によっては、1日中定期的に血糖値をモニタリングする必要もあるとのこと。

経口薬を使用しても平均血糖値が正常範囲を超える場合、インスリンによる治療に移行することがあります。しかし、1.5型糖尿病に対するコントロール戦略や治療方法はまだ確立されていないのが現状とのことです。


◆誤診の問題
前述のバス氏は、当初2型糖尿病と診断されましたが、その後1.5型糖尿病だと判明しました。これは珍しいことではなく、1.5型糖尿病の人が2型糖尿病と誤診される割合は5~10%と推定されています。

1.5型糖尿病の診断が難しいのにはいくつか理由があります。まず、1.5型糖尿病だと正確に診断し、他のタイプの糖尿病と区別するには、血液を採取して自己免疫マーカーを検出するための特別な抗体検査が必要になります。しかし、コストの懸念や、そもそも検査の必要性が考慮されていないことなどにより、必ずしもすべての医療専門家がこの検査を行うわけではないとのこと。

また、1.5型糖尿病は成人によく見られるため、この年齢層で一般的な2型糖尿病を発症したと想定する医師が多いことや、初期の1.5型糖尿病では十分なインスリンが分泌されるのも珍しくないこと、そして1.5型糖尿病と2型糖尿病とでは症状が似ていることなどが、誤診のリスクに拍車をかけてしまっています。


◆1.5型糖尿病についてはまだ分かっていないことも多い
2023年の調査では、1.5型糖尿病の人はすべての糖尿病患者の8.9%を占めると推定されており、これは1型糖尿病と同様の割合です。しかし、より正確な数字を出すにはまだ十分な調査が行われていません。

そのため、1.5型糖尿病の認知度は低く、診断基準もあいまいであり、社会の理解も進んでいません。もし、1.5型糖尿病の人が2型糖尿病と誤診されてしまうと、必要な治療を受けるのが遅れて健康状態が悪化し、合併症を引き起こすリスクも出てきます。

専門家は、「正しい診断を受けることは、最適な治療を受けて糖尿病の苦しみを軽減するのにつながるだけでなく、無駄な出費を抑える上でも重要です。もし糖尿病の可能性がある症状が出ている場合や、既に受けた診断に不安がある場合は、症状を観察して医師に相談してください」と呼びかけました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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