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「カラーホイールは間違っている」という指摘、色覚の実際の仕組みとは?


色の表現範囲を表す「色空間(カラースペース)」には、赤・緑・青の3原色を混ぜる「RGB」、主に印刷で用いられるシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの4成分による「CMYK」のほか、赤・黄・青の「RYB」という方法もあります。原色同士を混ぜて他の色を作成するイメージを円状に表現したのがカラーホイールですが、実際の印刷用インクやテレビ画面、物理学を考えると「カラーホイールはウソである」ということを、起業家・投資家のジェイソン・コーエン氏が解説しています。

Color Wheels are wrong? How color vision actually works
https://longform.asmartbear.com/color-wheels/

以下の画像は、ファッション関係のブログを投稿するネキア・トーレス氏が示したカラーホイール。ここでは、「原色(PRIMARY)」である赤、青、黄を三角形に配置し、それぞれの中間地点に原色同士が混ざり合った「二次色(SECONDARY)」、原色と二次色の間にそれらが交ざった「三次色(TERTIARY)」を示しています。このように色を抽象的な円状に示した図解構成を色相環もしくはカラーホイール、カラーサークルと呼びます。


コーエン氏はこのカラーホイールを例に挙げた上で、「カラーホイールは美しく対称的な表現ですが、少し精査するだけで簡単に崩れてしまう装置です」と指摘しています。例えば、上記のカラーホイールでは「赤、青、黄」を「原色」としていますが、プリンター用のインクは「シアン(青緑)、マゼンタ(青赤)、黄」の3色と黒を組み合わせた「CMYK」となっています。また、コンピュータ グラフィックスでは赤、緑、青という「RGB」が主に用いられます。

「だとすると、『原色』という言葉は、実際には何を意味するのでしょうか」とコーエン氏は述べています。カラーホイール状で正三角形を結んだ対称的な3色ならなんでも組み合わせてカラーホイールを作れるかというと、そうではありません。それでも、「RGB」「CMY(K)」「RYB」はそれぞれ二次色・三次色と組み合わせていくことでカラーホイールを生成できます。

コーエン氏によると、原色が複数パターン考えられる理由を物理学的に考えると、さらなる疑問が生じるそうです。物理学において、光は電磁エネルギーの波または粒子であり、波の周波数によって色が決まります。以下の画像は物理学の情報を伝えるMini Physicsからコーエン氏が引用したもの。可視光線のうち、低周波数は赤系、高周波の青系と、周波数に対応して色が変化しています。色がグラデーション的に変化していく様子はカラーホイールと同様ですが、「円状」という概念は失われており、物理学的には始まり(赤)と終わり(紫)がはっきりしています。また、マゼンタや赤紫といった色は、カラーホイールには存在しますが、物理的なスペクトルには存在していません。


抽象的な図示であるカラーホイールは誤りが含まれていると指摘した上で、コーエン氏は「それならば実際の色の見え方はどうなっているのか」という点を、生理学的な観点から説明しています。通常、人の目は視細胞の一種である「錐体(すいたい)細胞」を通して色覚を機能させています。網膜には長波長(赤系)に反応する「L錐体」、中波長(緑系)に反応する「M錐体」、短波長(青系)に反応する「S錐体」の三種類があり、これらが受け取る光量を組み合わせることで、色を感じているというわけ。

ただし、「錐体細胞は赤、緑、青(RGB)に反応する」というのはかなり単純化された表現です。以下の図にある通り、各錐体細胞は「主にその系統の色で反応する」というだけで、それぞれ広い波長範囲で反応します。


単純化して「人の色覚はRGB」とした上で、実際の色の見え方には、3種類の「フィルター」が存在しているとコーエン氏は述べています。ここで言うフィルターとは、3種の錐体細胞がそれぞれ受け取った信号を、脳に送る前に通して処理する段階のもの。ひとつめのフィルターは、赤を正の信号に、緑を負の信号として送ります。緑と赤は「反対色」であるとされるため、「緑がかった赤」のような色はないという理由も、これにより説明できるとコーエン氏は指摘。RとGが同量の場合、それらが組み合わさるのではなく、正と負が釣り合って信号は「ゼロ」になるためです。


2つ目のフィルターは、赤と緑を正の信号に、青を負の信号に分類します。


3つ目のフィルターは色相に関係なく光の量を測定するもので、明るさを示す「輝度」に相当します。


コーエン氏によると、これら3つのフィルターを組み合わせることで、色を認識しているとのこと。この色覚に合わせた考え方をする場合、赤と緑、青と黄色の反対色を示す必要があります。そのため、生理学的に正しいカラーホイールを示す場合、原色は3つではなく4つで、以下のような図になるとコーエン氏は示しています。円状になる理由も、正と負の信号を計算するという意味では、「正からゼロを通過し、負になる」という数値をマッピングすると、自然な図であるそうです。


コーエン氏の記事は2011年に書かれたものですが、2024年7月ごろに、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsで取り上げられて話題を呼びました。そこでは、「なぜ円状(ホイール)なのか」という問いかけは面白く、結論も妥当なものの、「カラーホイールが間違っているという考えを筆者は裏付けられていない」と指摘されています。コーエン氏は「赤の反対色は緑」「青の反対色は黄色」とした上で説明していますが、RGBにおける赤の反対色はシアンで、赤の反対色が黄色となるのはRYBです。しかし、RYBでは青の反対色はオレンジのため、基準が一定ではありません。コーエン氏が最後に示した4つの原色を持つカラーホイールも、重要な色の組み合わせがいくつか欠けているという意見があります。

また、あるユーザーによると、「光の周波数によって色が決まる」というのはよくある誤解であるそうです。色を決定するのは光の単一周波数ではなく、可視光スペクトルの「分布全体」であり、赤色レーザーと緑色レーザーを混合すると黄色っぽくなるのはそれが理由だとのこと。Hacker Newsではコーエン氏の理論や色およびカラーホイールの概念、虹が何色に見えるかなどで議論が繰り広げられており、「色というテーマは、すべての理解は純粋に心理的なものであるという疑問に直面させてきます」とユーザーの一人は語っています。

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in デザイン, Posted by log1e_dh

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