生き物

ロボットの設計に「ゾウ」が研究されている理由とは?


ペンギンが素早く泳ぐメカニズムを水上車両や水中探索ロボットなどの構築の手掛かりとしたり、フラミンゴが1本足で安定して立つポーズを少ないエネルギーで姿勢を保つシステム開発に応用できないか考えられたり、人間にはない他の動物のメカニズムがロボット研究のアイデアとして生かされることがあります。パリのソルボンヌ大学で動物行動学と生体力学を専門に研究するポーリン・コストス氏が、生物にヒントを得たロボット工学への知識の移転として「ゾウ」に注目していることを解説しています。

Elephants use the tips of their trunks to grasp things with great precision – how this can help robotic design
https://theconversation.com/elephants-use-the-tips-of-their-trunks-to-grasp-things-with-great-precision-how-this-can-help-robotic-design-231309


コストス氏のチームは、アフリカゾウの鼻の先端にはどれほどのパワーがあり、どのくらい器用な「つまむ」能力があるのかを研究していました。過去の研究では、ゾウが鼻を巻き付けて物体を持ち上げる時にかかる全体の力などを測定していましたが、2024年5月に発表した論文では、鼻の先端に焦点を当てて力の大きさや構造を調査しています。

研究では、つまむ力を記録したら報酬としてリンゴを放出する装置を設置し、鼻の握力を測定しました。以下の画像は実際にゾウが装置を使っているところで、装置は一度リンゴを受け取るたびに、次にリンゴを得るために必要な握る力が大きくなるため、ゾウは前回よりも強くつまむ必要があり、「鼻でどれくらいの力を出せるか」という最大値を計測する仕組みになっています。


観察の中で、ゾウが装置のセンサーをつまむ時の鼻の動きは4パターンあることがわかりました。以下の図はゾウの鼻の動きをイラストで示しており、上から「A」は鼻を真っすぐ前に伸ばした状態、「B」は鼻の先をねじって横からつまむような形、「C」は鼻をねじりながらまっすぐ伸ばした状態、「D」は鼻をねじりながら横からつまんでいるパターン。


動物園にいる5匹のメスのゾウを調査した結果、ゾウの鼻が物体をつまむ力はまっすぐ鼻を伸ばしているときが最大で、86.4ニュートンと測定されました。1キログラムの質量に1メートル毎秒の加速度を与える力が1ニュートンであり、人間の親指と人差し指の間のつまむ力は49~68ニュートンとされています。ゾウの鼻は人間の指よりも強い力で「つまむ」ことができますが、その力は強すぎず、物体に大きな力をかけずにつまむことができるということがわかりました。

「物体に強い力をかけずにしっかりつまむ」という動きは、ロボットに求められる「ソフトグリッパー」という技術に求められる機能であり、「ゾウの鼻の構造を解析することで、ソフトグリッパーの開発に役立つ情報が得られます」とコストス氏は述べています。


ゾウの鼻からヒントを得たロボットのソフトグリッパーは、2020年にサウスウェールズ大学が実験を公開しています。以下のムービーは、布製の柔らかいロボットグリッパーが様々なものに巻き付くようにして持ち上げている様子をサウスウェールズ大学が公開したもの。

New robotic ‘snake’ device grips, picks up objects - YouTube


研究者によると、このロボットグリッパーにはセンサーがついており、グリッパーに作用している力を検知して接触している物体の損傷を防ぐ力で巻き付いて、熱で作動するメカニズムによって布製のグリッパーが硬くなったり柔らかくなったりするそうです。このロボットグリッパーが物体に巻き付く柔軟な動きが、様々な方向に力強くかつ正確に動くゾウの鼻の生物学的モデルを参考にしているとのこと。


コストス氏らの研究では、ゾウの鼻の先端にある2本の「指」とも言える力点に、それぞれ力のかかり方が違うということを初めて発見しました。より広い生息地や生態のゾウを調査し、鼻のメカニズムを詳細に理解することで、「人体に負担を与えないロボット治療」「険しい環境で柔軟に移動できるロボット」「野菜や果物を傷つけずに収穫する機械」などロボット工学の研究を進めることができるほか、「ゾウの生息地に必要な環境を正しく理解して、ゾウを保護することにもつながる意義があります」とコストス氏は語りました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1e_dh

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