サイエンス

ネアンデルタール人が6歳のダウン症の子どもを育てていたことが判明


約40万~4万年前に生息していたネアンデルタール人は現生人類(ホモ・サピエンス)と同じヒト属の一種であり、接着剤を作るなど高い知能を持っていたことがわかっているほか、現生人類とも交配していたため一部の遺伝子が現代人に受け継がれています。そんなネアンデルタール人が「6歳のダウン症の子ども」を育てていたことが、スペインの洞窟で発見された骨から明らかになりました。

The child who lived: Down syndrome among Neanderthals? | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adn9310


Bones reveal first evidence of Down syndrome in Neanderthals | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/bones-reveal-first-evidence-down-syndrome-neanderthals

First case of Down syndrome in Neandertals documen | Newswise
https://www.newswise.com/articles/view/813341/

Neanderthals cared for 6-year-old with Down syndrome, fossil find reveals | Live Science
https://www.livescience.com/archaeology/neanderthals-cared-for-6-year-old-with-down-syndrome-fossil-find-reveals

1989年、スペインのバレンシア県シャティバにあるコヴァ・ネグラという洞窟から、ネアンデルタール人の子どもとみられる右側頭部の内耳の骨が発掘されました。コヴァ・ネグラで見つかったその他のネアンデルタール人の骨は27万3000~14万6000年前のものであり、この耳の骨も同年代のものとみられています。

スペインのアルカラ大学バレンシア大学が率いる研究チームは、「ティナ」と名付けられたネアンデルタール人の耳の骨をマイクロCTでスキャンし、デジタル3Dモデルを作成して測定と分析を行いました。


その結果、ティナの耳にはダウン症の特徴と合致する異常がみられ、難聴や重度のめまいなどを経験していた可能性があると判明。ティナの死亡時年齢は少なくとも6歳以上と推定されていることから、ネアンデルタール人がダウン症の子どもをある程度成長するまで世話していた可能性が高いと報告されました。

今回の研究では、ティナにダウン症の原因である21番目の染色体があったことまでは確かめられていません。しかし、もしティナが現代人のダウン症と同様の症状を持って生まれていたとすれば、平衡感覚の問題だけでなくコミュニケーションなどその他の問題も抱えていたと考えられます。

それにもかからず、ティナが6歳になるまで生きていたという事実は、ネアンデルタール人がダウン症の子どもを世話するために余分なコストを費やしていたことを示唆しています。研究チームは、ティナを世話していたのは母親だけでなく、集団を構成するその他のメンバーも世話に関わっていた可能性が高いと指摘しました。

by Jaroslav A. Polák

ネアンデルタール人が障害を持つ仲間を世話していた事例は過去にも報告されており、イラクの洞窟では「視覚と聴力に障害があり片腕が部分的に切断された男性」が、仲間に世話されて50歳まで生きていた痕跡が発見されています。しかし、これまでネアンデルタール人で確認されていた社会的介護の事例はいずれも成人を対象にしたものであったため、「何らかの見返りを動機としたもの」という可能性がありました。

一方で今回の事例を見ると、困難な遺伝的疾患を持つ6歳の子どもが集団に物質的なメリットをもたらす可能性は低いと考えられます。そのため、ダウン症の子どもを世話したネアンデルタール人の行動は、物質的な見返りを求めない利他的行動だった可能性が高いとのこと。

論文の筆頭著者であるアルカラ大学のメルセデス・コンデ教授は、「これまで知られていなかったのは、たとえ恩返しができなかったとしても世話をされたという、ネアンデルタール人に真の利他主義が存在したことを証明するケースでした。それこそが『ティナ』の発見が意味するところです」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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