サイエンス

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人では得意な「物の握り方」に違いがあったと研究者が主張

by Erich Ferdinand

約40万年前に出現した人類の一種・ネアンデルタール人は、壁画を描いたり埋葬を行ったりと高い文化を持っていただけでなく、現生人類であるホモ・サピエンス交配していたこともわかっています。そんなネアンデルタール人とホモ・サピエンスの違いについて、親指の骨に着目した新たな研究で「得意な物の握り方」に違いがあったと研究者が主張しています。

The implications of thumb movements for Neanderthal and modern human manipulation | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-75694-2

Neanderthal thumbs better adapted to holding tools with handles
https://phys.org/news/2020-11-neanderthal-thumbs-tools.html

Thumb study reveals why one ancient human had an upper hand over another
https://www.inverse.com/science/ancient-human-thumbs


ネアンデルタール人は文化や身体的特徴など、多くの面でホモ・サピエンスと類似した存在だったことがわかっており、実際に現代人のDNAにもネアンデルタール人のDNAが受け継がれています。しかし、ネアンデルタール人は2万数千年~4万年ほど前に絶滅しており、「一体なにがネアンデルタール人とホモ・サピエンスの運命を分けたのか?」というテーマは多くの側面から研究されています。

2020年11月26日にオープンアクセスの学術誌であるScientific Reportsに掲載された論文は、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの「親指の骨」に着目し、それぞれの違いを分析したものです。研究チームは3Dスキャン技術を使用して、5体のネアンデルタール人の化石と、5体のホモ・サピエンスの化石、そして50人の現代人の骨をそれぞれ比較したとのこと。

論文の筆頭著者であり、イギリス・ケント大学の博士研究員であるAmeline Bardo氏は、「私たちはネアンデルタール人の親指の付け根にある手首の骨・大菱形骨と、大菱形骨と親指をつなぐ1本目の骨・第1中手骨の手首側の形状を、初期及び現代の人類と比較して調べました」と述べています。

以下の写真の赤枠で囲った部分が、今回の研究で分析が行われた大菱形骨および第1中手骨の手首側です。この部分は手のひらと一体化しており、人差し指・中指・薬指・小指ではほとんど動かない一方で、親指ではそれなりの可動域がある部分です。


研究チームが骨の表面に目印を付けて関節の動きや形状を調べたところ、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスでは「物の握り方」に違いがあった可能性があると判明したそうです。

Bardo氏は、「ネアンデルタール人の化石に見られる親指の付け根の骨は平らで、骨同士の接触面が小さいため、手の側面に沿って親指を伸ばすのに適しています。この親指の姿勢は、ハンマーのような柄を握って道具を保持する時のように、力を入れた握り方を定期的にしていたことを示唆します」と述べています。


一方、ホモ・サピエンスの親指では付け根の骨がより大きくて湾曲しているため、接触面が大きくなるとのこと。この親指の形状は、ペンを持つ時のように親指や人差し指、中指の腹を合わせて物をつかむ、より精密な握り方をするのに適したものだとのこと。


ホモ・サピエンスがハンマーを握ることができるように、ネアンデルタール人もペンを持つような握り方ができたと思われますが、ホモ・サピエンスよりも握りにくいと感じていたと研究チームは考えています。また、今回の研究は必ずしも「ホモ・サピエンスがネアンデルタール人よりも優れている」ことを示すのではなく、あくまで2つの種が異なるスタイルを持っていたことを示すものだと指摘しています。

研究チームは今回の分析を基にして、古代の人類が使用した道具とネアンデルタール人の骨を比較し、指の形状と道具の使用についてさらに理解を深めたいと考えています。古代人類の研究は入手できるサンプル数に限りがあるため困難ですが、3D技術をはじめとする最新テクノロジーを活かすことで、すでに入手できている化石から可能な限り多くの情報を得られるとBardo氏は述べました。

by Gianfranco Goria

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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